ホンダアクセスは「実効空力」をキーワードに純正アクセサリーを展開しています。一体どのようなものなのでしょう。実際に試してみました。
ホンダアクセスの「実効空力」って何のこと?「実効空力」と聞いて、ピンとくる人はほとんどいないかもしれません。果たして実効空力とは、どういうものなのでしょう。
実効空力の理論を展開し、ホンダ車の純正アクセサリを手掛けるホンダ アクセスのワークショップに参加して、その正体を体験してきました。
日常生活において、「空力」を意識することはあまり多くありません。ただし、「空気抵抗」を感じることはしばしばあります。
例えば、向かい風の日に自転車に乗ると全く前に進みませんし、強風の日に傘をさすと風に持っていかれそうになるので、風の方向とは逆方向に持って耐える、ということは特に何も考えずに自然にやっています。
そして、クルマに乗っていると、スピードを増せば向かい風の抵抗を受けるとともに、ビューと風切音が入ってきます。強風の日はやはり風に煽られて左右にふらつきますし、トラックのうしろを走行すると風がやみます。
この空気抵抗を減らそうとするのが「空力」です。物体にまとわりつく空気の渦を減らせば、物体は動きやすくなります。
空気抵抗は目に見えないものなので非常にわかりづらいですが、基本的に動くものに対しては常に働いており、特に大きな物体のクルマには空力は非常に大切な考えです。
空力が悪いと、アクセルを目一杯踏んでもスピードが出ず、燃費が悪くなります。さらにクルマを上下・左右に動かしたり、回転させるような力にも働き、クルマの走行安定性を損ないます。
そこで、意のままの走りを目指すスポーツモデルや、タイムを競うようなレーシングカーでは、空力を意識した形状にします。
空力をうまくコントロールできると、車体を下に押さえつける(ダウンフォース)ように働かせることも可能になり、クルマを安定させる方向に持っていくこともできるため、「エアロパーツ」として車体に備えて、安定性を高めています。
ただし、スポーツモデルやレーシングカーでは、200km/h以上など非常に高いスピードで効果が出現するようになっていますが、ホンダアクセスの提唱する「実効空力」とは、「日常の速度域で体験できる空力効果」だといいます。
つまり、ミニバンや軽自動車など、一般的なクルマで、買い物や通勤など一般道を走行するだけでも十分に効果がある空力向上を目指す、ということなのです。
本当にそんな低速で空力向上を図れるのでしょうか。3つの試乗でチェックしてみます。
「N-BOX」の走りも変わる!? ふしぎな「ギザギザ」パーツがスゴいまずは、ホンダの再量販車種で販売台数ランキングでは国内トップを誇る軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」(先代モデル)を試乗します。
試乗は2パターンで、最初は純正そのままの状態、次にルーフエンドに簡易的な実効空力パーツを装着した状態で乗り比べてみました。
実効空力パーツは、長さ300mm程度×幅50mm程度×厚さ5mm程度の薄いパネルで、後端が正三角形を複数連続させたシェブロン(鋸歯)形状となっています。これが走行風による乱流(空気のうず)を小さくし、安定性を増加させるようです。
実際に乗ってみると、わずか40km/hほどの走行で十分実感することができます。
特に、円を描くように走行する定常円旋回では、実効空力パーツ無しではふらつきが抑えられず、ステアリングを「切り増し」するなど舵角が一定にならない感触がありましたが、リアの安定性が増えたように感じ、一定の舵角でスッと旋回ができました。
さらに定常円旋回から直線、直線から左コーナーへと走行する際も、クルマがロール(傾く動き)してから戻る一連の動きが全体的にスムーズになり、ブレーキングも4輪が接地している感触がありました。
サーキットでタイヤのスキール音(路面との抵抗で音が鳴く状態)を立てて限界走行しているわけではないのにも関わらず、やはり日常の速度域で実効空力パーツの効果はあるようです。
ホンダアクセスOBの福田 正剛氏はこの一連の動きの変化について、以下のように話しています。
「コーナー出口の行きたいところにクルマが向いてくれれば、『これで行けるんだ』という先読みができます。
全く切り増さなくていいというわけではありませんが、リアが安定するとステアリングの(どれくらい切るかの)予測がつきやすくなります」
また、ふらつきが抑えられて安定性が増すことで、当然リアシートでも車酔いの低減にもつながりそうだと実感します。
短い試乗であったものの、これが長距離や高速道路を走行した場合、疲労の違いも出てきそうで、結果として安全にも直結してくるでしょう。
続いて、5ドアスポーツハッチバックの「シビック e:HEV」(マイナーモデルチェンジ前)を乗り比べます。
シビックは、ホンダアクセスが設定している「テールゲートスポイラー」の従来タイプと、マイナーチェンジで設定された「テールゲートスポイラー(ウイングタイプ)」のみが違う2台を用意。
ウイングタイプはスポイラーの裏側にシェブロン形状を施し、全体的なスタイリングもスポーティさを増した仕様です。
なおテールゲートスポイラー以外は全く共通で、サスペンションはおろか、アルミホイール、履いているタイヤの銘柄までも同一としています。
この従来タイプでも、もともとのシビックの走りはよく、Modulo開発アドバイザーを務め、テールゲートスポイラーの開発に携わったレーシングドライバー 土屋 圭市氏も「(そのままで)全然いいよ!」と話しています。
定常円旋回では、ステアリング切り始めた瞬間からすでに大きな違いがありました。従来タイプでも十分回頭性がよい印象を受けますが、ウイングタイプではさらに「鼻先から曲がっていく」印象が強まりました。
試しにスピードを体感で2割ほど上げても、破綻したりタイヤがスキールすることなく、軽々と曲がっていくのには驚きます。
土屋 圭市氏もさきほどの従来タイプと比べ、「全然こっちのほうがいい。頭が入っていく」と話します。
どのような狙いがあるのか、ホンダアクセスのModulo(モデューロ)完成車性能担当 湯沢 峰司氏に聞いてみました。
「雪道と一緒で、コーナリング中に後ろがプア(な動き)になったらスピンしそうで怖くなります。その反対にアンダーステア(ステアリングを切っても遠心力方向が強く働き、膨らんでしまう現象)も怖いです。
それをなくすために、ステアリングを切ったあとリアタイヤを接地させ、4つのタイヤがしっかりグリップできるようにしています」
必ずしも限界走行でなくても、リアが安定していれば恐怖感がなくなり、安心してドライビングできるとともに、旋回性が増すと走る楽しさも高まることがわかります。
“走る壁”な「ハイエース」で実効空力は実感できる?また今回のワークショップでは、愛車を持ち込んでの実効空力の体験もできました。
編集部では、いちばん効果が分かりやすそうだという単純な理由で、社用車の商用1BOXバン トヨタ「ハイエース」で参加しています。
ハイエースは荷物を運ぶクルマなので、荷室のスペースは最大限まで拡張されているぶん、ボディはほぼ四角。その姿はさながら「壁」が走っているといった状況で、当然ながら、高速道路では風にあおられてふらつき、「空力が悪い」という言い方ができます。
先出のホンダアクセスOBの福田氏によると、ハイエースは「どこからも風を受けやすいボディ形状」だといい、効果をチェックするにはもってこいです。
試乗コースは、スタートしてすぐに定常円旋回。その後おだやかな左コーナーを抜け、スピードバンプのような段差を乗り越えてゴールです。
一般道を走る想定として概ね40km/h程度。定常円旋回はややスピードが高めですが、タイヤがスキールするほどレベルではありません。
まずは、何も付けない状態で普通に走ってみます。定常円旋回はなんとか回れるといった状態で、遠心力にしたがってアンダーステア傾向になるため、ステアリングの切り増しして無理やり曲げてやらないとダメでした。
では、シェブロンの実効空力パーツを各部に取り付けて試してみます。実効空力パーツは、取り付ける場所や数を変えて何パターンも実験し、繰り返し検証を行いました。
まず最も効果があったのはルーフの前寄り中央、後ろ寄り中央にそれぞれ2個づけしたものでした。旋回時、明らかにロール量が減っています。
これは福田氏からアドバイスを受けたもので、大きな面積のルーフで整流効果がみられたということになります。
次に効果があったのはフロントバンパーコーナーでした。もともとシンプルなデザインとなっているハイエースのバンパーには、市販のカスタムパーツとしてバンパーのカナードスポイラーなどが多数用意されています。
さらに、ホンダアクセスの手がけるコンプリートカーシリーズ「Modulo X」でも、「エアロフィン」としてバンパーコーナーに整流のための「ひれ」形状を持たせているので、おそらく効果が出現するのではないかと睨んだのです。
やはり旋回時はフロントだけでなくボディサイドにも風を受けているようで、これをうまく流すことで旋回性が向上。定常円旋回でスピードを上げても、ステアリングを切り増す量が明らかに減りました。
これ以外にも、クオーター部(テールランプにはもともとエアロフィン形状が純正で採用されている)やルーフエンドにも装着するなど、複数のパターンを試してみました。
もちろん効果が強く現れたものや、かえって逆効果になってしまったものもありました。しかし、むしろ非常に小さく薄い実効空力パーツでも、それぞれで純正との違いを十分感じられたことは驚きです。
ほんのわずかに見えるパーツでも、愛車のハンドリングや安定性が上がれば、普段の走行でも安心感やドライビングの楽しさを感じられる「実効空力」の理論。
今後のホンダアクセスによるパーツ展開も、ますます期待が高まります。