正直、決して「安い」とは言えないのかもしれない。が、特別なデート、あるいは誕生日などのアニバーサリーに、選びたいレストランが今年は続々登場。料理もサービスも空間も、3拍子そろって楽しませてくれる、価値あるニューカマーを紹介しよう。


熟成肉&赤ワイン、ベストカップルを堪能!『ル・セヴェロ』

西麻布

「お肉の焼き加減は、シェフにお任せください」。メニューに赤い文字で記されたこの一文に、この店の矜持がにじむ。それもそのはず、1987年、ウィリアム・ベルネ氏がパリ14区にオープンして以来、熟成肉の名店として名を馳せる『Le Severo』の名を冠することを許され、東京店としてオープンしたのだから。


こちらの厨房を切り盛りするのは、エグゼクティヴ・シェフの柳瀬 充氏。パリの本店で、旨みを凝縮させる熟成術と、その旨みを逃さず風味豊かに焼き上げる技術を習得し、ベルネ氏の信頼も厚い。

静かな、しかし熱のこもった口調で「それぞれの個体の状態と向き合いながら、塊の肉を焼く喜びを日々味わっています」と語る氏に、安心して焼き加減を委ねるべし。


【練達が手掛ける、本物の熟成肉が待つ。】
パリで、熟成の何たるかを学んだ柳瀬氏が管理する肉塊が、静かに出番を待つ熟成庫。最低でも40日、状態によっては約3ヵ月という長期熟成が可能なのは、優れた生産者が育てた良質な肉だからこそ。


温もりを感じる内装が、料理の味わいをさらに深める。


正統派フレンチに一服の日本的感性をプラス『ラ・クレリエール』

白金高輪

日本料理の世界で、海老と相性の良い食材とされる冬瓜は、昆布、しいたけ、ベーコンの出汁で炊いてから冷やしてショーフロワにし、オマール海老の傍らに。

かつて学んだパリの老舗『グラン・ヴェフール』のスペシャリテ、「鳩のレニエ3世風」を下敷きにした肉料理は、しかし「鳩の赤身の風味にはカツオに通じるものがあるから」と、藁で香りよく焼き、本家は煮込むところを、香ばしさを活かすべく、仕上げに鳩の出汁を効かせたソースをかける。


和の素材や技法もときに取り入れつつ、軸足はフランスに。それぞれの伝統への敬意を惜しまないシェフ・柴田秀之氏は「すべては“とにかく美味しいものを作りたい”から」と語る。

真摯な志が漲る料理は、今まさに食べどきだ。


【可愛さと美味しさで先制攻撃の一品】
店のアイコニックなアミューズブーシュが、ブーダンノワールとりんご、トマトを挟んだプチバーガー。ブーダンは柴田氏が料理長を務めた『レストランモナリザ』でも人気の定番として知られる。


白を貴重にしていながら優しい印象の店内。


目の前で妙技を堪能!カウンターキッチンって楽しすぎる!!

立ち上る煙と香り。圧倒的な臨場感に興奮!『タクボ』

代官山

カウンターから丸見えの開放暖炉に薪をくべる田窪大祐氏。網の上に塊を置けば、滴る脂で力強く煙が上がり、何とも芳しい肉の香りが漂う。「この自然な熱源こそが薪で焼くことの魅力」

氏が薪で焼く肉の魅力に開眼したのは今から2年ほど前。赤坂の名店で食し、衝撃を受けた。

「長く料理人をやっていると、驚くことって滅多にない。けれど、炭火が一番じゃなかった」


遠火でじっくり焼く炭は均等に火が入るが、薪の場合、外はバキッとクリスピーで、中はジューシーに仕上がる。中と外で異なる「焼きのグラデーション」こそが、薪の魅力なのだ。

「恐らく、日本初じゃないかな、オープンキッチンで開放暖炉(笑)」。美味を知ったら挑まずにはいられない、その料理人魂が清々しい。


千葉県産仔猪のサルシッチャと賀茂茄子 手打ちパスタ ピーチ。パスタなど田窪氏の前店『アーリア ディ タクボ』から継承された料理もそろう。料理はすべて¥9,500コースより。


カウンター主体の店内。奥には個室の用意も。食後のコーヒーは丁寧にハンドドリップ。ミルもその都度回し、今野雄貴氏が86〜88℃の湯で淹れている。豆はグアテマラ産ブルボン種で、果肉の香味も活きたナチュラルクロップ。優良農園の一級畑産を扱う『ミカフェート』から仕入れる。


始末の心が息づく出汁で仕上げる代表作『エルバ・ダ・ナカヒガシ』

西麻布

「農家さんには本当に助けられています」。爽やかな笑顔で語るシェフの中東俊文氏。現地にもよく行くか尋ねると「もちろん!」と即答。

「行って直接、お話をしなければ、その食材の活かし方はわかりませんし、料理も考えられません」。


店名のエルバとは草の意味。渡欧経験もあり、コースのどの皿からも着想の源となるイタリア料理が香るが、食後感は独特。滋味の実在を体に教えてくれているような優しさに満ちている。

「世界にももちろん四季はありますが、七十二候は日本にしかなく、その巡りを実感しながら一年間、料理する幸せを今は噛み締めています」

名料理人を父に持つが気負いはなく、己を表す様が愉快。氏の幸福感も盛り込まれているからこそ十数品がそろう料理はすべて心にも沁みる。


手打ちピーチのトマトソース。ダイスにカットした茄子はニンンクとバジルの香味を効かせ、シラスと一緒にハンバーグにしてトッピング。山形産のバジルも香る。料理はすべておまかせ¥12,000コースより。

各皿に寄り添う酒も変幻自在で楽しめる。ペアリングセットは¥8,000〜。ワインのほか、グラッパにマタタビを漬け込んだ自家製リキュール×フランチャコルタのカクテルが登場することも。ミネラルウォーターも複数種を提供。実に楽しい。


「食材が料理に変わっていくところを見て頂きたいから」と店内はカウンター主体


確かな技術に裏打ちされた多種多様な品々を『虎峰』

六本木

品数、実に30皿! 前菜とされるものだけで11品、その後に野菜、魚介、スープ、点心類、肉、フカヒレetc.と続く『虎峰』のおまかせコース(¥13,000。ウォーターペアリングを含む)は、めくるめく美食の旅だ。

料理長の山本 雅氏は和歌山出身。大阪の中華料理店を経て、恵比寿『MASA'S KITCHEN』で修業。今年この店のシェフに抜擢された。「技術をカバーするために、ほかにないスタイルを」と少量多皿コースを考えた、と話すが、味わえば、その言葉は謙遜に過ぎないとわかる。

クリーミーなピータン豆腐や、しっとりと仕上げた肉に上品な辛みが絡むよだれ鶏など「ほんの一口」の絶妙なポーションが、次なる皿への期待を掻き立てる。旅はまだまだ終わらない。


コース後半で登場する、豚バラ肉の酢豚と大根餅も人気の一品。赤ワインと共に、ソースも余すことなく味わいたい


スペシャリテのフカヒレは土鍋煮込みのほか、焼いたものも登場。煮込みの締めはリゾットに仕立ててくれる。ペアリングにはムルソーを推奨。

30品のパートナーたるお酒も多彩だ。多くのゲストがオーダーするペアリングコース¥8,000〜は、3品に1杯ずつ程度サジェスチョンしていく。シャンパン、ワインのほかシェリー、ビールと緩急つけたセレクトで、料理の味わいが増幅する。


次々に料理を繰り出す山本氏の姿に圧倒される。