2012年11月のある日、ライアン・グリーンはゲームをつくることを決めた。それは彼の4歳の息子ジョエルのがんが末期であり、余命は4カ月だと医師に告げられた日だった──。

死にゆく息子のために父がつくったゲーム、「That Dragon, Cancer」。ライアンが息子との思い出と彼が頭のなかで描いていたであろう神秘的な世界をゲームで表現したもので、Kickstarterで10万ドル以上を集めて制作。2016年1月からPC(Mac・Windows)とゲーム機「Ouya」向けに発売された作品だ。

『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』といった数々のメディアで取り上げられ話題となったこの深遠なるゲーム(『WIRED』日本版Vol.22でもライアンとその家族が「That Dragon, Cancer」をつくり上げるまでのロングストーリーを掲載している)が、10月からApp Storeに登場(600円)。iPhoneでもプレイできるようになった。

「ぼくはこのゲームを、悲しみと闘う手段にしてきたんです」と、先述した『WIRED』の記事のなかでライアンは語っている。ゲームづくりは彼にとって、ジョエルの病気と向き合い、息子を理解し、息子とつながり、その記憶を少しでも長くとどめておくための手段になったのだと。

多くのゲームと異なり、「That Dragon, Cancer」には明確な“答え”はない。プレイヤーはどうしようもならない現実を前に、為す術なく流されていく。そんな状況はときに人を混乱させるかもしれないが、同時に残酷でも美しい瞬間をプレイヤーに体験させてくれる。まさにライアンたちが、ジョエルの死と向き合うなかで体験したのと同じように。