先日、経済産業省と特許庁が、10月から次世代の知的財産制度に関する検討会を開き、「IoT技術などで使われるビッグデータや、その分析に利用される人工知能(AI)について、知的財産などでの保護が不十分な現状を踏まえ、営業秘密として保護を強化する方向で検討を進める」という新聞報道が流れた(2016年9月26日付日本経済新聞朝刊)。

 筆者が経済産業省に問い合わせて確認したところ、この新聞報道は、経済産業省や特許庁が行った公式の報道発表等に基づくものではないとの回答を得た。ただし、新聞報道のうち、10月から次世代の知的財産制度に関する検討会を開催することについては、経済産業省の公開資料により確認することができる(産業構造審議会第9回知的財産分科会における、配布資料3-4「第四次産業革命を視野に入れた知財システムの在り方に関する検討会(仮称)の設置について」)。

 上記新聞報道の背景を理解するためには、まず現行の法的枠組みにおいて、ビッグデータやAIがどのように保護され得るのか理解する必要がある。そこで、今回から数回に分けて、ビッグデータやAIについて、現在の法制度に基づく保護の可能性を探っていきたい。

 第1回目となる本稿では、まず用語の意味を確認したうえで、著作権の観点からの分析を試みたい。なお、本稿執筆のうえで、上記新聞報道等のほか、2016年4月に発表された、知的財産戦略本部 検証・評価・企画委員会 次世代知財システム検討委員会による「次世代知財システム検討委員会報告書〜デジタル・ネットワーク化に対応する次世代知財システム構築に向けて〜」、及び2015年11月に発表された、国立研究法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「人工知能分野の技術戦略策定に向けて」などを参照した。

IoT技術、ビッグデータ、AIとはなにか

 テクノロジーやコンピュータの分野で専門的に活躍する方々は、IoT技術、ビッグデータ、人工知能(AI)といった言葉の意味は当然に理解しており、おそらくは日常的にこれらの言葉を使用しているだろう。しかし、コンピュータに興味はあるものの、門外漢である筆者にとっては、そう簡単ではない。確かに、筆者もニュースなどでよく目にする言葉ではあるが、その理解は曖昧である。筆者のような方も少なからずいると想定して(期待して?)、まず、本題に入る前に、それぞれの用語の意味を確認しておきたい。なお、筆者はこの道の専門家ではないため、あくまで筆者が理解した範囲での説明にとどまることをどうかご理解いただきたい。

 さて、まずIoT技術とはなんであろうか。IoTとは、Internet of Thingsの略であり、直訳すると「モノのインターネット」である。これだけでは何のことだかよくわからないが、その意味するところは、身の回りの様々なモノがインターネットに接続され、そうしたモノが相互にインターネットを経由してデータをやり取りする実態を示している。したがって、IoT技術とは、そうした身の回りの物がインターネットにつながり、データをやり取りするために必要とされる技術のことを示している。

 読者諸兄は、最近、バスに乗ったことがあるだろうか。先日、筆者はバスに乗る機会があったが、筆者が利用したバス停では、次のバスやその先のバスが現在走っている場所や到着予定時刻が表示されていた。これは、IoT技術の活用例であろう。何らかの装置をバスあるいはバス停などに設置し、その装置が読み取った情報が、インターネットを経由して送信、分析される。こうして分析された結果が、インターネットを経由してバス停の表示パネルに送られているのだと思われる。

 次に、ビッグデータとはなんであろうか。直訳すれば、大きな情報/データであり、極めて大容量でかつ多種多様なデータの集合体を指して用いられるのが一般的である。ビッグデータは、様々な形で蓄積され得るものだが、とりわけ、IoT技術の発展により、蓄積されやすくなったのではないだろうか。先ほどのIoT技術を利用して、身の回りの様々な物がインターネットに接続され、その身の回りの物が読み取った情報が、インターネットを経由して蓄積され、これがビッグデータを構成するというわけである。

 最後に、人工知能(AI)とはなんであろうか。これもまた曖昧な言葉であるが、本稿執筆時点におけるwikipediaには、「人工的にコンピュータ上などで人間と同様の知能を実現させようという試み、或いはそのための一連の基礎技術」と定義されている。こうしたAIは、更にデータ・知識型AIと脳型AIに分けることができる(データ・知識型AIは、更に論理・知識型、論理・知識とデータ複合型、データ駆動型などに分けられる)。ごく簡単に表現すれば、データ・知識型AIは、データや知識を解析するタイプのAIであり、脳型AIとは、人間のように思考する(ことを目指す)AIである。