小池百合子東京都知事が築地市場からの移転延期を決めた豊洲新市場。土壌汚染対策として実施したとされていた盛土が一部で行われていなかったことが発覚するなど、ずさんな事業の実態が明るみに出ている。

一方、移転の延期は豊洲市場へのアクセス手段として準備を進めてきた交通機関にも無関係ではない。都バスの新路線開設や路線の延伸は、移転の延期に合わせて先送りに。臨海部の足である新交通システム「ゆりかもめ」は、新市場の開場も見込んだ始発時刻の繰り上げなどを含むダイヤ改正を10月に行うが、11月に入っても市場への利用者はいない状態が続くことになる。






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――人影まばらな市場前駅

新市場の最寄り駅となる、新交通システムゆりかもめの「市場前駅」。豊洲市場の最寄り駅として2006年に開業したが、今のところ、周囲には市場の真新しい建物が並ぶ以外はほぼ何もなく、お台場などへの乗客で賑わうゆりかもめの車両から降りる乗客の姿はほとんど見られない。2014年度の東京都統計年鑑によると同駅の年間乗降客数は20万9,000人、1日あたりに直せば570人ほどだ。

ゆりかもめの駅で利用者数が最少なのはもちろん、23区内の駅としても極めて少ないことから、ネット上では「都会の秘境駅」などと呼ばれることもある同駅だが、その近く、ゆりかもめの高架沿いの道路に、シートをかぶったままのバス停らしき標識が建っている。新市場へのバスが停まるはずの停留所だ。


バス路線もあわせて延期

東京都交通局によると、都営バスは豊洲市場への移転に合わせ、現在JR新橋駅と築地市場を結んで走っている「市01」系統の延伸と、東京メトロ東西線の東陽町駅と豊洲市場を結ぶ新路線を計画しており、移転に合わせて運行を開始できるよう準備を進めてきた。

路線延伸や新路線開設の手続きはすでに進めており、認可が出れば運行を始められる状態だという。

だが、市場の移転が延期となったことから、バスについても運行は延期の方向に。バス停も「残念ですが(当面は)使われないことに」と都バスの担当者は語る。市場移転の時期は見通せないままだが、今後も「運行に向けた手続きなどは粛々と進めていく」という。


「市場前駅」を抱えるゆりかもめも、当然ながら移転と無関係ではない。同線はこの10月1日に約5年ぶりとなるダイヤ改正を行うが、今回は列車の増発に加えて始発列車の時刻繰り上げも行う。ゆりかもめの豊洲駅発始発列車は、現行のダイヤだと5時41分。これを5時15分に早め、さらに5時台の本数も現行の2本から4本に増やす。

改正について、ゆりかもめの担当者は「現行ダイヤの始発時刻が遅いという要望が以前からあったほか、混雑緩和などさまざまな理由があるが、豊洲市場の移転も理由の一つ」と話す。始発列車の時刻繰り上げについては「市場側からも要望があった」という。

東京都中央卸売市場によると、ゆりかもめの始発時刻繰り上げは「現在の(都営地下鉄大江戸線)築地市場駅と同じくらいの時刻に豊洲市場に到着できるように」との狙いで調整を図ったという。現在の大江戸線築地市場駅の始発列車時刻は、平日・休日ともに大門方面行きが5時20分、両国方面行きが5時22分。ゆりかもめの新ダイヤでは、豊洲発の列車が5時18分、有明からの列車が5時23分に市場前駅に到着するため、ほぼ同じ時間に市場に着くことができる。

ダイヤ改正を行う理由の一つでもある市場の移転が延期されたとはいえ、ゆりかもめ側にとっては「すでに市場前駅は開業しているため、特に影響はない」(同社の担当者)ほか、沿線利用者にとっては増発で利便性が向上するため、ダイヤ改正自体のメリットはある。だが、現状では11月以降も新市場に向かう買い出し客はいないまま、市場前駅が「都会の秘境駅」である状況が続くだろう。


有楽町線もあわせて改正

豊洲市場に直接アクセスできる交通機関は都バスとゆりかもめの2つだが、関連してダイヤ改正を行う鉄道もある。東京メトロ有楽町線だ。

同線は10月26日に「早朝時間帯における東京臨海エリアへのアクセス向上」を目的としたダイヤ改正を行う。今回のダイヤ改正では、平日、土休日ともに現行の始発列車よりも早い有楽町5時01分発の新木場行きを新たに増発し、有楽町―新木場間各駅の始発列車時刻を現在よりも約18分繰り上げる。

だが、同線は今年の3月26日にダイヤ改正を行ったばかり。1本のみの増発とはいえ、約半年で再度のダイヤ改正実施は比較的珍しい。東京メトロによると、今回の改正の理由は「豊洲でゆりかもめの始発列車に接続するため」だ。新たに増発される列車は豊洲に5時09分に到着するため、新ダイヤで5時15分発となるゆりかもめの豊洲発始発列車に間に合う。

東京メトロには特に市場側からの要望などはなかったというが、運行時間を考えれば本来の主な利用者は市場への買出し客となるであろう列車だ。お台場などでのイベント時には重宝されそうな始発繰り上げだが、市場へ向かう利用者がいない状態では、ふだんはガラガラの状態が続きそうだ。


――交通にも影響及ぼす移転問題

豊洲市場については、築地と比べた際の交通アクセスの不便さが以前から指摘されてきた。東京都中央卸売市場のサイトにあるQ&Aのコーナーには「豊洲市場へのアクセスが脆弱で、買出人にとって不便ではないか」との項目があり、この疑問に対して「既存の「ゆりかもめ」の運行時刻の前倒しや新たなバス路線を考えています」との回答が掲載されている。

実際にゆりかもめの運行時刻前倒しは近くダイヤ改正で実現し、バス路線についても準備は進められてきた。だが、市場の移転自体が今後どうなるのかは先行きが見えない状況だ。当初の予定通りならあと2カ月ほどで移転という段階になっての大騒動。小池都知事は月内に内部調査の結果をまとめるとしているが、豊洲市場をめぐる混乱の行方は見通せない。


著者
小佐野 景寿 :東洋経済 記者

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