夏の日差しも和らぎ、秋の季節が深まりつつある今日この頃。

「忙しい人ほど、遊んでる。」を体現する東京カレンダー読者の皆さんは、休日の過ごし方にもう少しバリエーションが欲しい! と感じている頃なのでは……?

これから本格的に秋のシーズンを迎える中、いつもとは違った休日の楽しみ方をご紹介。前回はボルダリングデートを紹介したが、Jazzに酔いしれる初秋の夜を過ごしてみるのはいかがだろうか。



「ねぇ、ニューヨークで私たちが行ったのって『Blue Note』?」里奈はスマホの画面を見ながら、秀樹に話掛けた。

ワシントン・スクエア・パークが近くにあったのは覚えているけど、たしかそうだと思う。
2人で旅行に行ってから、もう3年が経つのか……

「今度、横浜の赤レンガ倉庫で『Blue Note JAZZ FESTIVAL in Japan』っていうライブが開催されるみたい。ジョージ・ベンソン、マーカス・ミラーなどの大御所から若手の期待アーティスト続々登場、だって。行かない?」


里奈ってジャズ好きだったっけ?

「会社の先輩がジャズ好きで、よく聴きに行ってるみたい。先週は青山にある『BLUE NOTE TOKYO(ブルーノート東京)』に行ったらしくて、色々話を聞いているうちに面白そうだなと思って」



前日の夜から家に泊まりに来た里奈と、恵比寿にあるハワイアンレストラン「TSUNAMI」で昼食を食べた後、品川から京浜東北線で横浜駅まで行き、横浜線に乗り換えて桜木町駅へと向かった。

横浜線に乗り換えると、里奈は電車の窓の外を眺め、みなとみらいの景色の先に遠き日の思い出を浮かべてか、懐かしそうな顔をしている。

「この景色、懐かしいなぁ……中学時代は山手の学校に通ってたの」



里奈と秀樹は、JR桜木町駅の改札を出ると、ゆっくり歩きながら赤レンガ倉庫へ向かって歩いていった。


「ねえ、お父さんとお母さんの最初の出会いについて聞いたことある?」


どうしたの、急に?


「私の両親は、横浜のカフェで出会ったんだって。お母さんの友達が当時付き合っていた彼氏が連れてきたのが、お父さん」


へ〜そうなんだ……

「関内駅の近くに『ルミエール・ド・パリ』っていう純喫茶があるらしいんだけど、2人が初デートで立ち寄ったことがあるって何度も聞かされたの。横浜には中学生までしかいなかったけど、2人の思い出の場所だからちょっと愛着があるんだよね」

2人は汽車道を歩きながら、大観覧車で有名な『よこはまコスモワールド』と『横浜ワールドポータース』の前をゆっくりと通り過ぎて行った。



ビルに視界が遮られることもなく、果てしなく広がる大空を仰ぎ見て、秀樹は満足そうに小さくため息をついた。

初めて来たけど、いいところだね。なんで今まで来なかったんだろう……写真で見たことあるくらいだったよ。

「秀樹の実家がある長崎も港町だし、異国情緒があるところは似てるよね」



『よこはまワールド・ポータース』の手前を過ぎ、アーチ型のホテルの下をくぐり抜けると、眼前には赤レンガ倉庫が見えてきた。時刻は、15:00になろうとしていた。

「思っていたほど混雑はしてなさそうで良かったね。最近は雨の日が多いけど、今日は天気もちょうどよくて風が気持ちいい。」と秀樹の手を引っ張っていく。


ところで、里奈のお目当てのアーティストは?

「今の時間からだとアンドラ・デイとアース・ウィンド・アンド・ファイアは絶対見たいところだよね。今、15:00かぁ〜ちょうどMISIAが歌ってるんじゃないかな?」

会場に近付いていくと、どこからともなくMISIAの歌声が横浜港から吹きつける潮風に乗って聞こえてきた。


「秀樹とライブに来るの、いつぶりだろう……」

2人はライブ会場に着くと、赤レンガ倉庫の大広場にいる人ごみの間を縫って、吸い込まれるように会場の中へと入っていた。


Blue Note ジャズフェスティバルに到着した2人は……


会場内に入ると、そこには大人なジャズのメロディーゆえか、横浜港から吹く優しい潮風のせいか、熱気にあふれるというよりも落ち着いた居心地の良い空間が広がっていた。

ビバップの2大巨匠である「バード・アンド・ディズ」の名にちなんで、広々とした会場には「バードステージ」と「ディズステージ」の2つが設けられ、後者のステージではMISIA×TAKUYA KURODAのスペシャルコラボレーションが繰り広げられていた。

「お〜すごい! ねえ、見て!」

会場と横浜港にかかる横浜ベイブリッジの間には、巨大な豪華客船が鎮座していた。横にいるカップルの会話から、竹芝桟橋に停泊中の『ダイヤモンド・プリンセス』なのだとか。


「豪華客船で世界一周とかしてみたいなぁ。」と目を輝かせて、里奈はスマホでパシャパシャと写真を撮っている。



なぁ、飲み物でも買うか?

「良いね。入場口でドリンクチケットもらったから、ビールでも飲もっか!」

里奈と秀樹はドリンクブースでビールを買うと、小腹を満たすべくブースが立ち並ぶフードエリアへ。列に並びながら乾杯すると、ビールの一口目を飲むなり、里奈は眉間の皺を寄せてたまらなそうな表情を見せる。

「Jazzを聞きながら飲むビールって最高。」と里奈はご満悦。2人は並んだブースでタコライスを買うと、座って食べられる場所を探し始めた。次のライブが始まるまでに、まだ時間がある。

「ねえ、あそこは?」

スタンディング席の芝生の上に空いているスペースを見つけると、里奈はスタスタと速足で場所を確保しに行った。



里奈、そういえばこの前話したいことがあるって言ってなかった?

2人は芝生の上に落ち着くと、一緒にタコライスをつつきながら話の続きを始めた。

「……そう、ごめんね。あの日は2人で夜話せるかなって思ったんだけど、友達何人かが飲み会に合流することになったから、会えなくなっちゃったもんね」

いや、それは大丈夫だよ。


里奈は話す速度を落とし、どこから話をしようか少し迷っているようだ。


「この前、話したじゃん」

何を?


「お父さんが、秀樹に会うのを渋ってるって言ってた話」

ああ……そうだね。



「その話をした後で、お母さんと2人でご飯を食べに行ったんだけど」



「お父さんがね、会っても……って」

え……っ?

里奈たちの座る後ろのディズステージから、わあっと観客の声援とステージの演奏が聞こえてきた。彼女の声はかき消されたが、里奈の明るい表情を見て、秀樹は聞き返すのを止めた。


Jazzに酔いしれながら、秀樹が確認した物


気が付くと、ランドマークタワーの後ろには夕日が落ち、2人の頭上には黄昏時の空が広がっていた。

「アンドラ・デイ! あ、この曲。デビューアルバムのオープニング曲。彼女ね、2015年にデビューしたばかりなんだけど、歌声が凄く良いの」

ハスキーで迫力があるのに、ソフトな歌声が耳に優しい。里奈がジャズにそこまで興味を持ってるとは知らなかったので、少し驚いた。

なんて曲?

「たしか、『Forever Mine』だったかな。『Rise Up』って曲も好きなんだけど、多分今日歌うはずだよ」


観客席から赤レンガ倉庫の方を向くと、夕日が沈んだ後の横浜にはネオンが輝き、赤レンガ倉庫は暖かなオレンジ色の光に照らされて、幻想的な雰囲気が漂っていた。





♪You're broken down and tired

Of living life on a merry-go-round♪


里奈がさっき教えてくれた「Rise Up」の曲が流れ始めた。ステージ上で熱唱するアンドラ・デイの姿を遠目に見ながら、彼女の歌声が横浜港に響き渡るのを感じた。

後ろから里奈の肩に腕を回すと、里奈は「この曲いいでしょ?」と笑顔でこちらを振り返った。



観客を見回すと、ピンクやホワイト、グリーンのステージライトに照らされた顔が並び、ドリンクを片手にステージの方をまっすぐに見つめたり、恋人と寄り添っていたり、思い思いに音楽に身を委ねているようだ。

里奈と付き合って、実はもう4年以上が経過しようとしていた。空気のような存在になりつつあった彼女も、こうして違った空間で2人だけの時間を過ごすと、なくてはならない存在だと改めて感じて胸がチクリと痛んだ。


曲が終わりに近づくと、秀樹は里奈の耳元で囁いた。


さっきの話だけど……
お父さんに気に入ってもらえるように俺も頑張るよ。



秀樹の腕の中で、里奈は前を向いたまま、コクリと頷いた。

里奈の肩に回した腕を彼女の腕の下へ寄せると、秀樹は優しく、そして強く里奈を抱き寄せた。

その瞬間、『Rise Up』の曲が終わり、繋いでいた手を離して拍手をしながらふと夜空を見上げた。そこには、雲の影からぼんやりと満月の姿が。

里奈、見て。

そして秀樹は、大して気にも止めていなかったが、行きの電車で里奈が見ていた「満月占い」の結果に、「今まで見えていなかった未来に光が見える」という言葉があったのを思い出すのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

次週10月2日日曜更新予定
Feel Cycleというパリピでもパリピでなくても楽しめる、NY発祥のサイクリングジムを知ってるか!?

【撮影協力】
Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 実行委員会
株式会社ブルーノート・ジャパン
〒107-0062 東京都港区南青山6-3-16ライカビル
tel:03-3407-5531 fax:03-6419-4059

【撮影】
中野理
http://nakanosatoru.com/

【出演モデル】
鍋島のぞみさん
鍋島さんのインスタグラムはこちら