【連載】聖地巡礼さんぽ〜あの作品の街へ〜Vol.27

漫画や映画、ドラマなど、人気作品の舞台となった街を散策し、“住みたい街”としての魅力を深堀していく本連載。ここからみんなの“住みたい街”が見つかるかも?

第27回は「月刊コミックゼノン」(徳間書店)で連載中のゆき林檎の漫画『西荻窪ランスルー』。西荻窪のアニメ制作会社で働くスタッフを描いたお仕事漫画。

主人公の江田島咲(さき)は高校卒業後、アニメ制作会社「へメロカリス」に入社。彼女と一緒に入社した同期メンバーや、先輩の日向野(ひがの)、松本たちの目線で描いた群像劇だ。作品に登場する居酒屋やインドカレー店など、西荻窪駅周辺のスポット巡りながら、街の魅力を紹介する。

■ 「西荻窪駅」

第1話に登場するのが作品のタイトルにもなっている西荻窪駅。咲が群馬県から2時間半かけてヘメロカリスの面接へ来たシーンで描かれている。

駅に着いた咲は面接の時間が迫っていたため、走って会社へ向かう。会社の入り口が分からない咲は、ビルの下で煙草を吸っていた日向野に入り口を聞くと、日向野は面接の待機場所を案内すると同時に、トイレで鏡を見るようにアドバイス。駅から走ってきたため髪がボサボサになっていることに気付き、自分を「落ち武者みたいだ」と嘆きつつも、身なりを整えて面接へ臨む。

「中央線沿線はアニメ制作会社が多く、西荻窪は私も4年間住んだことがあり、生活に寄り添うような落ち着いた街なので作品のイメージに合うと思い、舞台にしました」(著者・ゆき林檎)。

■ 「串処 勘九郎」

咲がへメロカリスに入社してから1週間後、新人の歓迎会を行った居酒屋が「串処 勘九郎」。未成年の咲はオレンジジュースを飲みながら、大人の世界に足を踏み入れたことを実感する。

咲が自己紹介の挨拶をして間もなく、すでに酔っぱらっている上司の松本が、すでに1週間でやめた新人がいたことから、咲たちに「どうせお前らもすぐ辞める」と言い放つ。咲は「辞めません」と正面から反論しようとするが、先輩の日向野に諭される。松本に反論したものの、実際は仕事をうまくこなせないジレンマを抱えていた咲。歓迎会の帰りに日向野は咲に「この世界を生き抜ける人は天才かバカのどっちか」と語りかける。これは咲だけでなく日向野自身にも問いかける言葉だった…。

実際の店は、年間2万5000羽しか出荷しない希少な黄金シャモを使った料理が味わえる焼き鳥店。黄金シャモは、歯応えがあり旨味が強いのが特徴で、串焼きは1本90円〜とリーズナブルな価格で楽しめる。店内はゆったりとした空間が広がり、落ち着いて食事ができるのも好ポイント。

「西荻窪は駅前に呑み屋さんが密集しています。個人でやっている店が多く、お客さんと店の人がすぐ仲良くなれるので、楽しいひと時が過ごせると思います。近くの富士山という店もうまいっすよ」(店長)。

店長がライバルでもあるほかの店を勧める気前の良さに感服。店内には、有名漫画家のサイン色紙が飾ってあり、理由を聞くと話をする内に漫画家と分かり、サインをいただいたそう。店とお客さんの仲がいいのも納得です。

■ 「バスロータリー」

咲の上司、日向野の葛藤を描いた5話。ここで舞台の一つになったのが駅前のバスロータリーだ。2話の歓迎会でなぜ日向野が咲のことを気にかけているのか、その答えの一つが5話に描かれている。

咲が入社する以前、日向野は10年間一緒に働いた同期・佐々木に駅前のバスロータリーに呼び出され、彼から会社を辞めると告げられる。佐々木は日向野にとって最後の同期であり最も信頼していた仲間だった。しかし佐々木は、日向野に一言の相談をすることもなく、会社を辞める決心をする。

日向野にとって佐々木と働くことは日常だったが、佐々木は会社を辞めて新たな人生をスタートする。その舞台となったバスロータリーは日常にある場所でもあり、そして、バスが到着をして出発をする場所でもある。日向野と佐々木のやりとりの間に描かれたバスロータリーが切なく映る。

失意に暮れていた日向野は、上司の松本から新入社員の採用面接の仕事を任される。そこで出会ったのが冒頭の1話に出てきた咲。実際に咲と面接をしたのは松本だったが、咲のアニメーターになりたいという強い意志を感じた日向野は、入社した時の自分と重ねる。そして、松本に反対されるものの自分が面倒を見ると伝え、咲の入社が決まる。また、松本がなぜ自分に面接を任せたのか、その真意をくみ取り、新たなスタートを切る。

実際のバスロータリーはJR線の吉祥寺駅や荻窪駅のほか、西武線の上石神井駅や大泉学園駅、京王線の久我山駅行のバス路線があり、交通アクセスがいいのも西荻窪の魅力の一つだ。

■ 「シタル西荻本店」

第7話で天才アニメーターと呼ばれる百々瀬知(とも)と日向野が食事をしたのが、インドカレーの「シタル西荻本店」。百々瀬はあるアニメ作品の制作のため、期間限定でヘメロカリスの仲間と仕事をすることに。しかし、絵コンテで行き詰まっていたところ、日向野に食事へ誘われる。

元ヘメロカリスのスタッフであり、現在は監督で一児の母でもある三津のアニメ番組で、彼女から絵コンテを任された百々瀬。三津ならどんな展開を描くかを悩んでいたが、日向野の「エンターテインメントは人の記憶に残せれば勝ちだよ」という一言で吹っ切れ、自分なりの回答を見つけていく。

その舞台となった「シタル西荻本店」も記憶に残るほどおいしいインドカレー店。オーナーはインド人で、現地はもちろん日本でも10年以上の調理経験があり、スパイスはインド、タマネギは北海道産など、素材にこだわった本格的なインドカレーを提供している。中でも、バターチキンカレーとマトンマサラカレーが人気メニューだ。

「西荻窪は静かで住みやすいと知人から勧められてオープンしました。もうすぐオープンしてから10年になり、私もここが気に入って近くに住んでいます。私には娘が3人おり、娘もここを気に入ったようで、結婚してからも西荻窪に住んでいますよ」(オーナー・ガイレ プーラン パルサードさん)。

著者のゆき林檎さんが「お団子屋さん、純喫茶、パン屋さんなど、個性的な飲食店が多く、散策するのが楽しい街です。昔ながらの店も多いので、ノスタルジックな雰囲気を味わえると思います」と語る通り、とにかく個人商店が多いのが西荻窪。

駅からすぐのところに立ち呑み居酒屋が並び、駅から少し離れるとアンティーク雑貨店が点在する。街の電機屋さんとオシャレな雑貨店、インドカレーとマカロンなどを販売しているパティスリーが隣同士など、その雑多で多様性のある街並はどんな人も受け入れる懐の深さがある。

「西荻窪ランスルー」では、社会人1年生、部下と上司、天才アニメーター、子育てをしながらもアニメ制作にかけるママ監督など、幅広い年代の登場人物が描かれている。そんな個性あふれる登場人物が織りなす“お仕事漫画”の舞台となった、雑多で多様性のある街・西荻窪。街を歩けば、自分に合った“何か”が転がっているはず。【東京ウォーカー/嶌村優】

第28弾は1月下旬配信予定

(c)ゆき林檎/NSP 2015