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西島大介 | DAISUKE NISIJIMA
1974年東京都生まれ。2004年描き下ろしコミック『凹村戦争』〈早川書房〉でマンガ家としてデビュー。同作は第8回文化庁メディア芸術祭審査員推薦作品となり、第35回星雲賞アート部門受賞。作品に『世界の終わりの魔法使い』〈河出書房新社〉、『ディエンビエンフー』〈小学館〉など。12年に刊行した『すべてがちょっとずつ優しい世界』で第3回広島本大賞を受賞、第17回文化庁メディア芸術祭推薦作に選出。「DJまほうつかい」名義でピアノ演奏による音楽活動も行う。ヴァンジ彫刻庭園美術館「生きとし生けるもの」開催中。

崩壊する都市、崩れていく銀行。ブロックチェーンというテクノロジーが完全に浸透しきった、いつか来るかもしれない未来の世界で、「何か」と話し続ける少女。人のぬくもりすらなくなった世界で、彼女が出会うのは? 10月11日発売の雑誌『WIRED』日本版 VOL.25「ブロックチェーン」特集で、10ページ漫画『Credible Agreement しんぴょうせいのたかいごうい』を描いた漫画家・西島大介。西島は今回のテーマ「ブロックチェーン」をどう受け止めたのだろうか。

「ビットコインはなんとなく知っていたけど、ブロックチェーンは知らなかったです。だから、ブロックチェーンを勉強するところからはじまりました。編集部から『凹村戦争』のような、ものが壊れていくようなイメージで描いてほしいと聞いて、たしかにぼくは破片が飛び散ったりするのを描くのが好きなので、なるほどな、とは思いました。

でも、それだったら『スーパーマリオ』のブロックとか、『聖闘士星矢』のネビュラチェーンでいいんじゃないのって気もしましたけど(笑)。やばい、雰囲気ブロックチェーンじゃだめだ、ちゃんと勉強しなくちゃだめだ、って思いました」

25-特集_巻頭漫画-2『Credible Agreement しんぴょうせいのたかいごうい』より。

今回のブロックチェーン漫画を描くにあたり、複数のブロックチェーン関連書籍を読み、特集に参加した慶應義塾大学SFCの斎藤賢爾への取材テープなどを聞いて独学に励んだ西島。「信頼」というキーワードで世の中が回るならそれは健全でいい、とブロックチェーンの思想にも共感できるという。

「ぼくはいま、いろいろな仕事をしていて、従来の漫画家のビジネスモデルとは外れたところで仕事をしている気持ちが強いんです。大量に印刷されて印税をもらう、というよりは、1枚の絵画を描いてそれを買ってもらう、というような原始的な物々交換に近いこともしています。だからブロックチェーンってアートの話にも似ているなと思ったんです。究極的に信頼した個人の判断で買ってもらうわけだから。

中央集権的な巨大な存在として大手出版社があり、中央集権的な価値のもとで増刷がされて印税がもらえるわけだけど、増刷されないと作品は継続しない。ビジネスとしてはそこを満たさないと信頼されないし無価値になるけれど、でも、どこかにそれ以外の価値もあるだろうなとは思っています。だけど、大手出版社ではその価値をカウントできない。これはぼくの勝手な心情ですが、そういうことを考えるのは面白いですよね」

25-特集_巻頭漫画-1『Credible Agreement しんぴょうせいのたかいごうい』の冒頭2ページ。「BANK」の島が崩壊しようとしている

『Credible Agreement しんぴょうせいのたかいごうい』は冒頭の荒廃した大地の上で、BANK(銀行)がいまにも崩壊しようとしている。人々はなすすべもなく立ちすくんでいるのが印象的だ。西島は、まずは貨幣制度を疑うことから物語をつくっていった。

「いまぼくたちがストレスなく使っているカード決済も、いかに危ういことか。みんなお金を欲しがって、お金がないだけで誰かが死んだりする。そういった、お金・貨幣制度をいったん疑う、みたいな作業が面白かったです。究極的にお金はなくてもいい、国もいらないとかじゃないかというところまでいきそうな思想が面白いですね。普段、みんながなんとなく信じていることを疑いたくなるという意味で、アーサー・C・クラークの『都市と星』を連想させられました」

アーサー・C・クラークの『都市と星』は、人間の誕生や死さえもすべてコンピューターによって統御された完璧な都市「ダイアスパー」を舞台に、少年アルヴィンが未知の世界への憧れを抱くという、1956年に発表された不朽のSF名作。この未来の完全都市ダイアスパーの「中央コンピューター」は、中央集権的なものではなく分散型で、今回テーマとなったブロックチェーンと通じるものがある。

「ダイアスパーでは、高度にネットワークが発達しすぎて人と人とが触れ合わないんです。挨拶はするけど転送されてきた映像でするから、“生”のふれあいはない。アーサー・C・クラークが描いた世界っていうのは、いまのネット社会にも通じています。信頼のために何が必要なのか。ブロックチェーンも結局、そのテクノロジーをみんながいいねってみんなが信頼しないことには広まることはないですよね」

25-特集_巻頭漫画-3『Credible Agreement しんぴょうせいのたかいごうい』の主人公の少女。彼女が会話を続ける「相手」は誰なのか?

西島が描いた荒廃した都市でひとり佇む少女は、どこか憂鬱そうだ。西島は、ブロックチェーンによってユートピアが達成されたというような話ではないという。

「『都市と星』もそうなんですけど、そこまでネットワークやブロックチェーンが発達すると、人と会う必要もなくなってくるんです。結婚もしなくていいでしょ、とか、競争もない、結局、何もしなくてもいい世界。お金がなくて自殺することもないし、年収を気にすることもない。身近な人たちだけ信頼していればいい。

でも、ブロックチェーンを勉強してみて、人間の摩擦が減っていくことへ一抹の不安がありました。このシステムは、信頼というお金に変えられない部分をシステムによって保つということだから。生まれや育ちみたいなものが信頼される“貨幣制度”がなくなったときに何を信じたらいいのか。まわりに誰もいなくなって、それでも経済らしきものがまわっていて、ブロックチェーンによって勝手に生かされている状況になったときに、誰かに会いたくなったりするのかなだとか、そういう疑問を物語にしました」

ブロックチェーンが浸透しきった世界を描くことに挑戦した西島だが、世界初(かもしれない)ブロックチェーン漫画を描けたことにやりがいを感じたという。未来を考えたときに、これまで自分が読んできたさまざまなSF作品を思い浮かべた西島は最後に次のように言う。

「士郎正宗の『攻殻機動隊』(89)でもウィリアム・ギブスンの『ニューロマンサー』(84)も、インターネットがここまでのような形になる以前に描かれた物語なんですよね。80年代のサイバーパンク小説は『インターネットが浸透するとこうなるよ』っていう未来像が夢見がちでクールな文体で書かれていました。

限りなくいまの状態を予言しているようなもので、いままさに彼らが描いた世界に到達しているといっていい。高度にネット化された世界というのが当時から描かれていたわけです。ぼくは今回、ブロックチェーン関連の書籍を読んでみて、それとブロックチェーンの議論が似ているなと感じました。だから、ぼくがかつて読んできたSF作品のように、今回の漫画は、ロマンチックに描いてみました」

西島の描き下ろし漫画作品『Credible Agreement しんぴょうせいのたかいごうい』はWIRED Vol25に掲載される。ぜひ、最後まで、しっかりと読んでほしい。