この映画で韓国を知るために注目すべきはラストシーンです。一人息子が司法試験に受かり検事に任用され、その子どもの一歳の誕生パーティー(トルジャンチ)で念願叶った主人公の平和な表情がアップで映し出されます。

 いろいろ汚いこともし屈辱を味わい何度か生活の基盤を脅かされても、何とか生き抜いてきたことで家族の中から社会的に誇れる人間を生み出した達成感は何物にも変えられないことです。孫の誕生祝いは、まさに至福の瞬間です。

 映画のところどころで息子に期待する場面が出て来ますが、今は貧乏で社会的に認められなくとも、いつかは社会に誇れる人間を一族の中から出すんだという強い意志「恨ハン」があるからです。それこそが主人公に不屈の闘志を燃やさせた根源なのです。

●老舗がない!? 
 日本には何百年も続く老舗や飲食店がありますが、韓国ではいくら有名で儲かる店でも百年以上続いたものはありません。

 日本のように安定した社会でなく戦乱に明け暮れていたためでもありますが、商売に対する儒教的蔑視による影響が大です。自分の代では蔑まれる商売をしていても、子どもたちにはまともに勉強させ、社会的に誇れる職業についてもらいたい。そのために商売が悪影響を与えるならいくら繁盛しても子どもには継がせないで店をたたんでもかまわないという心理が働いています。

 在日で最も成功した企業家の一人、孫正義を描いた佐野眞一『あんぽん 孫正義伝』のなかにも、孫氏の祖父が韓国の故郷に帰り商売をはじめたところ「由緒ある孫氏が商売をするとは」と一族の元老からとがめられ、日本に舞い戻った話が出てきます。現在はこれほどではなくなりましたが、韓国人の心の奥底にはしっかり勉強して良い大学に入り、一流になるのが絶対善であるという意識が流れています。

 映画の主人公のように一族の名誉を担う人材(息子)を育てるためにはどんなに泥をかぶってでも自分が肥やしになるという強い意志が感じられます。このような背景を知ると主人公の崔・イクヒョンのあの恍惚の表情がより深く理解できるはずです。韓国人には一族の強い期待が優秀な人材を生み、出世した暁には一族にお返しする血の繋がりが脈々と生きているのです。今日においてその度合いが薄れたとはいえ韓国人の心にしっかりと流れています。

 日本人以上にです。

※『悪いやつら』(二〇一二年・韓国 監督・脚本ユン・ジョンビン)


文=権 鎔大(ゴン ヨンデ)
出典=『あなたは本当に「韓国」を知っている? 』(著者/権鎔大 発行/駿河台出版社)