水口哲也|TETSUYA MIZUGUCHI
レゾネア代表/慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)特任教授。人間の欲求とメディアの関係性をリサーチしながら、ヴィデオゲーム、音楽、映像、プロダクトデザインなどさまざまな分野でグローバルな創作活動を続けている。ゲームの代表作として、「セガラリー」(1994)、「Rez」(2001)、「Child of Eden」(2010)など。また音楽ユニット・元気ロケッツ(Genki Rockets)のプロデュースや、Live Earth(2007)東京会場のホログラム映像によるオープニングアクトの演出など、作詞家・映像作家としての顔も併せもつ。2006年には全米プロデューサー協会(PGA)と『Hollywood Reporter』誌が合同で選ぶ「Digital 50」(世界で注目すべきデジタル系イノヴェイター50人)のひとりに選出される。

今年、夏休みを取ってハワイ島へ行ってきたんです。ハワイというと「常夏の青い海」みたいなイメージですが、ぼくが滞在したのは、雨が多い北東側の山の上にある、農場の一軒家でした。州道から私道に入り、クルマで30分ほど走ったところにあるのですが、本当にまわりは自然だらけ。ニワトリやヒツジや馬が放牧されていて、真夏なのに、夜になると薪ストーブに火を入れるような環境でした。

滞在中、農場のオーナーがおもしろいエピソードを聞かせてくれました。元々ハワイ島には、コアというハワイ固有の木があり、サンダルウッドとともに島中に生い茂っていたそうです。ところが100年ほど前に、香料の原料としてサンダルウッドが日本や中国向けに爆発的に売れたことで、島からサンダルウッドが消えてしまいました。すると、途端にコアの木も消えてしまったのだそうです。サンダルウッドが地中に出す養分が、コアの木には不可欠だということがわかったのは、随分後のことでした。近年、そうやってすっかり変わってしまったハワイ島の生態系を、以前の状態に戻そうとする活動が盛んなのだそうです。ちょうど、滞在していた農場の裏山で植林活動をしているグループがツアーおこなっていたので、参加してみることにしました。

ツアーでは、たくさんあるコアの苗木のなかからひとつ選び、20ドルで購入します。その苗木を山に植えるというのが、ツアーのハイライトです。苗木を決めると、自分のネームタグを3Dプリンターでつくり、GPSセンサーを埋め込みます。つまり、自分が植えた木がどこにあるのかをネット上で探すことができるんです。木が成長していく過程も随時アップされていきますし、そもそも、自分が選んだ苗木がどのようなルーツをもっているのかといったことも、きっちりと管理されています。

ハワイ島の山奥にITやバイオロジーの専門家がいて、テクノロジーを駆使して世界中とつながっている…。その感覚に、ぼくは圧倒されました。

ハワイ島を中心に地球儀をみると、そのほとんどが海ですよね。そんな孤島の山のなかに自分の植えた木があって、ネットを通じて成長を見続けられる。その体験を得るためならぼくは喜んで20ドルを払うし、そうした人たちが集まることで、森が再生していく。非常にポジティヴなフィーリングのスパイラルが、永続的に起こるわけです。

この発想を拡大させると、世界中の木がIoT化する時代がやってくるかもしれないし、あるタネがどういう経緯でどう交配されたのか、といったこともトレースできるでしょう。それってIoTの未来の話でもあるし、ブロックチェーンの未来の話でもある。つまり、いままで分解できなかったものが分解され、つながることができなかったことがつながるようになる、いわば量子的な未来というものが実際に起こりつつある。そういう時代の入り口にぼくらは立っているんだなということを、ハワイの山奥で感じたんです。まったくテクノロジーのない大自然を、わざわざ選んで行ったのに(笑)。

量子的とは?

「量子的」ということについて、もう少し解説をしてみたいと思います。クリエイティブブレインズの鈴木一彦さんにインスパイアされた部分が大きいのですが、これまで物理の領域にしか援用されていなかった量子力学というものを、心理とか気持ちに当てはめていったとき、「確実に存在しているけれど、いままでは確認することができず、分解することもできなかったもの」が可視化/分解され、さらには分解されたものが別々につながり始めていく…。そんな感覚を、ぼくは「量子的」と捉えています。

そもそもインターネットという現象も、もう少し先の未来から振り返ると、実は量子化の始まりだったと思えるようになる気がします。インターネットは、個人個人をマスメディアから引き離してくれましたし、その個人も、さらにいろいろなものに細分化され、つながろうとしているわけですから。

そんな時代におけるクリエイティヴ、というものを考えたとき、従来のフレームでものごとを捉えていくだけでは限界があると思います。これから先は、もっと非連続で、境目なく連なっていく思考や関係性が求められるはずだからです。

例えば、ぼくがずっとリサーチしている人間の欲求というものも、その連なり方を見ると、非常に量子的だなと感じます。その点で思い起こされるのは、チャールズ&レイ・イームズが1968年に制作した『powers of ten』です。銀河と細胞はつながっているという発想は、非常に予兆的でしたし、実際、先端の素粒子物理と宇宙物理は、ウロボロスの頭と尻尾のようにつながっているとされていますよね。

「Area X」に込めた思い

今回、構想段階も含めると約2年の歳月をかけて制作した『Rez Infinite』には、そうした量子的な感覚が反映されています。具体的には、「Area X」と名付けられたエリアです。

元々『Rez Infinite』では、映像や音楽や振動、あるはい人間の視覚とか聴覚とか触覚とか、どうしてもフレームとして振り分けてしまうものを、もう一度全部結合させることを目指していました。元々そこに境目はないはずで、便宜上、いろいろ境界をつくってロジカルにしてきたけれど、「ロジカルシンキングでは、ここから先には行けない」ということを、制作中に何度もスタッフと話し合ってきました。

『Rez Infinite』の開発スタジオEnhance Gamesの壁に描かれたコンセプト図の一部。

加えて、いままでは発想自体はあっても技術的な限界がありましたが、VRやハイパワーのマシン、あるいはグラフィックエンジンや開発エンジンといった技術が飛躍的に向上したことにより、いよいよイメージを具現化することが可能になってきました。

「Area X」をつくっていくなかで得られた手応えは、結果として、先程のハワイ島における、「テクノロジーの向上によって、いままではつながらなかったものがつながるようになった」ことと、非常に類似していると感じます。

VRによって、ようやくテレビモニターのフレームから解放されたように、みなさんもぜひ、既存のフレームを消し去り、非連続かつ、境目なく連なっていく関係性を発見し、ポジティヴなフィーリングのスパイラルを生み出してもらえればと思います。期待しています!

10月13日に発売開始となるPlayStation VR。そのローンチソフトのなかでもひときわ期待を集めているタイトルが、水口哲也率いる『Rez Infinite』。なかでもひときわ「量子的」なのが、この「Area X」だ。