映画ライター・新谷里映が心動かされた、本当に観て欲しい映画たちを連載コラムでお届け。



第13回目は、名作「高慢と偏見」に加わった“ゾンビ”という要素が意外や意外、ありがちなB級映画ではなく、結果見事に昇華された作品となった『高慢と偏見とゾンビ』。2016年のベストでも上位に入りそうだというその理由とは…?


ジェーン・オースティンの代表作にして名作「高慢と偏見」に“ゾンビ”がくっついている!? 名作をパロディにしているありがちなB級映画? と思ったら大きく裏切られました。もちろん、いい意味で。



「高慢と偏見」は、女性にとって結婚がすべてだった18世紀のイギリスの田舎町で、主人公のエリザベス・ベネットが自分らしく生きようとする物語です。ある日、大富豪のミスター・ダーシーと出会いますが、彼のことを気難しい“高慢”な男だと“偏見”を抱いたことによってすれ違ってしまう男女のラブストーリー。



あまりにも有名なこの原作は、過去にもキーラ・ナイトレイ主演の『プライドと偏見』として映画化。また、コリン・ファース主演のテレビドラマ『高慢と偏見』も人気でした。ちなみに、現代女性の圧倒的支持を得ている映画『ブリジット・ジョーンズの日記』(11年ぶりのシリーズ最新作にして3作目『ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』がまもなく公開!)も、実は「高慢と偏見」と関わりがあるんです。というのは『ブリジット〜』を執筆するにあたり原作者のヘレン・フィールディングは、マーク・ダーシーのモデルとしてコリン・ファースの演じた『高慢と偏見』のミスター・ダーシーを参考にしたそうです。そして、モデルにしたその俳優が『ブリジット〜』の映画化でマーク・ダーシーを演じている。とても面白い背景です。



余談ですが、『ブリジット〜』でマーク・ダーシーの恋敵ダニエル・クリーヴァーを演じているヒュー・グラントは、ジェーン・オースティンの「分別と多感」を映画化した『いつか晴れた日に』に出演していますし、『Re:LIFE〜リライフ〜』では古典文学とハリウッド映画との対比でジェーン・オースティンの作品が会話のなかに登場します。



(C)2016 PPZ Holdings,LLC

(C)2016 PPZ Holdings,LLC




ジェーン・オースティンの主要作品のほとんどが映画やドラマとして映像化されていますし、それ以外にも原作者自身の若き日の恋を描いたアン・ハサウェイ主演の『ジェイン・オースティン 秘められた恋』やジェーン・オースティンの6つの長編小説を取り入れた『ジェイン・オースティンの読書会』などもあります。そこに新たに加わったのが今回ピックアップした『高慢と偏見とゾンビ』。2009年に発表されたセス・グレアム=スミスによる同名小説の映画化です。



「高慢と偏見」の原作をベースにゾンビジャンルの要素をうまく投入。この映画のプロデューサーが「富と結婚がうまく表現され、ゾンビが下層階級とみごとに置き換えられ、ゾンビとの戦いがナポレオン戦争とうまく差し替えられている」とコメントしているように、基本的な物語は“そのまま”であるのに“新しい”「高慢と偏見」になっています。



(C)2016 PPZ Holdings,LLC

(C)2016 PPZ Holdings,LLC




個人的に面白かったのは、いわゆる結婚適齢期のベネット家の5人姉妹の逞しさ、強さです。娘たちを何とかお金持ちの家に嫁がせたくて必死の母親を尻目に、姉妹は少林寺拳法を修得してゾンビと闘う日々を送っています。ファイティングシーンにも設定にもこだわりがあり、登場人物たちがどこで武術を修得したかがキャラクターの社会的な“違い(=階級)”を表しているのもユニーク。富裕層は日本へ、エリザベスたちベネット姉妹は中国へ、という具合です。



いずれにしてもその強さは現代女性の精神的強さに通じるのではないかと思うのです。ヒロインのエリザベスを演じるリリー・ジェームズは、実写版『シンデレラ』でも自分で運命を切り開いていく“強く美しい”シンデレラを演じ注目を浴びた女優ですが、ふと思ったのは、リリーも『プライドと偏見』のキーラ・ナイトレイも『ジェイン・オースティン 秘められた恋』のアン・ハサウェイも、いずれも太眉美女であることです(1940年の映画『高慢と偏見』のグリア・ガースンは当てはまりませんが……)。太眉=現代女性の強さの表れ、なのでしょうか。



(C)2016 PPZ Holdings,LLC

(C)2016 PPZ Holdings,LLC




映画のランキングを参考に観たい映画を選ぶのはもちろんありですが、ランクインしていなくても面白い映画はたくさんあります。『高慢と偏見とゾンビ』はまさにその1本、見逃してほしくない1本。2016年のマイベスト映画の上位候補になっているほどオススメです。特に女性に観て欲しい!



(文・新谷里映)



>その他紹介タイトルはこちら






新谷里映





フリーライター、映画ライター、コラムニスト

新谷里映



情報誌、ファッション誌、音楽誌の編集部に所属、様々なジャンルの企画&編集に携わり、2005年3月、映画ライターとして独立。 独立後は、映画や音楽などのエンターテイメントを中心に雑誌やウェブにコラムやインタビューを寄稿中。



【tumblr】新谷里映/Rie Shintani 






映画『高慢と偏見とゾンビ』

公開中





監督:バー・スティアーズ

キャスト:リリー・ジェームズ/サム・ライリー/ジャック・ヒューストン/ベラ・ヒースコート/ダグラス・ブース/マット・スミス

脚本:バー・スティアーズ

原作:「高慢と偏見とゾンビ」ジェイン・オースティン&セス・グレアム=スミス著(二見文庫 安原和見:訳)

108分/アメリカ、イギリス 配給:ギャガ