年収4,000万円の眼科医、青山ヒロムとタッグを組んで東京恋愛ジャングルを楽しむ雑食系男子・植木くん。

しかし、あろうことか、彼は青山ヒロムに想いを寄せる菜々緒を愛してしまった。美しく猟奇的な彼女に恋をした植木くんの運命は・・・?


男が戸籍をも差し出すとき。


男は、できるだけ自由でいたい、結婚したくないなんてのは都市伝説で、それは、そこまで夢中になれる女に出会えていないからです。僕は、一生結婚どころか、彼女だっていらないと思っていました。

だけど、自分にとって、雲の上のような、背伸びしても手に入れられないかもしれない、そんな女性に出会ったとき、男は、一も二もなく、その女性を手に入れようと躍起になって決意を固めるわけです。

その女性を手に入れられるのであれば、通帳だろうが、戸籍だろうが、喜んで差し出すのだと思いますよ。



「何で、ハリーウィンストンなの?」

一世一代のプロポーズをしたつもりの僕に、菜々緒さんから返ってきた言葉がこれでした。

サラリーマンが平均的に送るエンゲージリングの平均購入価格は半数が20〜40万円、0.3カラット程度が相場だと聞きました。が、僕が彼女に送ったのは、ハリーウィンストンの0.7カラット。お値段150万円。

類稀な美しさを持つ僕の彼女にアベレージを送るわけにはいきません。やはり、女王の貫禄漂う菜々緒に相応しいのは、ハリーウィンストン以外にないだろうと自信満々だった僕の鼻をへし折るような菜々緒の言葉。

「代理店って、クライアントの希望を最大限汲み取るものじゃないの?結婚をあなたが申し込む場合、クライアントは誰?」

「・・・菜々緒だよね。」

「だったら、私の希望を最大限に汲み取る提案をしなさいよ。女だったらとりあえずハリーウィンストン送っておけば間違いないなんて安直なのよ、考えが。」

ロマンチックでドラマチックなプロポーズが、何故か、上司からの詰めのような張り詰めた空気になっていることに呆然とします。ボーナスを全額つぎ込んだハリーウィンストン。僕の財布が泣いています。


美しい菜々緒をゲットした植木くんだが、早速、菜々緒の強欲さに辟易・・・?

酔っ払った時だけだと思っていた菜々緒ですが、実は、心を許した人には、ワガママのフルコースを披露してくれるとわかったのは、交際を許してもらってから、そんなに時間はかかりませんでした。

それでも、見た目が好きというのは強いもので、大抵のワガママなら、ほぼ許容できてしまうということには僕もびっくりです。

とはいえ、です。

男として、今回ばかりは喜んで欲しかった僕は、慣れっことはいえ、それなりにダメージを受けながら、負傷兵のように、傷を抑えながら這いつくばって前へ進みます。



「菜々緒は、どこのブランドが良かったの?」

飛んで行った金額と、一世一代のプロポーズの大ゴケと、これから買い直さなければいけないかもしれない2つ目の指輪の出費を思うと、心の中でがっくりしながら声を絞り出した僕に菜々緒はこう言いました。


「植木くんのお財布を痛ませない指輪が良かったのに。」

ふてくされた顔をした菜々緒は、続けてこう言いました。

「これ150万くらいでしょ?夫婦になるんだから、こんなところで無理して欲しくなかった。植木くんからもらえるんだったら、私スタージュエリーで十分嬉しいのに。」

ツンデレという言葉は古いのかもしれませんが、ワガママで女王様のような彼女が、時々見せるとびっきり可愛い一面に、僕は一生惚れ続けていくのでしょう。多分一生彼女には勝てない。

僕の、最低で最高のプロポーズの思い出です。


この女性には勝てない。そう思ったとき植木くんは結婚を決めた。一方、菜々緒は?”妥協結婚”なのか?

僕にとっては、出会った女性の中で、ぶっちぎりナンバー1の女性との結婚。最高に幸せですが、皆が皆そうだとは限りません。

それは、悲しいことに、菜々緒もしかり。ヒロム氏との恋に破れての僕ですから、それは妥協での結婚かもしれません。

ヒロム氏はどうでしょう?慶子さんというやはり特別な女性が心の中にいながら、過去の恋人との結婚は進歩がないとして避けたがったヒロム氏の遥さんとの結婚は、最高の結婚なのでしょうか?

Mr.Childrenの名曲『CROSS ROAD』の中での一節にこんな歌詞があります。



誰もが胸の奥に秘めた 迷いの中で
手にしたぬくもりを それぞれに抱きしめて
新たなる道を行く


ヒロム氏も、菜々緒も、きっと心の中で、秘めた想いを抱えながら、踏み出す覚悟を持って進めた一歩です。僕たちはそれを祝福して、胸の中の曇りすらも晴らせるような未来を作る必要があります。

落雷のようなドラマチックな電撃結婚から、じっくりとダシをとるように絆が濃くなるような結婚、どれが正解かはわかりませんが、結局のところ、ゴールテープまで走りきった時の幸せの感じ方で結論づける必要がありそうですね。


完.