「うん、まあ、楽しいですね」小泉佳穂は去り際に笑った。浦和レッズを翻弄「それが今の柏レイソルを支えている」【コラム】

●古巣・浦和レッズとの一戦を終えて…

柏レイソルの小泉佳穂が、昨季まで所属した浦和レッズのホーム・埼玉スタジアム2002に帰ってきた。ほんの半年前、怒りをあらわにしたピッチで、28歳のテクニシャンは躍動していた。もがき続けた先で、小泉は自分自身の魅力を表現する場所を見つけたように見えた。(取材・文:菊地正典)
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「はいっ、ありがとうございました」

 そう言ってホッとした表情を見せる。試合後の囲み取材は終わった。それでも去り際の小泉佳穂に聞かずにはいられなかった。

「佳穂、サッカー楽しいか?」

 ただの一記者が某サッカー漫画の先輩を気取るように聞いた質問に小泉が答える。

「うん、まあ、楽しいですね」

 楽しいなら「楽しい」だけでいいじゃないか。そう思ってしまうが、シンプルな質問にも含みをもたせるように答えるところが彼らしい。

 取材を受ける際、頭の中で整理してから言葉を発する。尊敬する将棋界のレジェンド、羽生善治氏が次の一手を長考するように、数分間無言が続くこともある。だから「うん、まあ」は小泉らしいのだ。

 ただ、そう答えたとき、小泉は口を大きく広げて笑っていた。その笑顔もまた彼らしかったし、その表情に心情が表れていたのだと思う。

 2日に埼玉スタジアムで行われたJ1第4節・浦和レッズ戦。柏レイソルに加入して初めて迎えた古巣戦で小泉はよく笑った。埼玉スタジアムの公衆の面前で純粋な笑顔を見せたのはいつ以来だったのだろう。

 2024年9月21日に行われたFC東京戦。小泉は埼玉スタジアムのピッチで度が過ぎるほどに怒りをあらわにした。

●目に余るほどの激昂…。そして小泉佳穂は浦和レッズを去った

 当時の小泉は思うように活躍できていなかった。浦和に加入した2021年から2シーズンはチームの中心として活躍したが、以降は監督が替わるたびに出場機会が減少していく。

 2024年は開幕4試合にスタメン出場したものの、FC東京戦で30試合中15試合目の出場。J1リーグの半数にしか出場できていなかった。

 小泉は精神状態がプレーに影響しやすい。面倒くさい性格であると自認しており、性格が似ている父親とは話しているうちに議論になり、お互いに熱くなって口論に発展することも少なくない(そしてだいたいは小泉が言いくるめられてストレスを溜める)。また少年のような外見とは裏腹にピッチで闘争心を前面に出すタイプでもある。

 それらがうまく噛み合ったときは手が付けられないようなプレーを連発するが、一方で空回りすることもある。

 そんなときにピッチ上で不満を示すことも少なくない小泉だが、FC東京戦でチームメイトに激昂する様子は目に余るほどだった。小泉の性格を知る人はおそらく、あの瞬間を見ただけで状況がよくないことを理解できたはずだ。

 そしてFC東京戦以降、出場した試合で一度も勝利を得ることなく浦和を去った。

 それから3カ月足らず。小泉は埼玉スタジアムに帰ってきた。古巣戦は自身が活躍しているかぎりいつか必ず訪れるが、想像以上に早かった。

●「普通の精神状態ではなかった」古巣戦で躍動。「それが今のレイソルを支えている大きな要因」

「普通の精神状態ではなかったですね。早すぎて嫌だったし、本当にキャンプの時から浦和戦を思い浮かべて寝られなくなるくらい、考えるだけで鼓動が早まっちゃうような、それほど僕にとってすごく特別な意味を持つゲームでした」

 試合前に聞いていたら「空回りしそうだな」と思ってしまうほど強い意識。しかしそんなことを思わせないほど自然にプレーする。

 ピョン、ピョン。

 漫画なら体の横にそんな擬音がつくような、軽快で跳ねるような動き。乗っている。見ている者をワクワクさせるときの小泉だ。

 攻撃時には3-1-4-2の右のインサイドハーフでスペースにポジションを取ってボールを受けては次の展開を生み、浦和の守備陣を翻弄した。

「そういうポジションを取ることはすごく得意だと思っているんですけど、自分が優位を保った状態のままで確実にボールが出てくる。それが今のレイソルを支えている大きな要因だと思っています」

 たとえばストライカーならボールが出てこずとも何十回、何百回とゴール前に走り込んで1つのチャンスを決めるのが超一流。ただ、ボールを受けるために走った回数とボールが入ってくる回数が近い方が気持ちよくプレーできるに決まっている。

「自分のサッカー感とはすごく合うサッカーをしていると思います。ちょっとずつチームとして、あるいは個人でアドバンテージを作って、それを次の人に渡してあげるみたいなことがすごくみんなできています」

 そんなチームの機能美を楽しむように小泉は躍動していた。浦和時代にもサポーターの心を射止めたようなプレー。柏のサポーターもこの試合の小泉から何かを感じたはずだ。

●もがき続ける人間味。見る者を魅了する小泉佳穂

 試合後、同じく元浦和で将棋仲間でもある木下康介にうながされて柏のサポーターにトラメガで感謝を伝えた小泉は、チャントに合わせてうれしそうに手拍子していた。それはかつて、埼スタで何度も見た光景でもあった。

 取材エリアではあまり笑わなかったと思う。金子拓郎、安居海渡と“感想戦”を行ったことにより、両チームで最後に姿を表したのだが、すでに気持ちも切り替えていたのだろう。

「シーズンが始まったばかりなので、これからいい時期も悪い時期もある。うまくいかない時期にどう振る舞うかがチームとしても僕自身としても大切だと思うので、そこを乗り越えられたら一つ階段を上ったと言えるかなと思います」

 もがく日々はまた訪れるかもしれないが、サッカーを楽しんでほしい。もがき続ける人間味がある種の小泉の魅力でもあるのだが、やはりピッチ上ではサッカーを楽しんでいるときほどまばゆく輝き、見る者を魅了する選手なのだから。

(取材・文:菊地正典)

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