フィリピンには、世界の記憶に残る指導者がよく現れる。個性あふれる歴代の大統領のなかでも、マルコス元大統領は、靴のコレクションで有名になったイメルダ夫人(現下院議員)とあわせて、ひときわ抜きん出た存在だ。現在、暴言を吐きまくって世界を震撼させているドゥテルテ大統領の言動を丁寧に追ってみると、マルコス元大統領との意外なほどの近さが浮かび上がってくる。

 超法規的に進める麻薬犯罪者の殺害問題や、米国のオバマ大統領に対する暴言などが注目されるドゥテルテ大統領に対して、国際社会の論調は厳しくなる一方だが、対照的にフィリピン国内の支持率はいまなお80%を維持していることに現れているように、いまだハネムーン期が終わる気配はない。彼のハチャメチャぶりが強調されるが、何と言ってもドゥテルテ大統領は南部の地盤であるダバオ市政を20年間以上にわたって牛耳ってきた人物である。

カギとなる「マルコス」との関係

 地方政治家の経験しかないとはいえ、豊富な政治の経験とスキルを有する強者であることは間違いない、単なる反米主義者の狂人として軽視することは禁物で、ドゥテルテ氏なりの政治的計算はきっちりと読み解いておくべきである。その中でもカギとなるのは「マルコス」との関係ではないかと考えられる。

 いまのドゥテルテが展開する中ロへの接近と対米関係の再調整を含めた対外政策は、1970年代のマルコスが行った「全方位外交」を想起させる部分があると指摘するのは、日本のフィリピン政治研究者である高木佑輔・政策研究大学院大学准教授だ。

 「マルコス大統領は親米政治家のイメージが強いですが、それは1980年代のレーガン米大統領と急接近してからのことで、1970年代は中華人民共和国と国交を結び、イメルダ夫人を親善大使のような形で、ソ連や中国、リビアなどにも訪問させる全方位外交を展開していました。また、ドゥテルテ氏の国内のマルコス勢力との関係の深さは大統領選挙前から盛んに指摘されていましたが、副大統領選挙で惜敗したマルコス大統領の息子、フェルディナンド・マルコスを、選挙後一年は落選候補を重要閣僚に起用できないという規定があるので来年になりますが、いずれ有力閣僚に起用するという憶測も流れています」

 高木氏によれば、マルコスの対中接近には、1970年代から毛沢東主義を掲げるフィリピン共産党と新人民軍にパイプのあった中国共産党を取り込もうという狙いもあったようだ。現在の新人民軍を中国は支援していないが、いまなお毛沢東主義を掲げる新人民軍に対して、ちょうどオスロで和平交渉も行われているタイミングでもあり、対中接近のメッセージを送るという意味が込められていた可能性もある。