“きっとそこにあなたがいる”せつなくも強くて美しい傑作の誕生



'10年からの活動休止期間を経て、ついに宇多田ヒカルが8年半振りのニューアルバム『Fantôme』(ファントーム)をリリースする。“幻”“気配”などを意味するフランス語を冠した本作は、現在クライマックスを迎えているNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』主題歌「花束を君に」をはじめ、日本テレビ『NEWS ZERO』テーマ曲「真夏の通り雨」、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』テーマソング「桜流し」といった3曲の初CD化作品と8曲の新曲で構成されている。



音楽ファン待望の1枚は、心弾むダンサブルなビートの「道」から幕を開く。彼女の現在の心境がストレートに綴られたシンプルな歌詞と歌声からは約6年間に渡った“人間活動”期間を経て音楽シーンへ帰還を果たした彼女が“道”という名の“これから”とどう向き合っているのかが伝わってくる。まさしく「ただいま」のあいさつであり宣誓の1曲である。



英日の精鋭プレイヤーたちによるアンサンブルと宇多田自身によるプログラミングはアルバム全編において“これしかない”という音を“ここしかない”という的確なポイントで鳴らしている。抑制の効いたジャンルレスなアレンジと、サム・スミスやU2の作品で知られるスティーヴ・フィッツモーリスによるミックスは、彼女の歌声の輪郭をより明確に際立たせている。



そして「二時間だけのバカンス」では同期デビューの盟友・椎名林檎とのデュエットが実現(!!)。さらに「ともだち」では小袋成彬、「忘却」ではKOHHといった90年代初頭に生まれた気鋭のアーティスト参加とトピックにも事欠かない。



本作に通底している彼女のテーマは、'13年に逝去した自身の母への敬意と哀悼だ。私的なレクイエムが、自らが抱く死生観が、翻って多くのリスナーの胸を打つ“日本語ポップス”へと結実している。'98年の衝撃のデビューからなおも色褪せることのない先進的なポップセンスと、人生における別離と成長の季節が育んだ、せつなくも強くて美しい傑作の誕生である。



◆PROFILE

Utada Hikaru/'83年生まれ。'98年に「Automatic/time will tell」でデビュー。『First Love』がCDセールス日本記録を樹立。“人間活動”による休止期間を経て今年4月から本格再始動を果たす。




宇多田ヒカル『Fantôme』








宇多田ヒカル『Fantôme』



10.15 RENTAL 9.28 ON SALE

ユニバーサル ミュージック

TYCT-60101 3,000円(税抜) ALBUM



TRACK LIST

①道 ②俺の彼女 ③花束を君に ④二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎 ⑤人魚 ⑥ともだち with 小袋成彬 ⑦真夏の通り雨 ⑧荒野の狼 ⑨忘却 featuring KOHH ⑩人生最高の日 ⑪桜流し



⇒作品詳細を見る





(文:内田正樹)