秋の気配が強まり、少しずつ肌寒さも感じ始める10月。暖かいコーヒーがより恋しくなる時期ではないだろうか。



1888年に日本最初の喫茶店「可否茶館」が誕生してから日々発展し続ける日本の喫茶店やカフェ文化。現在の日本のコーヒー界を牽引する若手のひとりである、パドラーズコーヒーの松島大介さんと日本の老舗喫茶店を巡り、今と昔のコーヒーや喫茶店をとりまく変化などを訊ねてみた。



変化の激しい渋谷に店を構えて29年





  




  





渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー

落ち着いていて無駄のない所作が美しい寺島さん。映画とスキーが好きでキューブリックの『シャイニング』を見て2回ほどポートランドにも訪れたそう。知識も幅広く、ポートランド留学経験を持つ松島さんと、コーヒーだけでなくNBAの話などでも盛り上がった。




松島大介さん(以下、松島):参宮橋、渋谷で1年ずつ、西原で2年、僕がコーヒー屋をはじめて4年目。大先輩にお話を聞く機会ができて大変光栄です。羽當さんには個人的に何度か訪れていて、カウンターで手さばきなどを拝見していました。寺島さんがお店を始められたのはいつ頃からでしょうか?



羽當・寺島和弥さん(以下、寺島): 30年ほど前に新宿のコーヒー屋で知人(当時のオーナー)が店をやりたいということで、準備段階から携わりました。もともとここのお店は「蘭」というダッチコーヒー専門店が入っていて、それこそ当時銀座などで流行していた赤いソファのあるような喫茶店でした。天井のスピーカーは蘭時代からのものなんですよ。



  



  

「自分たちでできることは自分たちで」。ケーキやサンドウィッチなどフードメニューも、コーヒーに合うようにと全てホームメイド。




松島:すごくいい音です。メニューは当時から変わっていないのですか?



寺島:基本的には変わっていないです。うちは炭火焙煎のニュークロップと、熱風焙煎のオールドクロップの二刀流なのですが、当時は2つやるのはナンセンスだとよく言われました。ニュークロップの豆は神楽坂の山下コーヒーさんから、オールドクロップは虎ノ門のコクテル堂さん。ニュークロップはコーヒーの醍醐味といいますか、毎年状態を追いかけながら淹れる面白さがあり、オールドクロップは豆をいったん枯らし、水分を3〜5年かけて抜くことで均一に焼くことができる。



松島:ニュークロップはペーパードリップ、オールドクロップはネルドリップで淹れられていますが、その理由は?



寺島:ニュークロップは産地の変化をストレートに感じてもらうため、クリアな味わいのペーパードリップで。オールドクロップはコーヒーが持っている深みや甘みを極力忠実に感じてもらうためネルドリップで淹れています。



松島:じゃあ1杯目はペーパードリップのコーヒーで。おすすめはありますか?



寺島:うーん、今面白いのはドミニカですかね。華やかな酸味系の味ですよ。



松島:酸味系好きなんですよ。ではそれをお願いします。(寺島さんがコーヒーを淹れる)あれ、ドリッパーはカリタなのに、ペーパーはメリタなんですね。



寺島:そう、わざと規格をずらすことによってドリッパーとペーパーの間に隙間を空けるんです。そうすることでコーヒーが素直に落ちる。



  



渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー



松島:1杯に対してたくさんの豆を使ってらっしゃいますね。



寺島:うちは多めの豆を粗めに挽いて、美味しいところだけを使っています。雑味をできるだけ出さず、クリアな状態にしている。豆の量はニュークロップで20〜25g、オールドドロップで30g使っています。



松島:自分で店を始める前に何度もドリップを見せてもらいました。



寺島:(笑)コーヒーに「これがベスト」はないから、いろいろ回って自分のやり方を見つけるといいよ。



渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー



松島:寺島さんも個人的に店巡りを?



寺島:お客さんに勧められた店に行ったりね。



松島:エスプレッソはどうですか?



寺島:うーん、エスプレッソはあまり。



松島:落とす量は長年の勘ですか?



寺島:勘というよりかは季節によって変えています。とくにニュークロップは季節ごとの変化が大きくて、お客さんもすぐ気付くから、それを追いかけながら淹れています。



松島:29年間通われている方はいらっしゃいますか?



寺島:もちろんいますよ。



松島:僕は今年で31歳なんですが、渋谷の30年って相当変わっていますよね?



寺島:ええ、この一角で残っている店はうちと、隣の隣のワイン屋くらいですね。ドミニカどうぞ。



  

今回松島さんに合わせてチョイスされたコーヒーカップは、イギリスのアンティークのもの。月とススキのように見えるがススキではなく麦(ライ)の絵が描かれている。「ライは5〜6月のものだけれど、雰囲気が良いから洒落で使っています」(寺島さん)。




ひとりひとりのお客様のために何ができるか



松島:羽當さんはお客の雰囲気に合わせてカップを選んでくれて、毎回それも楽しみなんですよ。カップも開店当時からあるものですか?



寺島:買い足しももちろんありますが、当時から残っているものもたくさんありますよ。カップは基本的にお客様の顔を見て選ぶという決まりごとがあります。7〜8割が顔なじみになるので、前回か前々回くらいまでは何でお出ししたか記憶しておいて、違うカップを出すようにしています。あとは季節感でしょうか? 中にはお気に入りのカップを指定されるお客様もいらっしゃいますね。



  



松島:美味しい……。後味がいい意味で口に残らない。オールドクロップのコーヒーもいただいてよいですか?



寺島:もちろん、では今回はニレをお出しします。



松島:あれ? ニュークロップとオールドクロップでケトルも変えているんですか?



寺島:はい、ニュークロップはお湯が広がる感じ、オールドクロップはポタポタとお湯が乗っかり、エキスが広がる感じがよいので、それぞれにあったケトルを使っています。



  



続けることの素晴らしさをモチベーションに



松島:寺島さんがコーヒー屋を選んだ理由は何ですか?



寺島:私は48歳になるのですが、アルバイトからはじめて30年、続けることの素晴らしさをモチベーションにしています。始めたころのコーヒー仲間や憧れのマスターはどんどん抜けていってしまったのですが、好きなものは続けられなければ嘘だな、と。続けるためには店を流行らせなければいけない、流行らせるためにはお客さんが何をしたら喜ぶか、こんな空間だったら喜ぶだろうか、どんなカップなら喜ぶだろうか、ケーキやサンドウィッチもそう。常にそれを追いかけています。



(インタビュー:「パドラーズコーヒー」松島大介、取材・文:山本加奈子、撮影:島崎征弘)



渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー



渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー



渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー



渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー

甘いミルクとダッチコーヒーが層になったオレ・グラッセ。美しい層を壊さないように、上唇でコーヒーを抑えながら口の中で初めて混ざるように飲むのがコツ。




渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー



渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー

入り口入って正面奥にある大きな生花。こちらも季節に合わせて寺島さん自ら生けているそう。




渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー

サンドウィッチ類で一番人気のクロックムッシュ。スモークハムとチェダーチーズ、マッシュルームなどが入っている。




渋谷「茶亭 羽當」ドリップコーヒー



■店舗情報



「茶亭 羽當 (チャテイハトウ)」



営業時間/11:00〜23:30(23:00LO)

定休日/なし

住所/東京都渋谷区渋谷1-15-19

03-3400-9088




■インタビュアー



松島 大介(まつしま・だいすけ)

Daisuke Matsushima



東京都中野区生まれ。10代の半分以上をアメリカ西海岸の街、ポートランドで過ごす。経験と繋がりを活かし、2013年春、ポートランドを代表するコーヒーロースター『STUMPTOWN COFFEE ROASTERS』の日本唯一の正規取扱店、『PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)』を共同代表の加藤健宏と共にオープンする。参宮橋と神宮前で1年ずつ間借りという形でコーヒースタンドを構える。2015年の4月には、初となる独立路面店を渋谷区西原にオープン。



「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」東京都渋谷区西原2-26-5、7:30〜18:00、月休、03-5738-7281



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■ライター



山本 加奈子(やまもと・かなこ)

Kanako Yamamoto



神奈川県出身&在住。デザイン事務所・新聞社・カフェ勤務ののち独立。紙媒体を中心に企画編集・デザイン・イラスト等を手がける。著書に『コーヒー語辞典』、企画編集を担当した『カレー語辞典』(ともに誠文堂新光社)。



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■フォトグラファー



島崎 征弘(しまざき・まさひろ)

Masahiro Shimazaki



2014年からアメリカ・オレゴン州ポートランドを拠点に活動し、2016年から日本でも活動を再開させたフォトグラファー。2006年に独学で写真をはじめる。東京都内スタジオ勤務、フォトグラファー西澤崇氏に師事後、独立。



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