一貫性は強味にも弱みにもなり得る



かつて3部作のアクション映画として大ヒットを飛ばした、ポール・グリーングラス監督×マット・デイモンのコンビによる『ボーン』シリーズ(1作目はダグ・リーマンが監督)が、いよいよ再始動の時を迎えた。新たな物語のタイトルは、『ジェイソン・ボーン』。その出来栄えに期待する人は多いことだろう。一言でいうと、本作は良い意味でも悪い意味でも、『ボーン』シリーズらしい映画となった。



3部作の最終章『ボーン・アルティメイタム』で全ての記憶を取り戻した、元CIAエージェントのジェイソン・ボーンは、暗殺者としての過去に悩まされていた。そんなある日、かつて共にCIAに戦いを挑んだニッキー・パーソンズ(ジュリア・スタイルズ)が現れ、ジェイソンの父が「トレッドストーン」(ジェイソンが志願したCIAの暗殺者養成プログラム)の発案者であったという驚愕の新事実を告げたことにより、ジェイソンはロバート・デューイ長官(トミー・リー・ジョーンズ)率いるCIAに再び追われる身となってしまう。ジェイソンの捜索が進められる一方、CIAの新人エージェント:ヘザー・リー(アリシア・ヴィキャンデル)は、組織の腐敗した構造やデューイ長官の方針に対して、疑問を募らせていた…。



まず初めに、これまでの『ボーン』シリーズを簡単に振り返ってみよう。超凄腕のエージェントでありながら、任務中に意図せずして記憶を失ったジェイソンは、1作目の『ボーン・アイデンティティー』で、謎に満ちた自身の素性を、マリー・クルーツ(フランカ・ポテンテ)の助けを得ながら紐解いていった。2作目の『ボーン・スプレマシー』では、CIAによってマリーを殺されたジェイソンの復讐が、そして3作目の『ボーン・アルティメイタム』では、ジェイソンが自身の忌まわしい過去を生んだ元凶を突き止める姿が描かれた。



 

(C) Universal Pictures




一貫してジェイソンvsCIAの構図、そして緊張感あふれるアクションと駆け引きの数々を描いたことで、3部作は21世紀におけるスパイ・アクション映画の金字塔として輝きを放つことになった。その系譜を受け継ぐ本作でも、これまで同様にジェイソンvsCIAの構図、そしてアクションと駆け引きが描かれるのだが、この一貫性が本作に対して全面的にポジティブな影響を与えているかについては疑問が残る。というのも、あらゆるリブート作には一定の変化があって然るべきなのに、本作は余りにも『ボーン』シリーズらしい、いわば新しさがない作品なのである。



まず問題なのは、物語における構図だ。保守的な上司(デューイ)、これに反発する部下(ヘザー)、そして両者に追われるジェイソンという図式は、3部作でも描かれていたため、導入から物語に新しさが見えてこない。デューイを演じるジョーンズは、過去作品に出演したどの俳優よりも威厳と迫力に満ちたCIA長官を体現しており、物語に緊張感を与えてはいる。また、早々にCIAに対する疑問を示して、物語の中盤からはジェイソンに協力するヘザーも、扮するヴィキャンデルの瑞々しくクールな魅力によって、一定の存在感を放ってはいる。



しかし、彼らが見せる劇中での行動は、これまでに登場してきたジェイソンの敵対者と何ら変わらない。根拠のない自信を振りかざし、詰めの甘さを露呈して、結局はジェイソンにしてやられるだけだ。3部作では「記憶の探求」という大きなテーマが屋台骨となってこの展開も我慢して見れたのだが、リブート作である本作でも、再び「記憶の探求」を屋台骨にされて同じことを繰り返されると、流石に飽き、もといイライラを感じる。



 

(C) Universal Pictures




次にアクションだが、3部作は身近なアイテムを応用した「戦闘の即興性」、そして細かいカット割りによって表現された「スピード」が評価されて、ゼロ年代におけるアクション映画の中でも極めて高い評価を受けた。では、そのリブートである本作では、アクション面でのアップデートは見られたのか?



答えは否である。本作でも3部作と同様に、ジェイソンの格闘が近距離からスピーディに映し出されるのだが、筆者には「ごまかし」が増えた印象がある。というのも、3部作でもその傾向はあったのだが、本作ではアクションのカット割りがより細かくなっており、戦闘の一連性(流れ)が非常に見えにくくなっているのだ。10月8日で46歳を迎えるデイモンの年齢を考慮した妥協案なのかもしれないが、「命のやり取り」における緊張感は、3部作(特に、『ボーン・アイデンティティー』における「第一の暗殺者」との戦闘と比較すると)よりも希薄化したと言わざるを得ない。



例えば、要所要所に数秒から十秒程度の長回しを導入するなどすれば、「命のやり取り」における緊張感とリアリティをより高めることができたはずだ。しかし、デイモンやグリーングラス監督は、短いカット割りと近距離での撮影という「ごまかしの利く」手法を取り続けたことで、本作のアクションを輝かせることができていない。





ストーリーにおける「エドワード・スノーデン事件」(プリズム計画の暴露)への言及、そしてこれに付随する「アイアンハンド」というCIAによる新たなオペレーションは、物語における一定の新しさとして捉えることもできるが、それまでのスパイ・アクション映画にはなかったアイディアとして輝きを放った「トレッドストーン」に対して、「アイアンハンド」を通じて描かれる「国家による監視システムの構築」は、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』などで既に描かれてきたネタであるため、どうしても既視感を感じさせる。よって、「アイアンハンド」は「トレッドストーン」ほどのオリジナリティや新しさを感じさせることはできておらず、その結果として観客は、登場人物の関係性、アクションに加えて、ストーリーの中核となるモチーフにも「変化が無い…」と思わされてしまう。



本作は、変化を望まないシリーズのファンにとっては「安心して見ることができる」作品だと言えるかもしれない。しかし、その変化のなさを享受できるのはごく一部のファンに過ぎないと思う。なぜなら、多くの人は、リブート作品としての本作に、シリーズの特徴を受け継ぐことに加えて、何らかの新しさや独創性を求めているはずだからだ。はっきり言って、特徴を受け継がせた一方、求められる新要素を組み込むことを怠ったグリーングラス監督とデイモンには、ガッカリさせられた。もし次作があるならの話だが、もう一度、あっと言わせるような作品を作り上げてもらいたいものだ。



(文:岸豊)


映画『ジェイソン・ボーン』

公開中



監督:ポール・グリーングラス

脚本:ポール・グリーングラス、クリストファー・ラウズ

キャラクター原案:ロバート・ラドラム

出演:マット・デイモン、ジュリア・スタイルズ、アリシア・ヴィキャンデル、ヴァンサン・カッセル and トミー・リー・ジョーンズ

原題:JASON BOURNE

邦題:ジェイソン・ボーン

公開日(北米)2016年7月29日、(日本)2016年10月7日

配給: 東宝東和