「ギャン」は『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツ(MS)です。
アニメ『ガンダムビルドファイターズトライ』には、ギャンを溺愛する「ギャン子(サザキ・カオルコ)」が登場し、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』にも、ギャンを存分に彷彿とさせるフォルムの「ギャンシュトローム」が登場するなど、後年に制作された「ガンダム」シリーズ作品にも引用されるほど人気の高いギャンですが、実のところ映像化された範囲では1機しか登場していません。
ジオン公国では、国内の複数の軍需企業に試作させたMSを比較審査し、その結果、公国軍が優れていると判断したものを量産機としています。現実世界でも、アメリカなどはこの手法を採用しており、たとえば航空自衛隊が導入を進めているF-35戦闘機は、アメリカ軍による他社の開発した試作機との比較審査を経て同軍に採用されました。
ギャンは、地球連邦軍のモビルスーツを相手とする近接戦闘能力に重きを置いて開発されたという設定です。このため運動性能が高く、作中でも主人公「アムロ・レイ」が搭乗した「ガンダム」を苦戦させています。しかしガンダムのビーム・ライフルのような、遠距離から攻撃できる兵装がなく汎用性が低かったことから、比較審査のライバルで、ビーム・ライフルを使用できる「ゲルググ」に量産機の座を奪われてしまったというわけです。
コンペでゲルググに敗れたギャンではあるものの、対MS戦で威力を発揮する運動性の高さに対する評価は高かったようで、模型企画の「MS-X」には、ギャンの運動性の高さとゲルググの汎用性の高さを兼ね備えた後継機の「ガルバルディ(α)」が登場しています。
ガルバルディ(α)はアニメ作品には登場しませんが、『機動戦士Zガンダム』に、本機を接収して改良が加えられたという設定の「ガルバルディβ」が地球連邦軍の量産機として登場し、作中序盤で主人公「カミーユ・ビダン」が駆る「ガンダムMk-II」と激戦を繰り広げていました。ただエピソードが進みMSの能力がインフレ化していくと、ガルバルディβの出番も減少していきます。
やがて続編の『機動戦士ガンダムZZ』には、ギャンの設計思想を受け継いだ近接戦闘能力の高い「R・ジャジャ」が、ジオン公国の復活を目指すネオ・ジオンによって少数が生産され、上級士官に与えられたという設定で登場しました。このようにギャンは、自身こそコンペに敗れたものの、子孫といえる後継機種が作られるなど、そのDNAは残せたようです。
現実世界で、そうしたギャンとよく似た存在といえるのが、F/A-18「ホーネット」戦闘機でしょう。
1970年代、アメリカ空軍は高性能で高価なF-15を補佐する「軽量戦闘機」の導入計画を推進していました。この計画ではジェネラル・ダイナミクス(現ロッキード・マーティン)のYF-16と、ノースロップ(現ノースロップ・グラマン)のYF-17が試作機の製造に駒を進め、アメリカ空軍は比較審査にてYF-16を採用し、その結果、F-16「ファイティング・ファルコン」が誕生したというわけです。
敗者となったYF-17は、その素性の良さを高く評価したアメリカ海軍が、改良を加え空母艦載戦闘機のF/A-18として採用します。アメリカ以外の国にも空軍機として採用されただけでなく、設計思想を受け継いだ発展型のF/A-18「スーパーホーネット」が開発された点も、ギャンと似ています。
「捨てる神あれば拾う神あり」とは言うものの設計思想の優れた兵器には「拾う神」が現れやすくなるのかもしれません。