慌ただしく、そして力強く、東京を生き抜く男たち。

だがしかし、東京で暮らす男は皆、煌きながらも、密かに心の闇を抱え戦っている。

いくら頑張っても果てしなく渇き続けるそんな東京砂漠に、一滴の雫の如く、彼らの闇を癒す存在がいた。

エレナ、29歳。石川県出身。職業、精神科医。

これまで数々の男の悩みを解決し、自身も出会いと別れを経験してきたエレナ。今日は美人形成外科医の悪友「サトコ」が結婚式を迎える。



サトコ、32歳。神奈川県出身。職業、形成外科医。


サトコです。自分で言うのもなんですが、私は物心ついたときから顔も頭も良くて目立っていました。飲食店チェーンを経営する父は地元鎌倉で有名人で、教師さえ私に気を使っていました。「サトコは私たちとは違うから…」という空気は居心地が悪かったですね。

東京女子医大に行って良かった点は、同じ水準の友達がたくさんいたことです。育ちも顔も頭も良い女同士でつるんでいる私たちを見て、選民意識で仲間を選んでいると陰口をたたく人間もいました。でも、私たちだって苦労しているんです。

だって想像してみてください。女の子だもの、メイクやダイエット、恋愛の話がしたい。でも、水準の合わない女にそんな話をすると変な空気になってしまうんです。「サトコは私たちとは違うから…」という、あの卑屈な雰囲気。

普通の話がしたいだけなのに、お互い傷ついてしまう。腹を割ってしゃべるれる友達がいなくて寂しかったし、人一倍気を使っていたんです。

女子医で同志を得た私は、まさに水を得た魚状態。夜な夜なタワマンパーティーに繰り出す私たちは一見「プロ女子大生」風だったでしょう。でも私たちは、男にお金を貰おう、利用しよう、玉の輿に乗ろうなんて気持ちは皆無。

だって私たちは皆実家が裕福で、自分も女医になることが決まっているんです。社会的地位や経済力に全く不安がありませんから、男に求めるものなんてなにもない。その男が生理的に好きだから遊ぶ、とてもシンプル。

見た目しか取柄がない女たちには心から同情します。若さや美しさが失われていくことがさぞかし恐ろしいことでしょう。私たちは、なんにも怖くありません。

大学4年生のクリスマス前後、ペニンシュラ東京の『ステーキ&グリル Peter』に1シーズンで3回も行き、ウェイターに顔を覚えられて気まずい思いをしたのも良い思い出です。


向かうところ敵なしのサトコ。待ち受けていた予想外の罠とは?

超ハイスペック女の恋愛に潜む、恐ろしい罠とは?


私のビジュアルは、「モテ系」の対極。アイラインはがっつり、髪はコテでキツく巻いたスーパーロング。露出の多いボディコンワンピ…。

世間の女子のように男に遠慮して取り繕うようなことはしません。だって、このビジュアルにひるんで逃げ出すような甲斐性のない男には興味がありませんからね。

私に寄ってくる男たちはバイタリティに溢れていますから、実に女役を堪能させてくれました。ラグジュアリーホテルのダイニングで完璧にエスコートを受け、日常的に高価なジュエリーや花束を贈られ、休日には高級車でドライブ。休暇は海外のリゾートへ―。

若くて愚かだった私は気付きませんでした。彼らのそういう優しさは、圧倒的な男の優位性に裏付けられたものだったんです。その愛情は、ほどこしに似ていました。彼らはお金と手間を払って、私を無力化する優越感を買っていたんです。

彼らと恋をすればするほど、私は無力になっていった。

皮肉なものです。私のように派手で強い女ほど、恋愛では無力なんですよ。冴えない女たちのほうが、余程のびのびと恋している。

「女性」性を切り売りして、彼らからサービスを得る―こんな恋愛の繰り返しになんの意味があるんだろう?そんな疑問を抱くようになったころ、慶吾と出会いました。



慶吾、22歳。静岡県出身。職業、俳優の卵。


10歳年下の彼と、本気で恋愛するつもりなんて勿論ありませんでした。ヒモを囲うのもネタになるかもしれないからからかってやろう。その程度でした。

キラキラした目で「恋が好き」と言う慶吾は、私の周りにいた男たちとあまりにも違っていた。こんな子供に何がわかる、と意地悪な気持が沸いて「なんのために恋なんてするのよ」と聞いたんです。

「恋が素敵なのは、好きなものが増えるからだよ」

彼は無邪気そうに答えました。

「思春期を過ぎると、食の好みも考え方も滅多に変わらない。でも、恋すれば、好きな人が好きな物が、僕の好きな物になるんだよ。恋をするほど世界が好きになる」

私はこの10歳年下の青年をまじまじと見つめました。これまで私は、関係を持った男の好きな物を好きになろうと思ったことなんてあったかしら?

慶吾は今までの男たちのように自分の世界を押し付けてくることなく、しなやかに私の世界に興味をもってくれました。私も自然と慶吾の世界を知りたくなった。初めてお芝居も見に行ったし、ラーメン次郎にも行った。

慶吾の柔軟さに興味を持つうち、自分の世界も少しずつ広がっていきました。

結婚なんて一生したくない、と思っていた私だったけれど、気付いたら、そんなこだわりもなくなっていました。

私は、今日、結婚します。


サトコの結婚式。エレナを心から驚かせた新郎の一言とは?

結婚式で再会した女どうしの、あの微妙な空気。


あのサトコが「バージン」ロードを歩くなんてと内心ニヤつきながら、エレナは『帝国ホテル』のチャペルに入った。けれど扉があいて入ってきたサトコはハッとするほど清らかで、エレナは感極まった。

披露宴会場で同じテーブルについたのは、研修医時代の同期女子12人。全員女医で、年齢は29歳から33歳。

彼氏なし、彼氏あり、婚約中、既婚子なし、既婚子あり、既婚彼氏あり、バツ1―。30前後の女は、立場も抱える問題も多様で実にデリケートだ。若いころは何時間でも恋バナで盛り上がれたのに、今はなんとなく互いに気を使って口をつぐんでしまう。

「久々に会えてすっごい楽しいね!」気を遣った一人の発言も白々しく響いた。

しかしこの微妙な空気の一番の理由は、超ハイスぺック男と次々に浮名を流してきたサトコが年下のヒモと結婚、という事実が彼女たちの中に複雑な感情を巻き起こしていたからだ。

サトコも、彼も、それで良いの―?

しかしそれは、全くの杞憂だった。



真の包容力を見せつけた、10歳年下の新郎


式の終盤、サプライズで新郎が新婦への手紙を読んだ。

「あなたの好きなところは、いつも前を向いて突進していくところです」

会場が笑いに包まれるなか、慶吾はこう締めくくった。

「サトコさん。僕は、いつもあなたに憧れています。」

エレナは驚いた。

たいていの男は「あなたを守ります」なんて言うものだ。彼らは自信がなくて、女を弱いものとして扱うことで自分を保っている。サトコがかつて付き合ってきた男たちのように。

慶吾は違った。サトコを尊重し、自分より優っている点を認めている。彼は本当の意味で自信がある男なのだろう。「憧れる」なんてなかなか言えることではない。

さすがはサトコ、本当に良い男と結婚した。エレナは心から2人に拍手喝采を送った。



それから半年後。サトコは元気な男の子を出産した。

「エレナはまだ結婚しないの?」

「うん。皆が言うように『30代独身』が本当に怖いのか、怖いものみたさで待ってる」

「あんたってほんとバカだよねぇ」

サトコはいつものように大声で笑った。

エレナ、29歳。石川県出身。職業、精神科医。彼女は来月、30歳になる。


【これまでの精神科医エレナ】
vol.1:バブル系形成外科女医 vs 清楚系精神科女医。女の衝撃報告から物語は始まる。
vol.2:自信欠乏者な「ザ・国産男」。彼の失恋に効く処方箋は?
vol.3:キレる、泣く、束縛する…結婚で豹変した女。男がやりがちなNG対応とは?
vol.4:エレナも惚れた『セスナ』所有の経営者。その呆れるほど「ゲスな」悩みとは?
vol.5:「ハゲ」は男の最大の武器!今宵もエレナ先生がトンデモ論を連発?
vol.6:診療科別、リアル「医師の恋愛事情」。一番危険な男は、何科の医者?
vol.7:愛するとは、○○○こと。精神科医エレナの出した答えとは
vol.8:なぜエレナは、最高の幸せを自ら投げ捨てたのか?東京で狂った、元彼との歯車
vol.9:不倫を科学する。なぜ女は不倫を繰り返すのか?なぜ既婚者はモテるのか?


『ステーキ&グリル Peter』
ペニンシュラ東京最上階、24階。直通エレベーターを使って降り立てば、待ち受けているのは東京の夜景を一望できる個性的でラグジュアリーな空間。そんな非日常の中でダイナミックにグリルしたステーキやシーフードを堪能すれば、二人の距離もぐっと縮まるはず。