「俺の部屋に来ない?」

ラグジュアリーブランドのPR、という強く見られがちな外見とは裏腹に、押しに弱いレイナ、28歳。学生時代から付き合っていたシンジと、1年前に別れたばかり。

自由の身になった彼女のスケジュール帳はデートの予定で次々と埋まっていくが、皆なぜかレイナに自分の部屋を見せたがる。

「部屋を見れば、その人の全てが分かる」とはよく言ったものだが、レイナは男たちの選ぶ街と部屋を見ることで、次第にその正体を知っていくことになる。

これまで出会ったのは、広告プランナーで中目黒在住の修二と、3カ月で別れてしまった西麻布在住の健太。元彼のシンジと過ごした上野での思い出に浸っているときに出会った男は…?



「間に合わせのインテリアは許せない」外資系IT企業勤務・洋介のこだわり


最近鳴りやんでいたLINEがまた急に賑やかになってきた。その相手は、2週間前に出会った外資系IT系企業に勤める洋介だ。

彼とは、銀座の『ビストロ バーンヤード ギンザ』での食事会で出会った。この店は、オーガニック野菜と新鮮な肉や魚が楽しめるビストロで、ウッディな店内も小洒落ている。ここでの食事会は女子ウケがいい。



会社の同期4人だという男性陣の中で、洋介は明らかに浮いていた。

ピンクと白のストライプのネクタイに少し光沢がかった紺色のスーツ。ジャケットの下には同色のジレを着ていて、その格好が嫌みなく似合っている。アパレル関係の仕事をしていると言われても違和感がない。

冴えないエンジニア集団の中で彼の格好はひと際目立っており、目の前に座ったレイナは少し緊張していた。

自分より明らかにセンスが良くこだわりを持ってそうな男。恋愛対象としては守備範囲外だ。

その予感は的中した。食事会のお決まりの質問、「どんなタイプが好きか」という話題になったとき、彼はこう言った。

「調理器具とか食器を、近所のスーパーとかで適当に買う人は嫌だな。」

彼曰く、日常で長く使うものこそ質にこだわるべきで、適当に買った物を長く使っている人の神経が信じられないと言う。

レイナはドキッとした。

―うちにあるピーラーは近所のスーパーで買ったやつだ…。

センスが良くて神経質そうな男。女として負けた気になる。こういう男はやっぱりごめんだ。心の中でそう毒づいた。


こだわりの強そうな男は恋愛対象外!?しかしここから予想外の展開が…。

女性慣れしていそうな男の意外な一面


微妙な盛り上がりだった食事会が終わり、幹事同士で二次会に行くかの攻防戦を繰り広げている。その様子を人ごとのように眺めていると、洋介が話しかけてきた。皆といるときは空気を読んで大人しくしていたようだが、どうやらレイナを気に入っていたようだ。

こだわりの強い彼の高いハードルを自分がクリアしたのかと思うと、不覚にも少し心が躍った。

その日以来、洋介から頻繁に連絡を来るようになった。

初めてのデートは、表参道の『コルク』だった。ワイン好きのレイナには嬉しい選択だ。



映画なら何でも見ると言う彼は、小津安二郎やデヴィッド・リンチについて熱く語っている。

映画は好きだけれど、そこまで詳しいという訳でもない。適当に相槌を打っていると、その様子に気付いたのか「休日は何をしているの?」と話を振ってくる。

見た目がお洒落なので女性慣れしているかと思いきや、不器用そうなタイプだ。映画の話も会話が途切れないために必死にしている感じだったし、食事中もレイナの目ではなく眉間のあたりをじっと見ている。

完全無敵なヒーローの弱みを見せられると、レイナは途端に弱くなる。結局、次のデートの約束をしてその日は別れた。


映画好きな彼のこだわりの○○が、口説き道具に?


2回目のデートは、代々木公園だった。彼の家は代々木公園の近くで、よく行くらしい。土日は家族連れも多く、「見ているだけで癒される」と言う。



今週末、代々木公園ではタイフェスをやるらしく、是非一緒に行きたいと誘われたのだった。

約束の土曜日。13時に駅で待ち合わせて向かうと、既に代々木公園は大混雑だった。シンハ―片手に、ようやく買えたパッタイやグリーンカレーを食べ、辺りをぶらつく。

お洒落なレストランも大好きだけれど、昼間のカジュアルなデートは2人の距離をより近くする。開放的な外デートは大好きだ。

その後場所を変え、『Fuglen Tokyo』で一息入れた。時刻は18時にもならない。屋台でお腹はいっぱいだし、土曜日のこの時間にお別れするのも寂しい。この後どうするか、気まずい時間が流れる。

すると、彼は思いついたようにこう言った。

「最近、映画の鑑賞用にプロジェクターを買ったんだ。僕の家に来ない?」

2回目のデートで家に行くのも気がひけたが、これ以上食事はできないし、映画館に行く元気もない。それに、プロジェクターで映画鑑賞というのも、本格的で少し惹かれた。

「家でDVD見よう」だったら少し警戒してしまうのに、この差は何だろう。自分の単純さに呆れつつも、彼の家に行くことになった。


彼が代々木公園に住む、あまりにも“らしい”理由とは?

靴好きな彼のシューズボックスを見て思わずつぶやいたことは…。


彼の家は、富ヶ谷2丁目の信号近くにある14階建のマンションだった。部屋は最上階の14階にある1LDK。家賃は20万円ほどらしい。はっきりとした年収を聞いたことはないが、20代後半で年収1,000万円を超えるくらいだろう。



リビングは濃いブラウンの家具で統一されており、中心にはカーキ色のカリモクのソファが置かれていた。洋介らしく落ち着いた小洒落た部屋だ。収納にもこだわっているようで、ブレスレットや時計は、鹿の角のオブジェに無造作に巻きつけられている。

部屋は彼のこだわりの物で溢れていた。自転車が好きだという彼は、『BLUE LUG』やネットショップなどで買ったパーツを自ら組み立て、1台にかかる金額は気づけば100万円ほどになることもあるらしい。

また、靴も好きらしく、玄関のシューズボックスは数々のブランドのもので溢れ返っていた。GUCCIやPRADA、一番のお気に入りはセルジオロッシらしい。

セルジオロッシの靴を履く男。

彼とのデートで下手な靴は履いて行けないな。心の中でそうつぶやいた。


「どういう人生を送りたいか」洋介が代々木公園に住む理由


洋介は、就職してからずっと代々木公園の近くに住んでいるという。職場は六本木なので乗り換えにも不便な気がしたレイナは、なぜこの地にこだわるのか、何気なく聞いてみた。すると彼は熱っぽくこう語った。

「家を決めるときは、どういう週末を送りたいか?どういう人生を送りたいか?ということを重視しているかな。」

大好きな自転車で代々木公園に行って本を読んだり音楽を聞いたりする。それが、何事にも変えられない貴重な時間だと言う。彼のこだわりは何事においても徹底している。

あまり映画に詳しくないレイナに気を遣ったのか、その日は結局、家にあるワインを飲みながら、プロジェクターで「レオン」を見た。

壁一面に映る若き日のナタリー・ポートマンの表情に一気に引き寄せられる。2人で1枚のブランケットにうずくまりながら、疲れていたのか彼は途中で寝てしまった。レイナの方が酒に強いため、男性の部屋に来るといつもこのパターンだ。

寝ている彼を見ながら、何かを期待していた自分に気づく。

好きだとかその場限りの甘いささやきは要らない。最終的に傷ついたとしても、週末になると猛烈に押し寄せてくるこの寂しさを少しでも埋めてくれればいいのに。

西麻布在住の健太と別れて以来、レイナの心は荒れていた。

彼のこだわりの部屋を、改めて見渡す。この部屋は洋介の世界で完結されていて、入り込む隙が一切ない。そう思えた。

―深入りする前に、退散しよう。

自分の形跡を何も残していないか確認して、レイナはそっと家を出た。


次週10.7金曜日更新
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