典型的な結婚できない女、杏子、32歳。

慶應大学卒業後、丸の内の某外資系金融でセールス職に就き、年収は2,000万円を優に超える。

美人だがプライドが高くワガママな彼女は、男運が悪く全くモテない。さらにハイスペックゆえ、男が近寄りたくない女ナンバーワンとまで噂されている。

婚活に危機感を持ち始めた杏子は、結婚相談所に登録した。婚活アドバイザーの直人からアドバイスを受けつつ、2回目のマッチング相手・正木とは、イイ感じに。しかし、直人からは3回目のマッチングを勧められてしまい...?



キャサリン妃ご愛用の、ISSAのワンピースに身を包んだ杏子。しかし、その心境は...


週末の夕方、杏子は恵比寿のウェスティンホテルに足を運んでいた。3人目のマッチング相手、桜田に会うためである。

杏子は秋らしく、ボルドー色のISSAのワンピースに身を包んでいた。キャサリン妃愛用で有名なこのブランドの服は、長身でスリムな杏子の身体を、さらに美しく上品に演出してくれる。

ドアマンたちが杏子に送る視線は、一段と温かい。当然だ。自分ほどゴージャスに、このハイクラスなホテルのロビーを彩らせる女も、中々いないだろう。

しかし、お気に入りの服を着ても、ドアマンたちに賞賛の眼差しを向けられても、杏子の心はイマイチ後ろ向きであった。

待てど暮らせど、正木からの連絡がなかったからだ。

―あの夜は、一体何だったの...。

正木の抱擁を思い出すたびに、杏子の胸の奥は、ズキンと痛む。

しかしそんな状態でも、傷心に暮れている暇など一切ないと、直人は言った。

他の男のことで胸を痛めながら、新規の男ともマッチングに挑まなければならぬとは、婚活とは、なんと酷な道なのだろう。


3度目のマッチング!相手はどんな男性...?

好条件にも関わらず、難アリな性格のみが災いする男


マッチングも3度目ともなれば、これまでのような緊張感も、あまりなかった。杏子はいつの間にやら、婚活初心者ではなくなっているようだ。

余裕の足取りで『ザ・ラウンジ』の席へ向かうと、プロフィール写真で見たのと同じ、一本の線だけで成り立ったような幸薄顔の男が、すでに恐縮した面持ちで座っていた。

「...はじめまして...。桜田と申します...。ど、どうぞ、座ってください。」

桜田という男は、消えそうな細い声で言った。目線は斜め下の杏子の肩あたりを向いており、どうやら緊張で杏子を直視できない様子である。

「す、素敵なドレスですね...。とてもお似合いです...。」

「ありがとうございます。」

そんな桜田は、秋と言ってもまだ汗ばむ陽気が続く中、ツイード地のスーツを着て、ネクタイまでしっかりと締めていた。

彼なりの精一杯のお洒落なのだろう。しかし、真新しいスーツは彼の地味な顔にはマッチせずに浮いてしまっている。そして、やはり暑いのだろうか。額にはうっすらと汗が滲んでいた。

正直、今までの飯島、正木と比べると、桜田は論外と言えるほど、全く杏子のタイプではなかった。



いつものように簡単なプロフィール交換、仕事の話で歓談はスタートしたが、杏子は桜田に全く興味を持てない。

目を合わさずに、始終杏子の肩のあたりを見ながら小さな声で話す仕草。面白くもないのに、時たま裏返った声で「フフフ」と笑う癖。桜田が女慣れしていないのは明らかで、その挙動不審さは、杏子の神経を刺激した。

結婚相談所に登録した当初、杏子が危惧していたのは、こう言った明らかに女性から需要のない男の存在であった。

しかし、桜田は薄い顔ではあるが、やはり不器量と言うわけではないし、親族には有名政治家も多い、松濤生まれの相当なお坊ちゃんだ。性格さえマトモであれば、女性に苦労することなど、絶対になかったであろう。

難アリな性格は、これほど異性に生理的嫌悪感を与えるものなのか。杏子は表面的に桜田の話に同調しながら、冷静に観察をしていた。


コミュニケーション下手な男の、暴走が始まる...?!

話題はひたすら、趣味の「陸ガメ」。空気の読めない男


「私の趣味は、陸ガメの飼育です。ギリシャリクガメという種なので、ギリシャ神話から全知全能の神、“ゼウス”と名付けました。」

桜田の話題に適当に相槌を打っていると、話題はいつの間にか、彼の趣味である陸ガメにシフトしていた。

「陸ガメって、すごく可愛い動物ですよ。ゆったりとしたイメージがありますが、エサが欲しいときは必死に素早く動くんです。その姿は、何とも愛らしくて...。」

杏子は、ついつい正木のことを考えてしまう。今日、彼は何をしているのだろうか。趣味のフットサルでもしているのか。それとも...。

「あんなに可愛い動物なのに、陸ガメは、人間に食べられてしまうことも多いんです。ドラマ『ウォーキング・デッド』でも女の子が陸ガメを生で食べてしまうシーンがありましたし、NHKの『大アマゾン』でも、原住民が陸ガメを食していました。ついつい、涙がこぼれてしまいましたよ...。」

それとも、正木はやはり、自分のことなど忘れてしまったのだろうか?もう2週間近くも連絡がないのだ。そうだとしても、不思議はない。そんなことを考えると、杏子はつい目頭が熱くなってしまう。

「杏子さんも、やはり可哀想だと思いますか?嬉しいです、陸ガメに興味を持ってくれて...。もし良ければ、今度ゼウスを見に来ませんか?ゼウスは美人好きなんです。きっとすぐに杏子さんにも懐いてくれると思います!フフフフフフ!」

杏子は、甲高い桜田の笑い声で、ハッと我に返った。

男は相変わらず杏子の顔の少し下あたりを見つめながら、嬉しそうな笑顔を浮かべている。よく分からないが、桜田は上機嫌だった。

「そうですか、ふふふ...。」

辛うじて、杏子は静かに微笑み返したが、限界だった。悪い男ではないだろうが、そろそろ切り上げたかった。

「杏子さん、もしお時間あれば、上の『恵比寿』で、鉄板焼きディナーでもいかがでしょうか?せっかく話が盛り上がって来たところですし...。」

「あっ、ご、ごめんなさい。私、実は今日は会社で少し仕事をしなければならなくて。また是非、ご一緒させて下さい。」

「そうですか...、お仕事なら、仕方ないですね。では、相談所の方にお願いしておきます。次はゆっくりディナーに行きましょう。フフフフフ!」


冷静に、自身の婚活を振り返る杏子。そんな彼女に、偶然の再会が...?!


―桜田さんは、悪い人ではありませんでしたが、私とはご縁がなかったと思います。

杏子は逃げるように『ザ・ラウンジ』を後にし、すぐさま直人にメールをした。

メールを打ち終わり、杏子はふと気づく。デジャブだった。そう、1回目のマッチング、飯島とのデートは、まさに今回の逆パターンだったのだ。

お門違いなファッションに、独りよがりの会話。きっと自分もあの桜田のように、当時は相手の意向を汲み取ることなく、空気の読めないコミュニケーションを進めていたのだろう。

それに気づけただけでも、自分も少しは成長しているのだろうか。

秋らしい切ない気持ちを抱え、杏子はぼんやりと恵比寿ガーデンプレイスを歩いていた。最近『BRICK END(ブリックエンド)』という名のお洒落なスタンド横丁もオープンしたことから、夕暮れ時のガーデンプレイスは、いつもより賑わいを見せているようだ。

「杏子!」

『ジョエル・ロブション』の前の階段を降りたところで、突然名前を呼ばれ振り返ると、杏子の胸は大きく高鳴った。

そこには、元彼の知樹が立っていた。

次週10月25日火曜更新
傷心の女心を誘惑する、元彼の存在。まさかの知樹との再会で、杏子は...?


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vol.10:ついに恋の予感?!幼稚男とのグダグダデートは、まさかの展開に...
vol.11:婚活成功の鍵は、「大人」になること?複数同時進行で、相手を見極めろ
vol.12:好条件でも論外判定?婚活で最も避けたい「典型的な非モテ男」の正体