「一億総中流社会」

かつて日本はそう呼ばれていた。

「普通が一番幸せ」と今なお信じる人も多いが、それは本当だろうか?

容姿、学歴、収入。全てにおいて「中流」の少し上に位置する人間は口を揃えてこう言う。

「上を見ればキリがないが、知らなければいい世界もある。」

“中の上”に位置するが故に、上も下も、いろんな世界を見すぎて起こりうる悲劇もある。

これまで登場したのは、男友達に“中の上”と烙印を押されて困惑したメグミ。彼女の出没エリアなどその生態に迫った。また、高望みをしない東大卒エリートサラリーマン・サトルにも話を聞いた。今回登場するのは…?



中の上”の極みの男?大手総合商社勤務の健二、31歳。


今回話を聞かせてくれたのは、東大卒・サトルの高校時代の友人である健二、31歳だ。

彼らは高校時代同じサッカー部だった。サトルはエースで、健二は皆をまとめるキャプテン。

2人と話してみると、そのキャラクターの違いは歴然だ。サトルは涼しい顔で何でもこなす天才肌。一方の健二はひたむきな努力家で、皆を楽しませるムードメーカーだ。高校を卒業しても、2人の友人関係は変わらず続いている。

健二の身長は高く見積もって165センチくらいだろうか。小柄でいつも笑顔を絶やさず、相手に警戒心を与えないタイプだ。

一見爽やかで何の嫌味もない健二。しかし彼の心の中はコンプレックスの塊だった。

「東大にサクッと入ったサトルと比べて、俺なんて本当“中の上”の極みの男ですよ。」

健二は笑いながらそう言った。

彼は現在、誰もが知っているような大手総合商社に勤めている。彼がここに来るまでの道のりは、決して平坦なものではなかったようだ。


”大手総合商社勤務”というカードを手にするまでのひたむきな努力とは…?

「努力は絶対報われる」そう信じた男が歩んだ人生とは?


健二は千葉の公立高校を卒業後、明治大学に入学した。高校3年生の夏までサッカーをやって、そこから猛勉強して無事合格。

「何でも一番を目指すタイプ」だった彼の第一志望は早稲田の政経だった。しかし、夏から始めた勉強量ではとても追いつかずあえなく不合格という結果に。

しかし、明るく前向きな彼はすぐに切り替え、サッカーサークルで友人を作り、塾講師のバイトに精を出しながらキャンパスライフを楽しんだようだ。

しかし、「何でも一番を目指すタイプ」の彼は、早くから就職活動を意識するようになる。希望は総合商社。

昔ほどの学閥はないが、未だ大手総合商社は東大と早慶卒の人間が多いのは事実だ。大学の友人の多くも、日系のメーカーや銀行に主軸を置いていた。商社を受ける者もいたが、記念受験のノリだった。

情報も少なく、仲間もいない。OB訪問しようにもOBがおらず、東大や早慶に行った高校時代の仲間のツテを辿って何とか取り付けた。

そして迎えた就職活動。大手5社全てを受け、奇跡的にそのうちの1社に受かった。「努力は絶対報われる」という信念はやっぱり間違っていなかった、当時はそう確信したという。


商社に入って知った、努力だけでは越えられない壁とは?


憧れの商社マンとして社会人生活をスタートし、同期で仲良くなったのは慶應出身の翔だった。商社の花形と言われるエネルギー系の部署に配属された2人は、お互い励まし合いながら仕事に励んでいた。



しかし、健二は翔との“埋められない格差”に気付く。翔は父親がメガバンクの役員で3歳から12歳までNYで過ごした帰国子女。大学時代も1年間留学し、アメリカのIT系企業でのインターン経験もあった。英語がペラペラなのはもちろん、インターンの経験を活かし海外との取引では抜群の才覚を発揮していた。

今まで自分の努力だけで常に一番を目指してきた健二にとって、初めて“乗り越えられない何か”を感じたという。

「日本は平等な社会だと思っていましたが、商社に入って初めて“上流の世界”を知りました。」

健二は続けてこう言った。

「僕の家は絵に描いたような中流家庭。それでも努力して何とか一流企業に入れました。でもそこから上に行くには、努力だけでは越えられない壁がある気がします」


努力だけではどうしようもないと嘆く健二。恋愛事情にも満足してない?

事務職OLでは物足りない。かと言って美女に弄ばれるのも怖い…


商社に入り、遊び方を覚えた彼はずいぶん派手になったと周りに言われる。自分では変わりないつもりだが、確かに美味しいレストランを随分知って舌も肥えたし、女の子に望むレベルも高くなった。

「今の生活には満足していますが、もしかすると知らなくて良かった世界なのかもしれません。」

そうつぶやいた。

同期の翔は27歳で結婚した。仲間内では早い部類だ。彼女にせっつかれちゃって仕方なく、と満更でもなさそうに言っていたが、相手は証券会社の秘書をしている慶應卒の美女だ。

健二は今も後輩に誘われた食事会に精を出しているが、未だ結婚したいと思う相手はいない。ただの事務職OLでは物足りないし、かと言って他の同期のようにCAやモデル系の美女に手を出すのも怖い。

ふと周りを見渡せば、他の“中の上”仲間はそれなりの幸せを見つけている。東大卒・メーカー勤務のサトルも、会社ではかなりの評価を得て出世街道まっしぐら、来年には結婚すると聞いている。


“中の上”クラスの幸せの極み?友人のタワマンで健二が感じたこととは?


最近何より堪えた出来事は、大学の仲間の引っ越し祝いに千葉に帰ったときだった。大学で一緒だった彼は医療機器メーカーに就職し、年収は800万程度。夫婦共働きで、妻の収入も同じくらいだと言う。

夫婦の家は30階建ての新築のタワーマンション。都内のタワーマンションに引けをとらない、ホテルのようなシックな内装だったという。新婚らしくインテリアにも凝り、料理好きな妻が作った品々は家庭料理とは思えないほど豪勢だった。



「“中の上”が望む幸せの極みを体現しているような気がして、正直羨ましくなってしまったんです」

彼はそう語る。

この先、どう仕事を頑張ってもせいぜい課長止まりだろう。年収は1,000万を超えているが、贅沢暮らしが止められず、貯金は雀の涙ほどだ。

しかしここから腹を括って、郊外でマンションを買う平凡な人生を歩む勇気もない。

自分の努力だけではどうしようもないこと、それを受け止めるにはもう少し時間がかかりそうだ。


次週10.8土曜日更新
“中の上”まで婚活ターゲットを広げてしまったCAの嘆き