表舞台の華やかさの裏に、大会招致や放映権を巡るビッグマネーの流れ、そしてドーピング問題。メディアはその「陰」とどう向き合っていくべきなのか。気鋭のノンフィクション作家が、長年追いかけてきた卓球の実情から切り込む。

「これで、日本の卓球界が盛り上がると嬉しいですね」――。リオオリンピックで日本卓球史上初のシングルスのメダリストになった直後、水谷隼から届いたメールには、そんな思いが書かれてあった。

10代の頃から「天才」と呼ばれてきた水谷が渇望してきたのは、オリンピックのメダルだけではない。「卓球を野球やサッカーのようなメジャー競技にしたい」という願いは、10代半ばで日本卓球の屋台骨を背負って以来、自らに課した使命でもある。

その思いが、卓球界を揺るがす事態につながったことがある。

国際大会をボイコット

ロンドンオリンピック後の2012年11月、水谷が国際大会をボイコットし、告発した「補助剤」(ブースト)の不正使用問題である。

筆者は水谷の思いを聞き取り、その背景にある卓球界の問題と併せてスポーツ総合誌『Number』(文藝春秋)で発表した。「世界の卓球界を覆う違法行為を僕は決して許さない」というタイトルがついた原稿は反響を呼んだが、多くの人に補助剤の存在を知らしめただけで、問題の解決にはつながらなかった。

水谷が告発したのは、ラケットのラバーの反発力を高めるため、世界レベルの選手たちの多くが国際卓球連盟(ITTF)のルールで禁止されている補助剤をラバーに塗りつけている実態だった。