日本銀行が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」なる新たな金融緩和の枠組みの採用を決め、黒田東彦総裁が記者会見で説明してからちょうど半日後。利上げの見送りを決めた米FRB(連邦準備制度理事会)のイエレン議長が記者会見に臨んだ。

「利上げする状況は強まっているが、われわれの政策目的に沿って経済が改善する証拠がみられるまで、しばらくの間待つことを決めた」

会見の冒頭、イエレン議長はこう述べた。

その約1カ月前の8月下旬、イエレン議長は米ワイオミング州ジャクソンホールで講演を行った。毎年1回、世界の中央銀行関係者がこのアメリカ有数のリゾート地に集まってコンファレンスを開く。イエレン議長は講演の前段であえて市場関係者が注目する近々の金融政策見通しに触れて、「労働市場の堅調なパフォーマンスや経済活動、インフレの見通しに照らすと、利上げの可能性はこの数カ月強まっていると思う」と利上げに前向きな姿勢を鮮明にしていた。

1カ月でイエレン議長の考えを変えた要因とは?

わずか1カ月のうちにイエレン議長の考えを変えた要因の一つは、9月初旬に出た雇用統計の数字が予想外に悪かったことだ。

9月2日に公表された8月の雇用統計で、非農業部門の新規雇用者数の増加幅は市場の事前予想より低い15万1000人の増加にとどまった。ただ、直近3カ月の平均でみると23万2000人の増加。平均で20万人を超えており、けっして悪いペースではない。

だが、この数字を境に、いったん利上げを見込んだマーケットは9月の利上げ見送り説に傾いていく。

JPモルガン証券の鵜飼博史シニアエコノミストは「この2週間に出た小売売上高や鉱工業生産などの指標があまり強くない。物価も、FRBが重視しているコアPCE(個人消費支出)デフレーターでみると、上昇圧力は高まっていない。景気も物価もすぐに利上げをしなければいけないという状況にはない」と分析する。同社では次の利上げは12月で、来年の利上げ回数も従来の3回を引き下げ、2回と予想している。

実際のところ、FOMCと同時に公表された理事や地区連銀総裁らによる経済見通しでも、前回6月公表の見通しよりもGDP成長率、失業率、インフレ率はいずれも若干下方修正された。いわゆる「ドットプロット」と呼ばれる各FOMCメンバーによる政策金利の見通しをチャートにしたものを見ても、多数派の利上げ見通しは2016年1回、2017年2回にとどまっている。