東京には、上には上がいる。

地方で羨望の眼差しを向けられる年収1,000万円プレイヤーかて、東京ではさほど珍しいものではなく、「都心で優雅に暮らすには世帯年収2,000万円はないと。」とこぼす、東京婚活女子も少なくない。

とはいえ、十分な稼ぎに、素敵な家庭と子供。客観的に見れば、十分恵まれた生活。これ以上、何を望むものがあるだろうか?

だが、彼らの得体の知れない渇きが満たされることは、決してない。

そんな日本の同年代で上位3%には入るであろう男たちの、東京生活での悲哀に焦点を当てる。

これまでに医者の夫の年収に満足できない恭子、育ちの良さから商社マンの給料では満足できない賢治、高給の代わりに健康を失っていく亮太、資金繰りなどに悩むスタートアップ経営者・洋平に迫ってきた。

今週は?



名前:純一郎
年齢:34歳
職業:外資系金融営業
年収:約1,000万円


お金を湯水のように使えた新卒時代


純一郎の現在の肩書きは、外資系証券会社の営業である。決して規模が大きいとは言えず、金融業界にいる人でさえ、会社名を言っても知らない人もいる。給料は、もちろん想像以上に低い。

純一郎は、今の会社に入る前まで有名な外資系投資銀行にいた。そこでも営業として働いていたが、貰える給料の金額が全く違った。(海外の大学に通っていたため)24歳で入ったその会社は、社会人1年目で年収は1,000万を越えた。5年目になると、年収は2,500万円を越えた。

急にお金を持ち、勘違い度が増していく純一郎。某ブランドの高級スーツに身をまとい、仕事が終わった後から同僚と銀座に繰り出して朝まで飲む日々。交際費だけでも毎月100万円以上は使っていた。

しかし、6年目の春に会社から突如解雇宣告をされた。外資系ならよくある話だが、永遠にこの生活が続くと思っていた純一郎の悲惨な日々はここから始まった。


税金さえ払えない...外資系投資銀行をクビになった彼が見たどん底

年収は2,500万円もあったのに...貯金も無く、税金も払えない30歳


純一郎はクビになってから、リフレッシュも兼ねて中々行けなかったヨーロッパ旅行へ行くことに決めた。解雇されると、会社側からある程度のまとまったお金が振り込まれる。旅行資金はそこから賄ったが、移動は勿論ビジネスクラスで宿泊先は高級ホテル。クビになっても変わらない生活を続けていたため、すぐに資金は尽きた。

旅行から戻り、暫くすればすぐに金融の仕事が見つかると思っていた。そこが、純一郎の大きな誤算だった。

リーマンショック後、金融業界は変わった。年齢が上がれば上がるほど再就職は難しくなる。また、前の会社である程度の金額を貰っていた人は先方も扱いにくいので敬遠される。しかし純一郎側も金額を下げることができず、想像以上に就職先を見つけることは難しかった。

また、純一郎は“外資系”にこだわっていた。元同期たちはまだ現役でバリバリと稼いでいる。自分だけ、日系の金融に行くなんて絶対に言えなかった。

気がつけば、再就職の糸口が見つからないまま、解雇されて早1年が経った。
そんな時に届いた一通の通知に、純一郎は愕然とする。


—税金が払えないー



ご存知の通り、税金は前年度の収入に比例した金額で課税される。純一郎の場合、前年に稼いでいた金額、つまり2,500万円に対する税金の請求が来たのだ。

この時、純一郎の収入はゼロで、手元に税金を払えるほどのお金は残っていなかった。

稼いでいた時、純一郎は稼いだお金を全て遊びとお酒に注ぎ込んでいた。洋服も時計も全身高級ブランド物。貯金などしなくても、この稼ぎなら大丈夫とふんぞり返っていた。盛者必衰の外資金融にいながらも、自分を過大評価し、驕りたかぶっていた自惚れが引き起こした悲劇だった。

結局、親や知人に頭を下げて税金分は何とか工面したが、働いている時にもっと貯めておけばよかったと悔やんでも後の祭りだった。


みんな繋がっている金融業界。彼の現状に上から目線で嘲笑う元同僚...

同僚間での悲しい経済格差


金融業界は狭い。特に外資系は遊ぶ場所も、外で遊んでいるメンバーも似ているため、自然と顔見知りになる。同僚同士は仲が良く、会社を辞めても付き合っている人たちも多い。

純一郎も、未だに元同僚たちと遊んでいる。しかし年齢と共に、その経済格差は開く一方だ。前の会社でまだ頑張っている同僚たちの年収は、3,000万円を越えているだろう。夜な夜なクラブやバーに行って、豪遊しても何の痛手もない。

しかし純一郎の今の年収では、痛手しかない。

厳しいなら、付き合いをやめれば良いのだが、純一郎のプライドがそれを許さない。昔は同じ土俵に立っていたのに、自分だけ降りるなんて認められない。

何より本人は自ら辞めたと言っているが、周りの知人達は純一郎が解雇されたことを知っている。フロント(トレーダー・営業など)の人達が心のどこかでバックオフィス(総務など)を上から目線で見ているように、元同僚はどこか上から目線で純一郎のことを「可哀想」と思っている。



実際はクビになったけれど...無駄なプライドが邪魔をする


純一郎にとって唯一の救いは、規模に関わらず「外資系証券会社で働いている」という体裁を保てている点だ。

「純一郎、今何やってるの?」
「外資系証券会社だよ」

女性からモテるため、元同僚達との格差を隠すため、純一郎にとってこのステータスはなくてはならない物なのだ。

「あ、ごめんコール(電話)来ちゃった」

そう言って、わざと女性がいる前で無駄に英語を話したりもしている。

しかし純一郎は気がついていない。プライドだけが異常に高い、短命な外資系金融マンという肩書きだけでは人は誰もついて来ないということを。


純一郎が無駄なプライドを捨てられた時に、ようやく幸せになれるだろう。しかし今の所、純一郎がプライドを捨てられる気配は全くない。


【これまでの上位3%の悲哀】
vol.1:98年入社・ITバブルの欠片組。年収1,000万越えと共に見えた自分の限界値
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