秋の気配が強まり、少しずつ肌寒さも感じ始める10月。暖かいコーヒーがより恋しくなる時期ではないだろうか。10月1日は季節柄コーヒーの需要が高まることから、日本のコーヒーの日とされている。



1888年に日本最初の喫茶店「可否茶館」が誕生してから日々発展し続ける日本の喫茶店やカフェ文化。現在の日本のコーヒー界を牽引する若手のひとりである、パドラーズコーヒーの松島大介さんと日本の老舗喫茶店を巡り、今と昔のコーヒーや喫茶店をとりまく変化などを訊ねてみた。



築地市場開場から81年、祖父から3代コーヒーを提供



築地市場の喫茶店「愛養」

「パドラーズコーヒー」松島大介さん(左)、「愛養」3代目店主・竹内雅夫さん(右)




松島大介さん(以下、松島):参宮橋、渋谷で1年ずつ、西原で2年、僕がコーヒー屋をはじめて4年目。大先輩にお話を聞く機会ができて大変光栄です。愛養さんですがいつ頃からこちらでお店を開かれていたのでしょうか?



竹内雅夫さん(以下、竹内):もともとは日本橋で「愛養軒ミルクホール」という名前で営業していたのね。日露戦争が終わった頃、牛乳が体に良いから飲ませようという国の政策で牛乳を飲む場所、ミルクホールが日本中にできた。うちでは牛乳だけでなくミルクコーヒーなども提供していたの。関東大震災ののち、1935年に市場の移動に併せて引っ越しをしまして、その頃愛養軒の日本橋出張所に雇われていた祖父が移ることになり、父の代に「軒」を抜かし愛養と名前を変えたよ。



築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」



築地で働く人々の朝食として



松島:僕たちは渋谷区の住宅街では珍しく、朝7時30分から営業しているんです。愛養さんは3時30分から営業されていますが、お客様はその時間からいらっしゃるのでしょうか?



竹内:環境が環境だから当然といえば当然なのだけど(笑)、今はそれほどではないけれども、親父さんの代では3時30分の開店前から並んでいる人もいたね。昔は仲買さんなんかが4時から8時くらいまでほとんど途切れずコーヒーを飲みに来ていたから、スタッフ6人体制でひたすら回転しても洗いものも追いつかなくって。



ひっきりなしにお客さんが来るから、コーヒーはまとめてドリップして湯煎機で保温しているの。機械で保温するのはいやだから、お客さんの友人にオーダーして特別に作ってもらった。コーヒーは沸騰させられないからね。30杯弱入るけれどすぐにはけてしまう。今は買い出しの人が来る時間、7時から9時くらいまでが忙しいかな。ちょっとリズムが変わってきたよ。



築地市場の喫茶店「愛養」

昔はどこの喫茶店にもあったという湯煎機。コーヒーはほどよい熱さでどこか柔らかい味わい。




松島:お客さんは仲買さんなど常連さんが多いのでしょうか?



竹内:父の代から入って50年以上の常連さんもいるよ。その人がいつも2時40分くらいに来るから、1時40分には店に入って準備をしている(笑)。メニューはいつもアイスコーヒーとトースト。親子3代で通っている人もいるね。1日に2、3回来る人もいるかな。



最盛期には、マグロ屋さんとかエビ屋さんとか旦那衆がグループで来て、仕入れとか商売の話からゴルフなどのたわいもない話をしてることもあるよ。一般より関係者が多いけれど、一般のお客さんは海外の方が6割くらいだね。



築地市場の喫茶店「愛養」

愛養特注のコーヒーカップ。1点のみ残っているという2代目のカップは、飲み口に厚みがあり側面は薄め。使用するのは数名の常連さんのみ。残念ながら現存していないが、初代のカップはロゴマークが漢字だったそう。




築地市場の喫茶店「愛養」



海外からの観光客や日本の若者による新しい視点



松島:僕の友人の20代の女の子とかも愛養さんの写真を撮ってインスタとかにあげたりしてるんですよ。



竹内:最近は本の紹介もあってか、昔はあまり出なかったミルクセーキやミルクコーヒーがよく出るようになったよ。海外の、特に台湾や香港などの中国系のお客さんは写真を撮ってすぐにアップして、それを見た別の人がその写真を見せて注文してくることも多いよ。



築地市場の喫茶店「愛養」

若い人を中心に人気のミルクセーキ。卵黄と牛乳、バニラエッセンスが入って濃厚なカスタードプリンのような味わい。




築地市場の喫茶店「愛養」



松島:メニューは開店当初から変わらずですか?



竹内:不器用だからね、始めた頃からメニューは増やさず。



築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」



松島:コーヒー美味しい。こちらはブレンドですか?



竹内:ブレンドは4種類。モカ、ブラジル、コロンビア、フレンチロースト。



松島:トーストもカットされていて食べやすい。



築地市場の喫茶店「愛養」



竹内:もともとはタテ切りだけだったけれど、忙しくて手を洗う暇がなく魚臭い手で食べなきゃいけない人がいて、爪楊枝で食べれるサイズにカットしたのがはじまり。それに海外のお客さんなんかはよくシェアして食べるから。



松島:移転問題で揺れている築地ですが、愛養さんから見て様子はどうですか?



竹内:11月7日に移転のつもりで動いていたからちょっとバタバタはしているね。僕らは最後まで築地でやるつもりだよ。



(インタビュー:「パドラーズコーヒー」松島大介、取材・文:山本加奈子、撮影:島崎征弘)



築地市場の喫茶店「愛養」





築地市場の喫茶店「愛養」




築地市場の喫茶店「愛養」





築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」



築地市場の喫茶店「愛養」





築地市場の喫茶店「愛養」




築地市場の喫茶店「愛養」





築地市場の喫茶店「愛養」



■店舗情報



「愛養 (アイヨウ)」

営業時間/3:30〜12:30

定休日/日曜・祝日・休市日

住所/東京都中央区築地5-2-1 築地市場 6号館




■インタビュアー



松島 大介(まつしま・だいすけ)

Daisuke Matsushima



東京都中野区生まれ。10代の半分以上をアメリカ西海岸の街、ポートランドで過ごす。経験と繋がりを活かし、2013年春、ポートランドを代表するコーヒーロースター『STUMPTOWN COFFEE ROASTERS』の日本唯一の正規取扱店、『PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)』を共同代表の加藤健宏と共にオープンする。参宮橋と神宮前で1年ずつ間借りという形でコーヒースタンドを構える。2015年の4月には、初となる独立路面店を渋谷区西原にオープン。



「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」東京都渋谷区西原2-26-5、7:30〜18:00、月休、03-5738-7281



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■ライター



山本 加奈子(やまもと・かなこ)

Kanako Yamamoto



神奈川県出身&在住。デザイン事務所・新聞社・カフェ勤務ののち独立。紙媒体を中心に企画編集・デザイン・イラスト等を手がける。著書に『コーヒー語辞典』、企画編集を担当した『カレー語辞典』(ともに誠文堂新光社)。



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■フォトグラファー



島崎 征弘(しまざき・まさひろ)

Masahiro Shimazaki



2014年からアメリカ・オレゴン州ポートランドを拠点に活動し、2016年から日本でも活動を再開させたフォトグラファー。2006年に独学で写真をはじめる。東京都内スタジオ勤務、フォトグラファー西澤崇氏に師事後、独立。



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もっと1杯が愛おしくなる。「コーヒー特集」