アニメ「機動戦士ガンダム」シリーズにおいて、主人公や主要キャラクターはしばしば特別仕様のモビルスーツ(MS)に搭乗します。ニュータイプ専用機やエースパイロット向けのカスタム機に加え、量産機のなかでも指揮官機として特別に識別される機体が登場することも少なくありません。これらの指揮官機は、通常の量産機と異なるカラーリングや識別マークを有し、指揮能力の向上や通信機能の強化といった特別な仕様を施されることが多いようです。
では、このような「指揮官機」は現実の軍事組織にも存在するのでしょうか。
実は、アメリカ海軍の空母航空団には、「ガンダム」シリーズの指揮官機と類似する「CAG(Commander Air Group)機」または「CAGバード」と呼ばれる特別な機体が存在します。CAG機は、空母航空団司令官が優先的に搭乗する機体であり、その外観や運用方法には、ガンダムシリーズの指揮官機と多くの共通点が見られます。
アメリカ海軍の空母航空団(CVW)は、戦闘攻撃機、電子戦機、早期警戒機、輸送機、哨戒ヘリコプターなど複数の機種からなる飛行隊で構成され、その統括を担うのが空母航空団司令官(CAG)です。空母航空団司令官は航空機搭乗員出身の大佐であり、これは空母艦長と同格の階級にあたります。
CAG機は、空母航空団隷下の各飛行隊に1機ずつ存在し、F-35C「ライトニングII」やF/A-18E/F「スーパーホーネット」などの戦闘機のほか、E-2D「ホークアイ」早期警戒機やEA-18G「グラウラー」電子戦機などがこれに割り当てられることもあります。そして空母航空団司令官がたとえばF-35C「ライトニングII」戦闘機パイロット出身であれば、F-35Cにしか搭乗することはありません。
CAG機の最大の特徴は、その華やかな塗装にあるといえるでしょう。通常、空母艦載機は作戦上の視認性を抑えるためにグレー基調の「ロービジ」塗装が施されますが、CAG機は飛行隊の象徴的なカラーリングや大胆なデザインを採用し、エンブレムやマーキングも大きく描かれます。このため、軍用機の撮影愛好家や、模型趣味のファンのあいだで特に人気が高い機体となっています。
ロービジ(低視認)塗装に対し、CAG機のような特別塗装は「ハイビジ(高視認)」と呼ばれ、視認性が高まることで敵に発見されやすくなるという理論上の不利はあります。しかし、現代の航空戦ではレーダーや誘導兵器による視程外戦闘が主流であるため、大きな戦術的不利にはならないと考えられます。
ただし、CAG機は完全な専用機ではなく、「空母航空団司令官に優先的に割り当てられる」というだけであり、通常時は飛行隊の搭乗員が運用することもあります。また、CAG機が実戦に投入されることはあるものの、空母航空団司令官は艦上にあって空母航空団を指揮することが任務ですから、基本的に直接戦闘に参加することはありません。
MSの指揮官機、たとえば「MS-06S 指揮官用ザクII」では、通信アンテナの追加や性能向上が図られていますが、CAG機の場合、通常の機体との違いは塗装のみです。その存在意義は戦術的な役割よりも、飛行隊の誇りを示し、士気を向上させるという、象徴的意味合いにあるといえるでしょう。