◎印象が薄かった下級生時代

 この約10年、大阪の高校野球は大阪桐蔭と履正社の2強時代が続いている。一方の雄である履正社で1年夏からベンチ入りし、秋には二塁を守り2ケタの背番号ながら実質的にはレギュラーを獲得。「いい選手」であったことは間違いない。

 大阪ベスト4で敗れた2年夏には3番を打ち、23打数8安打。数字も残しているのだからなおのことだ。スコアブックで振り返ると、僕はこの夏に履正社戦を2試合観戦。山田のヒットも好守も走塁でのスピードもしっかり見ていた……はずだった。しかし、不思議と印象は薄い。ポジションが二塁手から遊撃手に代わった秋もやはり見たし、山田はそれなりの活躍をしていた……はずだ。それでも、僕の中では「いい選手」の枠を出なかった。

 年が明けると、雑誌『野球小僧』の誌面で安倍昌彦さんが山田を強く推すコメントを見た。「そこまで…?」と、正直、疑問を感じたものだった。悪いところはないが、僕の中では東京の大学へ進みそれなりに活躍する……。その時点でそれ以上のイメージが広がらなかった。一言で言うなら当時の山田は「印象の薄い選手」だったのだ。

◎3年春からの変身

 山田の同期にPL学園の吉川大幾(現巨人)がいた。吉川は山田同様の3拍子を揃えた上、“ここ”という場面で打つイメージがあった。守りや走塁でのチョンボも含め、試合を見ていると何かと目の行く選手だった。さらに本人も早くから「プロ志望」を口にし、体中から負けん気やガッツも立ち上っており、この点でも山田とは対照的。僕だけでなく見る者の多くの目は自然と山田より吉川へと向いていた。

 ところが、3年春になり、山田への僕の見方が劇的に変わった。大阪大会で山田はこれまで通り、打って、守って、走った……が、中身が変わったのだ。試合のポイントでの活躍が格段に増えた。そうなると、プレーする姿からも自信、貫録が伝わってくるようになったのだ。打率.435でチームの大阪大会優勝、近畿大会準優勝にも大きく貢献し、右肩上がりのまま迎えた夏。

 山田は打ちまくった。スカウトが揃った大阪大会の初戦で満塁本塁打のスタートを切ると、8試合を戦った大阪大会では実に29打数12安打13打点。さらに、高校として13年ぶりの夏となった甲子園では、山田哲人の魅力を余すところなく発揮し、ダメを押した。

◎運命を変えた“あの日” 

 2試合を戦い6打数4安打(2四球)。初戦の天理戦で重盗からのホームスチールでスピードと走塁センスを見せると、投手直撃の当たりでは打球の強さもアピール。敗れた聖光学院戦では左中間への一発も放ち、強肩を披露の守りも含め、もはや、どこからどう見てもドラフト上位候補の動きを見せ、最後の夏を締めくくった。

 何がどうなって「いい選手」が「本物のドラフト候補」へランクアップされたのか。2年秋から3年春までの数カ月に何があったのか。夏を終えた山田に聞いてみた。すると「“あの日”から変わったんです」と山田から明快な答えが返ってきた。

 それは山田にとっての2年秋。2009年10月29日に行われたドラフト会議のことだった。花巻東の菊池雄星が話題だったドラフトの中継映像を見た山田は「突然、来年はここで名前を呼ばれたい! って強烈に思ったんです」と言った。それまで、さして関心の薄かったプロ野球の世界が突然、目指すべき場所となると「それまではいやいやだった自主練習でも自分からバットを振ったり、トレーニングをしたりするようになったんです」と。

 まさにドラフト中継を見たことで山田にスイッチが入ったのだ。それまで素質でプレーしていた男に欲が生まれた。そして、冬を越すと、スイングスピードが高校の先輩であるT−岡田(現オリックス)の高校時を上回る154キロを計測までにアップ。心技体が揃った結果の3年春以降の爆発、ドラフト1位指名でのプロ入りでもあったというわけだ。

 プロ2年目に1軍デビュー、3年目に大きく経験を積んで、4年目となる昨年の最多安打(193安打)と、順調すぎるステップを踏んで、早くもリーグを代表する選手に成長した。その姿を見ていると、僕は時折苦い気分にさせられる。2年秋まで過小評価をしていた見る目の甘さに……。自らへの戒めを忘れないためにも、この先も山田には長く活躍を続けてほしい。
(文=谷上史朗)


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