大手IT系メディア企業CNAの初・女性執行役員に抜擢された、リサ。弱冠28歳での就任だった。

執行役員就任早々、早速社長の平尾太一から1年以内に四半期営業利益10億円という難題を出されたリサ、同期のこぶちゃんにアドバイスを受け動画コンテンツに目をつけるが、社長の平尾太一は和田マリコ率いる「B Channel」の買収を既に決めていた。

こうして新・執行役員マリコが誕生し、CNAに次々と旋風を巻き起こす…?



やり手執行役員・マリコが平尾太一に話した「B Channel」の戦略


リサとマリコ。2人の明暗はくっきり分かれていた。事業不振に悩むリサと、絶好調のマリコ。その勢力図は徐々に変わっていた。

苦戦するリサの様子を見ていた社長の平尾太一は気が気でなかった。しかし、加藤祐介と楽しそうに話す姿を見て余計な口は出すまい、そう騒ぎ立つ心を静め社長室に戻ろうとした時、もう一人の女執行役員であるマリコに呼び止められた。

社長室に入ると、マリコはにこやかに説明を始めた。黒いタイトワンピースのノースリーブから伸びる腕はすらりと細く美しい。これでリサのようにもう少し可愛げがある性格だったら…とついリサのことを思い出す。

「女芸人の渡辺丸美を起用したTVCM?」

今ノリに乗っている動画事業部だったが、さらに知名度を向上させるために、「B Channel」のテレビCMを制作したい、というのがマリコの相談だった。

渡辺丸美は、愛嬌のある顔立ちとぽっちゃりとした体型で、今最も人気のある女芸人だ。彼女を「可愛いは、作れる!」がコンセプトの「B Channel」のイメージキャラクターに抜擢し、更なる知名度を上げようという目論見だ。

買収して早くもCNAの顔になりつつある「B Channel」だ。ここでもう一段階知名度を上げれば、ビジネスチャンスに広がる。平尾太一はすぐそのアイデアを承認した。

「次から次へとよくやる女だな…。」

平尾太一はつぶやいた。


やり手執行役員・マリコの社内評は…?

「ルブタンを履いた悪魔」マリコがそう言われる理由とは?


一方、マリコはこの追い風を逃すまいと必死に施策を練っていた。テレビCMもその一環だ。チャンスが少しでもあるときにモノにしておかないと、IT業界ではすぐ忘れ去られてしまう。スピードが何より大切だ。

CNA入社後は怖いくらいに順調だった。社内で2人目となる女性執行役員への就任、そして就任後すぐに動画再生回数月間3億回突破。しかし、社内では次々に業務改革を断行しているため、CAN内ではひそかにこう囁かれている。

「ルブタンを履いた悪魔」

平尾太一や他の取締役には愛嬌を振りまいているが(オジさまたちは皆メロメロだ)、部下に対しては徹底して厳しく接しているためこうした悪評が立っている。

しかし、マリコは全く気にしていなかった。ビジネスは結果が全てだ。こんなことをいちいち気にしていたらやっていけない。


リサ vs マリコ。初めての直接対決がついに…


マリコがますます孤独を深めていたある日、社長の平尾太一からイベント出演の依頼があった。平尾太一の大学時代の後輩が運営するファッションECサイトのイベントで、テーマは「できる働きマン女子必見!今後のキャリアの見据え方」というものだった。

社長直々のこの出演依頼に、マリコは鼻高々だった。

しかし、秘書を通じて事前に渡された企画書を見て、マリコは思わず舌打ちした。もう1人のパネラーとして、リサの名前があったからだ。



イベント当日。司会者が同じ質問を両者にしながら、その答えをもとにトークを展開していく。事前にアンケートに答え、打ち合わせもしたので、お互いの言うことは何となく分かっていた。

リサはこうしたイベントに不慣れなのか、大きな目を見開きオドオドした様子だ。仕事はできるらしいが擦れてない。リサのこういう感じが、皆に好かれる秘訣なのだろう。社内で嫌われ者のマリコにとっては面白くない。

トークは事前の打ち合わせ通り、スムーズに進行していった。リサもほっとしたのか、大分砕けた様子でその場を楽しんでいる。最近のプライベートでの失敗談を話して会場を沸かせている。

マリコは焦った。キャリアウーマン然とした近寄りがたいマリコと、気さくで親しみやすいリサ。これでは、女性人気は完全に後者に軍配が上がるだろう。

ここでは終われない。そう思ったマリコは、最後に罠をかけた。

最後の質問は、「出世すると責任ばかり増えるので、昇進試験を受けるか悩んでいます。御二方が考える出世のメリットはなんですか?」というものだった。

マリコは答えた。

「裁量と時間ですね。責任は増えましたが、自分の裁量が増えることによって、ミーティングなどの時間も自由に設定できます。うちの部署は15時以降のミーティングは禁止しているので、皆朝の内から必死に仕事しています。その方が効率も良く、実績も上がっています。」

さらにこれ以上ないくらいの穏やかな笑みでこう付け加える。

「あとは何よりのメリットは、仲間が増えることではないでしょうか。目標に対して、一緒に走ってくれる仲間が増える。この仲間は何より得難い宝物です。」

バリキャリ系のキャリアウーマンの「仲間」という発言に、会場が静まり返った。さすが、と聞きいっている様子だ。今まで全く隙を見せなかった完璧ウーマンが人情味あふれる発言をしているのだ。会場の空気は一気にマリコのものになった。

一方のリサはその質問に対して完全にしどろもどろになっていた。

それもそのはず、最後の「仲間」の話は、リサが最後の締めとして話す予定だったからだ。


イベント終了後の舞台裏。女執行役員2人が火花を散らす…!?

マリコがヒールを履き替える唯一の時間とは?


イベント終了後、「仲間」発言が功を奏したのか、マリコの周りには人で溢れ返った。手の届かないような完璧ウーマンが少し隙を見せる。そうした自己演出法を分かってはいたが、安売りしたくない。今日は出血大サービスだ。

社内での対決は今のところ負けているが、今日は勝った。マリコは晴れ晴れとした気持ちで帰ろうとした。すると少し鼻にかかった声で名前を呼ばれた。リサだった。

「今日はありがとうございました。マリコさんの話、初めて聞いたけどすごく勉強になった。」

まるで自分の答えが盗られたなんて思ってないかのような表情だ。

「仲間って大切ですよね。マリコさんもそう思っていたなんて、嬉しくなっちゃった。」

マリコはふんっと鼻を鳴らし、帰り支度を始めた。

その日、マリコは平尾太一と約束をしていた。マリコが企画した渡辺丸美のCM完成を労う慰労会だ。大きな事業が終わった時、区切りとして平尾太一はこうして労ってくれるのだ。

例えルーティンの誘いだったとしても、マリコの足は浮足立った。常にポーカーフェイスで冷静な平尾太一は、ドM気質のマリコのタイプなのだ。

マリコは社内に戻り平尾太一と合流した。社内のエントランスを、にこりともしない平尾太一とともに歩き出す。

―良かった。低めのヒールに履き替えておいて…。



180センチ近くある平尾太一だが、170センチのマリコは気をつけないと同じ目線になってしまうのだった。好きな男と食事をする。「ルブタンを履いた悪魔」がヒールを脱ぐ、唯一の日だ。


リサが見せた涙。そのとき現れたのは…?


「今日はとんだ一日だったな…。」

リサはイベント会場からの帰り道、大きく溜息をついた。初めての大人数のイベントでマリコとのセッション。背伸びをせず、ありのままの自分でいこう。その作戦は途中までうまくいっていた。しかし、最後の質問でしくじった。用意されていた質問をマリコに言われてしまい、自分の番になって頭が真っ白になってしまった。

しかも、リサが一番大切にしている「仲間」という言葉を、あっさりと盗られてしまった。

最後にマリコに話しかけたのは、あのまま引きさがったら負けを認めることになるからだ。本当は心底悔しかった。

会社のエントランスに着くと、遠目から長身の美男美女の姿が見えた。

―平尾太一とマリコだった。

社内で堂々と2人で歩いているのだから、きっと平尾太一恒例の「慰労会」のはずだ。それなのに、この胸騒ぎは何なのだろう。

リサは思わず身を隠した。

気持ちを落ち着かせようと、社内のカフェテリアスペースでコーヒーを飲んで一息ついた。イベントでの失態、平尾太一とマリコが楽しそうに歩く姿。何だか今日は散々だ。

「リサ、今日はお疲れ様。イベント、大丈夫だった?」

顔を上げると、そこにいたのは加藤祐介だった。

「ああいうイベント、苦手だろ?よく頑張ったな。」

涙が溢れ出て、止まらなくなった。


次週10.20木曜更新
加藤祐介の優しい言葉にリサは…?