「診療看護師(NP)」をご存じだろうか。一定レベルの診療を行える看護職で、2008年に養成が始まり、まだ全国で千人にも満たない。その一人、稲美町国安の大西メディカルクリニックに勤務する渡部秀悟さん(39)=兵庫県加古川市=は、元お笑い芸人という異色の経歴の持ち主だ。なぜ医療の道を目指したのか? 渡部さんを訪ねた。(増井哲夫)
「こんにちは、大西メディカルクリニックの渡部です。様子を見に来ました」。同市平荘町の特別養護老人ホーム「第二鹿児の郷」で、各部屋の高齢者を見て回る。認知機能に衰えのある人が多く、安心感を与えるため、冒頭の自己紹介は欠かさない。
医師とともに五つの施設を巡り、手分けして部屋を回る。気になる症状や兆候があれば、問診や検査などから原因を考え、対処法や今後の方針まで検討し、医師に報告する。「専門医につなぐ必要があるのかどうかを見極めるケースもあり、日々勉強」という。
大阪府高槻市出身。高校卒業後、吉本興業の養成所NSCに入った。「ビンチョウタン」というコンビで活動し、ステージにも立ったが、2年で解散。NSCの1期上には「かまいたち」などその後人気者となる芸人がめじろ押しで「あんなふうにはなれないと限界を感じた」。
24歳で人生をリスタートするに当たり考えたのが、看護師の資格を取ることだった。ただ、「自分にできるのか」と迷っていた。
ある日、友人の女性に相談すると、「いいんじゃない。優しいし」と言って、こう続けた。「がんなんだ。手術して入院したら面倒みてよ」。迷いが吹っ切れた。「こういう人のために看護師になろう」。看護学校に3年通い、国家試験も無事合格。大阪市内の総合病院の病棟に勤めた。
仕事が終わると、ファミレスに立ち寄り、専門書を開いた。どこを骨折したらどうケアするのか、どんな合併症がいつ出てくるのか、閉店まで勉強し続けた。「患者さんに、今日はできなかった対応を次回はしてあげられるように」と。
診療看護師を目指したきっかけは、ある患者の死だった。足を骨折し入院してきた高齢女性で、顔を合わせると笑顔で話しかけてくれた。別の病気を発症し、手術で一命は取り留めたものの、人工呼吸器を付けて病棟に戻ってきた。1カ月後に亡くなった。
「あんなに元気だったのに…」。もっと何かできたのではないか。悔しさが込み上げてきた。自分の力のなさに「このままではだめだ。もっと医学的な知識や技術が必要」と痛感。見つけたのが診療看護師の資格だった。
養成教育課程のある愛知医科大大学院で2年学び、20年度に合格。明石市内の総合病院を経て、24年から大西メディカルクリニックに勤務している。施設では各部屋を回って利用者の健康状態を確認し、ミーティングで医師らと情報を共有。助言をもらって対応することもある。
「患者さんを医学的にも、心理的、社会的にも理解し支える。それがより良い医療の提供につながる」と渡部さん。自身にとって一番近い形が診療看護師だ。「患者さんにも病院にももっと知ってもらい、活用してほしい」と願う。
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診療看護師(NP)になるには、看護師として5年以上の実務経験が必要。日本NP教育大学院協議会が認める教育課程を修了、資格認定試験に合格しなければならない。同協議会は「患者のQOL(生活の質)向上のために医師や多職種と連携・協働し、倫理的かつ科学的根拠に基づき一定レベルの診療を行うことができる看護師」と定義する。25年4月1日時点の資格認定者は984人。医療現場の負担軽減やチーム医療推進などへの貢献が期待されている。
「かまいたち」の活躍に限界感じ転身 希少な「診療看護師」は元お笑い芸人
神戸新聞NEXT 2025/06/07 10:30