「俺の部屋に来ない?」

ラグジュアリーブランドのPRという強く見られがちな外見とは裏腹に、押しに弱いレイナ、28歳。長く付き合った彼氏と別れ、色んな男とデートを重ねる。

「部屋を見れば、その人の全てが分かる」とはよく言ったものだが、レイナは男たちの選ぶ街と部屋を見ることで、次第にその正体を知っていくことになる。

これまで行った部屋は、中目黒在住の修二、西麻布在住の健太、上野在住の元彼シンジ、代々木公園在住のお洒落ボーイ洋介。

今日のデートの相手は…?



女子会での恋愛トーク「その場限りの関係を楽しめるか否か」


28歳ともなると、周りの恋愛観もさまざまだ。既婚者、離婚調停中、独り身、婚活中。

その日はいつものメンバーで女子会だった。場所は最近よく使う『CICADA』だ。



この日は、遊び人・由香の話題で持ち切りだった。5人のメンバーのうち、独身なのは由香とレイナだけなので、いつも「ネタ」をせがまれる。

小悪魔系の由香は、可愛らしい見た目とは反対の肉食系。今進行中の男性との恋愛話をあけっぴろげに話している。彼女曰く、一夜限りの男性でも「そのときは真剣に恋をしている」が、目を覚めるとすっかり醒めてしまうらしい。

自分に話が回ってこないか、レイナは内心ヒヤヒヤしていた。

レイナは、男性とその場限りの関係を楽しめる勇気はない。会社では強気キャラを通しているが、根は小心者だ。色んな男とデートをしても、一線は超えないよう常に細心の注意を払ってきた。

しかし最近、ある苦い思いをしてしまった。


小心者レイナの、苦い思い出とは…?

イケメン商社マン・浩志の、直球過ぎな誘い方


それは、総合商社勤務の浩志と出会ったことが発端だ。

大学時代の男友達・ナオキと恵比寿で飲んでいたときに、遅れてやってききたのが彼だった。浩志は31歳。ナオキの会社の先輩らしい。

適度に筋肉がついた体は理想的な「細マッチョ」で、180センチほどの長身にグレーのスーツが、細身の体によく似合っている。彫が深く濃い顔立ちで、まさに正統派のイケメンだ。

「レイナちゃん、今日はお邪魔しちゃってごめんね。」

そう言って微笑む彼の歯は、歯磨き粉のCMに出てくるような輝きだ。この笑顔に何人の女子が恋に落ちているのだろう。そんな思いが胸によぎる。

レイナはあっさりとしたしょうゆ顔が好きで、ソース顔のイケメンには全く興味がない。しかし、彼の顔を見ているとイケメン好きな子の気持ちが分かる気がした。見ているだけで華やいだ気分になれるからだ。

その日は結局、3人で大学生のように飲んで騒いだ。食事後は近くのバーに行き、それでも飲み足りなかったので、最後はカラオケ屋に行った。

浩志とナオキは、商社マンらしく息の合った調子でミスチルを歌う。歌いながらも2人はずっと飲ませ合っている。大好きなミスチルも、2人の手にかかればただのコールだ。大学生のように無邪気にはしゃぐ2人に思わず笑ってしまった。

しかし酒に弱いナオキは、とうとうカラオケ屋でつぶれてしまった。昔から変わらず酒に飲まれるタイプだ。

浩志と協力してナオキを広尾の家まで送り届け、時刻は深夜2時を回っていた。彼は「やれやれ」と困った顔でこちらに視線を向ける。イケメンは困った顔もサマになる。

そんなことを考えていたら、甘えた口調で「うちに来ない?」と誘ってきた。彼の家はここからすぐらしい。

その直球すぎる誘いに心が揺れた。プロジェクターを理由に家に誘ってきた洋介と違い、真っ直ぐで男らしい誘いに思える。イケメンは得だ。


レイナが引いてしまった、彼の「男くさい」部屋とは?


彼の家は広尾駅から外苑西通りを右に曲がり、商店街の通り沿いにある7階建てのマンションだった。広尾5丁目、駅からは5分もかからないだろう。



以前は西麻布に住んでいたようだが、適度に生活感のあるこのエリアが気に入ったらしい。確かにこの通りは、生活感のあるスーパーとお洒落なカフェが混在していて、歩いているだけで楽しそうだ。



彼の部屋は最上階の7階、30平米ほどの1Kだった。部屋はコルビジェの二人掛けの革張りのソファを中心に、黒のインテリアで統一されていた。

しかし、そのシックな雰囲気を打ち壊すかのように、彼の部屋はあらゆる物で溢れ返っていた。収納クローゼットに収まりきらないのか、ハンガーにかかったワイシャツはベッドにまで浸食されている。

嘘か本当か分からないが、「男友達がよく泊まりに来る」らしく、プレイステーションやWiiが散乱していたり、パジャマ用のTシャツやハーフパンツが大量にあったり、”男らし過ぎる”部屋だった。


その日は結局、部屋に入って一息ついた瞬間痛いくらいに抱きしめられ、そのまま朝を迎えてしまった。


「その場限りの関係」は続くのか?

初めてのデート。彼が指定した驚きの店とは?


その後、浩志から何度か連絡があった。そして、初めて会った日から1週間後の土曜日に、2人で会うことになった。

待ち合わせに指定されたのは、恵比寿横町だった。

恵比寿横町は、友人や気の置けない仲間と行くところで、2人きりで行く所じゃない。デートで行くには理由がいくつか考えられる。

1つは、単純に軽く扱われているという可能性。2つ目は「こんなところにデートで行っちゃう俺ってカッコイイ」という勘違い系。

どちらにしろ、がっかりした気分は変わらない

しかし、その日レイナは、ワイガヤ系の店を敢えて選ぶ3つ目の理由を知ることになる。

今日は2人なので、初めは少し探り合いながらの会話だった。近況報告をしたり、共通の友人であるナオキの話をしたり。しかし、そんな話題も持って30分。

レイナは気づいてしまった。浩志はとにかく話がつまらない男だった。洋介のように自分語りをする訳でもなく、元彼シンジのように毒舌を吐きながらうまく人をイジるタイプでもない。

今日も口説こうとしているのか、「レイナちゃんってキャリアウーマンて感じで格好いいよね」などと褒めてはくるものの、その言葉も上滑りしていて、会話がうまく発展しない。

しかし、店員さんが話しかけてくれたり、ギターの弾き語りを見て一緒に歌ったり、店を気軽に変えたり、恵比寿横町での時間はそこまで気まずい思いをしなくて済んだ。


「イケメンは話がつまらない」は本当だった?


彼が恵比寿横町を選んだ理由が、何となく分かった。

浩志は「顔」以外で異性に自分をアピールしたことがないのだろう。元彼シンジのこんな話を思い出す。



「俺はイケメンには勝てない、って小学校6年生くらいのときに気づいたんだよ。そこからはさ、どうすれば女の子が喜んでくれるか必死に考えたよ。」

男の子は小さい時から大変だなぁ。あのときは呑気にそう思っていた。今思うとその努力が涙ぐましい。浩志はきっと、そんなことを考えたこともないのだろう。

結局その日は、レイナも必死に話題を振って、ヘトヘトになって終わった。疲れてしまったので、その日は早々に帰った。

その後、『アッピア』に行こうと誘われたが、断ってしまった。『アッピア』には行きたいが、彼とは行きたくない。

今思えば、ナオキも広尾だし、他の遊び仲間も近くに住んでいると聞いた。ナオキはお調子者で口が達者なので、あまり喋らない浩志とはいいコンビだ。未だしょっちゅう西麻布や六本木で遊んでいるという。

浩志にとって、気軽に遊べる男友達が近くにいるのは大切なことだろう。そんな気がした。


次週10.14金曜日更新
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