2011年3月のジュネーブショーで6代目ゴルフにカブリオレが世界初公開されて、日本でも大きな話題となった。2002年に生産を終了して以来、実に9年ぶりの新しいゴルフのオープンモデルは、その伝統に則り、ソフトトップを採用していた。ゴルフカブリオレは2011年9月には日本上陸を果たすのだが、ここでは2011年春に南仏で開催された国際試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2011年7月号より)
周囲を和ませる柔らかな雰囲気が魅力だったゴルフカブリオレ2006年に登場したEOSにバトンタッチして、役目を終えたかに見えたゴルフカブリオレが帰って来た。新型はもちろん、ゴルフⅥをベースとするバリバリのニューモデルである。
ゴルフのオープンモデルと言えば、ゴルフIをベースとしたカブリオが長期間作られ、ゴルフIIを飛ばしてⅢでカブリオレとして再登場し、1998年にⅣ風に化粧直しを受けたものの、中身はほぼⅢのまま継続したモデルを最後に立ち消え、という数奇な過去を持つ。
ソフトトップを備えたその風貌は、質実剛健なゴルフファミリーの中でどこか周囲を和ませる柔らかな雰囲気を備えていたし、広いとは言い難いながらもリアシートとトランクルームを有する実用性が評価され、オープンエアを快適に過ごせる季節が短い日本でも確実にファンを掴んでいた。
EOSは、そうした既存のファンには微妙な存在だったのかも知れない。時流に乗ってリトラクタブルハードトップを採用したものの、多分割化してもなお、それを収納するリアデッキには相応の長さを必要とした。
開ければ爽快なオープン、閉めればクーペという2面性は確かに便利だが、引き換えにゴルフカブリオレの最大の魅力である和み感も薄れた。それに凝ったメカニズムを採用した結果、価格的な距離が開いてしまったという側面もあったのだろう。
もちろん海外市場ではEOSもいまだ健在で、先頃ゴルフⅥと共通性を持つ2世代目にフルチェンジを終えている。しかし過去の高級路線とは決別し、今やゴルフのリトラクタブルハードトップモデルという趣が強く、やはり、「ゴルフカブリオレでなければ出せないカジュアルでフレンドリーな雰囲気は一定のニーズがある」、そう思い直したフォルクスワーゲンは、6代目ゴルフをベースに、ソフトトップのカブリオレを再び開発したのである。
日本仕様に装着されるパフォーマンスパックカルマンの後を継いだドイツのオスナブリュックにあるフォルクスワーゲンの工場で今回も生産される新型ゴルフカブリオレの特徴は、歴代モデルが持っていた固定式ロールバーを廃したことだ。親しみを込めドイツで「イチゴ籠の把手」と呼ばれたアイコンが消えたのには一抹の寂しさもあるが、おかげで新型ゴルフカブリオレはフラットなベルトラインを実現した。フォルクスワーゲンの技術者はこの新型を時々「コンバーチブル」と表現していたが、それもこの新しいスタイリングと関係あるのかも知れない。
ロールバーに代わり安全性を担保するのは、車体にかかる横加速度やロール角が一定の値を超えると、0.25秒でリアヘッドレスト後方に立ち上がるロールオーバープロテクションシステムである。この機構はすでにニュービートルカブリオレやEOSに搭載されているが、モジュールの小型化などこの新型ゴルフカブリオレ用に進化させた。その結果、トランクルームも圧迫されず250Lという十分な容量を確保している。
フォルクスワーゲンバッジを起こしてノブとして開くトランクリッドは、開口面積があまり大きくはないものの、内部は十分な深さと奥行きがあり、2名分のキャリーバッグとコンピューターセーフを収めてなお余裕が残る。また、開口の比較的大きなトランクスルーもあり、50:50左右分割可倒式リアシートを倒すことでスルー機能の活用もできる。
2名分のリアシートスペースも、余裕しゃくしゃくとまでいかないものの、それでも先代カブリオレに対してはかなり広げられた。身長170cmの僕がドラポジを取っても、その後席で十分なレッグスペースを確保できるから、4人乗りの実用も考えられよう。
ただし、ソフトトップを閉めると、ヘッドクリアランスには問題はないものの、Cピラーに当たる部分の幌の面積が大きいため閉塞感が強まるのは否めない。また、オープン時に後席への風の巻き込みが激しいのはカブリオレの宿命でもある。4座のオープン走行はリゾート先の小移動限定と考えた方が良さそうだ。
インパネは見慣れたゴルフⅥそのものだ。秋に導入予定と言われる日本仕様は、パフォーマンスパックという上級トリムが標準となり、炎天下でも表皮温度の上昇を抑える特殊加工を施した「クールレザー」の本革内装、前席シートヒーター、レインセンサー、自動防眩ルームミラー、ステンレスペダルなどを装備。エクステリアも各所のクロームアクセント、LEDDデイタイムランニングライト付バイキセノンヘッドライトが揃う。
新型ゴルフカブリオレは6種類のエンジンが用意されるが、トリムレベルは統一で、このようなパッケージオプションでシステムアップしていく方式を採っている。ちなみに、日本仕様に搭載されるエンジンは、今のところ1.4Lツインチャージャーで160ps仕様のTSIとなる模様。もちろん7速DSGとの組み合わせだ。
エコ指向の強いアイドリングストップを中心としたブルーモーションは、現在まだ6速MTの1.2TSI(105ps)のみの設定だが、今後展開が増えれば導入が検討されそうだ。
オープン時の開放感は抜群でクローズド時の静粛性も高い1.4TSIを搭載したゴルフカブリオレで、ニースの海岸線を走り出す。
最初に驚かされたのが、歴代モデルとは比べ物にならないほどボディのしっかり感が増していることである。以前のゴルフカブリオレも、大きな開口を持つオープンモデルとしてはけっこうしっかりできていたが、それでもピラー周りのシェイクは出ていた。しかし新型にはシェイクの「シ」の字すら感じられない。ギャップを乗り越えても振動はトンと1回で収まり、あとに変な余韻も残さない。したがってクリアなステアフィールや、足まわりの高い接地性など、ハッチバックとほぼ同質の乗り味が得られている。
聞けば、ハイテンションスチールのグレードを上げたフロントウインドウフレームを中心に、アンダーボディからサイドパネル&シル、バックパネルなど、車体のストレスメンバー各部に相当の補強を行っているとのことだ。
ただし、これに完全自動開閉式ソフトトップ機構やロールオーバープロテクションなども加わることで、その車重は1500kgを超えてしまった。ハッチバックのハイラインに対して約160kgの増加である。
それが走りに与えた影響は確かにある。ハイラインでは「これ以上必要ない」と思えたパワーフィールが若干薄れているのだ。とくにスタートダッシュでは、クルマに明確な重さを感じさせる。ついついアクセル開度が増してしまうのだ。
同時に210psの2.0TSIに試乗することもできたが、走りの痛快さという点でこれは魅力的なモデルだった。ただ、カブリオレでシャカリキに飛ばすというのも無粋な話。和み系のゴルフとしては、160psの1.4TSIは良い選択と言えよう。
オートルートをオープンで走ったが、キャビンへの風の巻き込みもよくコントロールされていた。とくに、リアシートを覆うカタチで展開するウインドディフレクターをシート後方で立ち上げておくと、後方からの巻き上げが低減する。この状態で4枚のウインドウを上げてしまえば130km/hで走ってもエアコンの風が肌を撫でるのがわかるほど車内は平穏だ。
Aピラーはハッチバックより角度を寝かせているものの、長さがかなり短い。その関係で、額の上は完全に青空という感じ。この開放感は素晴らしい。最近はAピラーを頭上まで回り込ませたオープンも多いが、これだと開放感は半減してしまう。
ただ、5月の南仏はすでにかなり日差しが強く、試乗後半はもっぱらトップを閉めて走行した。その場合は頭上に若干の圧迫感が出てくる。Aピラーが短い上に、頭上にトップとウインドウフレームを締結するロック機構を内蔵したルーフボードがあるのでそう感じるのだ。しかし、閉じてしばらく走ると、それも慣れてしまった。
クローズの状態での静粛性が非常に高いのにも感心した。3つ折りのソフトトップは運転席上部が畳んだ時にカバーとなるハードボードで、その後方にも3本のルーフボーが入るという念入りな造りによるものだろう。ちなみにこのソフトトップ、オープンにかかる時間は約9秒と素早く、しかも30km/h以下ならいつでも操作可能だ。
ゴルフファミリーに久々に帰って来た和み系の末娘「ゴルフカブリオレ」は、実力/ルックス共に大きく成長を遂げていたと言うわけである。(文:石川芳雄)
●フォルクスワーゲン ゴルフカブリオレ 1.4TSI 主要諸元
●全長×全幅×全高:4246×1782×1423mm
●ホイールベース:2578mm
●車両重量:1503kg
●エンジン:直4DOHCターボ+スーパーチャージャー
●排気量:1389cc
●最高出力:118kW(160ps)/5800rpm
●最大トルク:240Nm/1500rpm
●トランスミッション:7速DCT
●駆動方式:FF
●最高速:216km/h
●0→100km/h加速:8.4秒
※欧州仕様 EU準拠