乗用車のタイヤは温度で大きくグリップが変化しない

タイヤの主原料は、ゴム。ゴムは冷たいと固くなるので、タイヤでいえばグリップが悪くなる。反対に温まると柔らかくなって、グリップが増す。

しかし、なんといってもゴムなので、あまり熱くなり過ぎるとゴムが熱分解して、大幅にパフォーマンスがダウンする。これをタイヤのブローという。

ゴムの沸点はおよそ120℃だが、高速で高負荷にさらされるレーシングタイヤには、天然ゴム以外に、合成ゴム、シリカ、カーボン等々の、さまざまな添加剤を配合して、高温に強い特性を与えている。

一方、スタッドレスタイヤなどは、氷点下でもタイヤが固くならないよう、やはり、各種添加剤などを組み合わせ、寒さに強いタイヤになっている。

その代わり、レース用タイヤは、低温時は性能を発揮せずグリップが著しく低い。一方、スタッドレスタイヤは、冬場以外に使うと摩耗も激しく、グリップも普通のラジアルタイヤより低く、しかもブロックが柔らかいので、剛性感も低い。

つまり、高温が得意なタイヤは、低温が苦手、低温が得意なタイヤは、高温かでは適さないという特性があり、タイヤにはそのタイヤの目的によって、得意とする路面&ゴムの温度があり、それを「作動温度領域」という。

F1の中継などを見ていると、ペースカーが入って、スローダウンを余儀なくされた後、「タイヤが冷えてしまったので、再スタートは(グリップが低いので)気を付けて」といったコメントが聞かれるのはそのため。

F1用タイヤの使用最適温度は、80〜120度ぐらい(市販のハイグリップラジアルや、Sタイヤは60〜80℃ぐらいが理想だが、サーキットなどでは100℃ぐらいになることも)。ピットでは電気毛布のようなタイヤウォーマーをタイヤに巻きつけて、タイヤを40〜50度まで上げて、交換に備えている。

ちなみにタイヤの表面温度だけ上がっても、ダメで、タイヤの内側、構造、内圧などもすべて最適温度にならないと、ベストの性能は発揮されない。

そのため、各レーサーはローリング中に車体を左右に振って、走行距離を稼いだり、わざと加減速を加えて、タイヤを温めるようにしている(ブレーキはタイヤの表面も温めるが、ローターの熱でホイールやタイヤの内側も温められる)。

何でも、そうだがピークの性能が高ければ高いほど、スイートスポットは狭いもの。

F1でいえば、スーパーソフトは作動温度領域が低く、ソフトは意外にも作動温度領域は高い。ミディアムは、作動温度領域が低いコンパウンドで、ハードは作動温度領域が高い設定だ。

F1中継でおなじみの、某元F1ドライバーの解説者は、二言目には「タイヤが温まっていないのでは」というが、おそらく、自身が現役の頃、タイヤが温まらなかったイメージを(一人だけ?)ずっと抱えていたのだろう……。

そういう意味では、乗用車用のタイヤはじつに優秀。雪は別としても、夏から冬まで、温度によってそれほど神経質にグリップが変わらない。幅広い作動温度領域を誇り、しかも雨でもドライでも走れて、ライフも数万kmもあるのだから! ゴムの特性を考えると、本当に驚くべき高性能ぶりだ。

(文:藤田竜太)