日本国内では日本銀行が1月に導入したマイナス金利の評判は散々だが、黒田東彦総裁はじめ執行部は、9月21日の金融政策決定会合後に公表した金融政策の新たな枠組みにおいても、マイナス幅の拡大余地があるという姿勢をとっている。銀行が反対していることがマイナス金利の深掘りの最大の障害だが、これが解消できても、マイナス金利の幅を拡大していくと、いずれ金利がゼロの金融資産である現金の存在が大きな障害になる。
このため、最近は、現金廃止の議論も始まっている。

IMFは大量の現金を保管するコストは0.75%〜2%程度で、これがマイナス金利の限界になるとしている。これを超えれば、マイナス金利で預けるよりも現金で持っているほうが得になり、マイナス金利で多額のお金が預けられることはないからだ。もしも現金を社会から無くすことができればマイナス金利を拡大する障害が克服され、金融政策の自由度は飛躍的に拡大するはずだ。

ロゴフ教授が廃止を提案

『国家は破綻する〜金融危機の800年』で金融危機は繰り返し起きるという警告を発したケネス・ロゴフ(ハーバード大学教授)は、近著『The Curse of Cash』(Princeton University Press :August 30, 2016)で次に金融危機が起きたときに米国でも大幅なマイナス金利を可能にするために、現金を廃止するべきだと主張している。現金には様々なメリットがあるが、現金を利用し続けることによる違法取引や脱税を助長するというデメリットの方が圧倒的に大きいと指摘している。

ロゴフ教授は、現金を廃止するためのステップとして、銀行口座を持たない低所得者などが現金で少額取引を行うために少額紙幣や硬貨などは残し、まず高額紙幣や高額取引における現金使用を禁止することを提言している。

現金を金庫などで保有するコストは、最高額の紙幣が幾らかということに大きく影響される。1億円を現金で保管しようとした場合、1000円札では1万円札の10倍のスペースが必要になり、それだけ保管コストが高くなるからだ。それぞれの通貨の最高額の紙幣は、スイスフランは1000フラン札(約10万円)、欧州のユーロは500ユーロ札(約6万円)があり高額だ。米ドルは100ドル紙幣が最高額で、日本は1万円札なので、日米はほぼ同じくらいである。