落合博満さんに全9球シュート…開幕戦完封の元巨人・西本聖さんに感じたセ・リーグの投手の意地【井野修「ジャッジの裏側」】

 プロ野球の審判員を34年間務め通算2902試合に出場した井野修さん(70)が審判員時代に接したさまざまな選手のエピソードなどを紹介する企画「ジャッジの裏側」。今回は巨人や中日の投手として活躍した西本聖さん(68)の思い出を振り返る。

 西本投手といえばシュート。多くの人がそうイメージするでしょう。鋭く曲がり、切れが良い、素晴らしい球でした。私が見てきた中でもすごいシュートを投げる投手として、大洋(現DeNA)のエースだった平松政次さんと西本君が思い浮かびます。ただ私は、西本君といえばストレートのイメージが強いです。

 威力があり、コントロールも良く、右打者の外角低めにズバッと決まる。打者が手が出ない場面を何度も見ました。シュートを意識せざるを得ないから手が出ない。そしてこのストレートがあるから、シュートもより生きたと思います。

 もちろん、シュートが威力を発揮した試合もたくさんありましたね。その一つは1987年4月10日に後楽園球場で行われたシーズン開幕戦。巨人の開幕投手の西本君は、就任1年目の星野仙一監督の初戦となった中日に4安打完封勝ち。三冠王3度の実績を引っ提げ中日にやってきた落合博満さんは4打数1安打に封じました。投じた計9球はすべてシュートで、中前打を1本打たれたのみ。私はこの試合の二塁塁審で、2人の対決がよく見えました。いい根性をしている、気持ちがすごいと思いましたし、セ・リーグの投手の意地を懸けて投げているようにも感じたものです。

 この試合は、中日のドジャース仕様の新ユニホームがお披露目された一戦でもありました。私は米国の審判学校へ勉強で行った時にドジャースタジアムを訪ね、ドジャースの職員だったアイク生原さんにいろいろと教えていただいたこともありました。中日の新ユニホームはその時に見たドジャースのユニホームにそっくりで、格好いいなと思ったものです。屋外の後楽園のナイター照明が当たって、すごく映えているとも感じました。

 マウンド上の西本君は、いつも鬼気迫るような厳しい表情だったというイメージが私にはあります。そんな西本君がマウンドで笑顔を見せていたのは89年のオールスター第1戦で先発した時。私は球審を務めました。この89年は西本君にとって中日に移籍して1年目で、自己最多の20勝を挙げた年です。もちろん、公式戦とは違うから楽しくやれるのでしょうが、いいシーズンを送れて充実していることも、投げている様子から感じたものでした。

 西本君はその後、93年にオリックスに在籍し、94年に巨人へ復帰しました。94年の宮崎春季キャンプで入団テストを受けたのですが、彼が3度紅白戦で投げたうち、私は最初の登板の時に球審を務めました。

 キャンプの時にジャッジするのは、審判員にとって目慣らし的なところもあるのですが、あの西本投手の選手生命がかかってくるとなると、非常に重い。一緒にいたベテランの先輩に球審をお願いしたのですが、結局は私がいくことになり、ものすごく緊張しながら臨んだのを今でも覚えています。最終的に西本君は合格を果たし、涙で取材を受けていたのは印象深いですね。私としては、長い審判員生活で一番というくらい非常にドキドキしながら球審をした、忘れられない一戦となっています。 (元プロ野球審判員)

 ▼井野修(いの・おさむ) 1954(昭和29)年4月24日生まれ、群馬県伊勢崎市出身の70歳。76年に審判員としてセ・リーグに入局、09年までの34年間審判員を務め、通算2902試合に出場。日本シリーズ12回、オールスター6回出場。04年〜09年にセ・リーグ審判部長。10年〜13年に日本野球機構(NPB)審判長。14年〜17年にNPB審判技術委員。23年からルートインBCリーグ、四国アイランドリーグplusの審判部アドバイザー。

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