【第一人者が教える 認知症のすべて】
アルツハイマー型認知症の発症を遅らせられる薬が一昨年承認されましたが、残念ながら、この病気を根絶するまでは医学が発展していません。
進行は止められず、軽度から5年ほどで中等度へ、中等度から5〜8年ほどで高度へと移行していきます。今回は認知症で高度に至った時の対応について、特にご家族に向けてお話ししたいと思います。
大事なのは、高度に至ったとしても、基本的に日々の生活の質を優先して保っていくことは変わらないということです。ご家族をはじめ、さまざまな人との交流は脳へ良い刺激を与えます。ご家族から見て「会話のキャッチボールに難がある」と感じたとしても、どんどん話しかけ、コミュニケーションを取るようにしてください。
また、散歩や買い物、旅行なども、介助が必要にはなるものの、積極的に連れ出してあげてください。これからの季節は桜や新緑を楽しめます。季節の変化は、外に出かけることでより感じられます。
軽度、中等度でもお話ししましたが、薬物療法と非薬物療法の両輪でいくことは、高度でも変わりません。ただ、軽度では使える新薬レケンビとケサンラ(一般名はレカネマブとドナネマブ)は、中等度以降は適応から外れます。
高度ではすでにMRIやCTの画像検査で脳の萎縮の進行が確認できる段階。神経細胞がダメージを受けているので、原因物質のアミロイドβを除去しても、認知機能の進行を遅らせられません。患者さんやご家族に説明するときは、神経細胞のダメージを火事に例え、「火事が広がっていて、火元を消しても追いつかない状態」と説明しています。
高度で使う薬は4種類あります。飲み薬のアリセプト、レミニール、貼り薬のイクセロンパッチ・リバスタッチパッチ(これら2つは同じ薬ですが、別々の会社から違う製品名で販売されています)、そしてメマリーです。
アリセプト、レミニール、イクセロンパッチ・リバスタッチパッチはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬という薬で、アルツハイマー型認知症で減少するアセチルコリンを補う作用があります。アセチルコリンは、記憶に関係する神経伝達物質です。
メマリーは作用機序が異なり、NMDA受容体拮抗薬という薬です。神経伝達物質グルタミン酸の過剰な放出を抑える働きがあります。グルタミン酸の過剰な活性化は、記憶の情報伝達を悪くし、脳の神経細胞を障害します。
寝たきりになり、精神的な症状がなければ薬を減らす方向に高度での薬物療法では、4種類の薬を選び、量を調整し、症状によってはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトなど)とメマリーを組み合わせます。
一方で、寝たきりになり、精神的な症状がなければ、薬を減らしたり、やめてしまったりすることもあります。
薬に関しては、よく受ける質問があります。高度の場合に限った話ではありませんが、ここで触れたいと思います。
「薬は必ず飲まないといけませんか?」に関しては、「必ず」ではないものの、できる限りお勧めしています。落ち込みがなくなったり、イライラが減ったりして、ご本人が楽になることがあるからです。ただし、前述のように、症状が進行し薬の効果があまり見られなくなったら減薬したり薬の中止をしたりします。
「副作用はありますか?」という質問もよく受けます。古くからあるアリセプトやメマリーなどの4種類の薬は、ひどい副作用はありません。体質が合わないケースもありますが、多くはありません。もし副作用が出た場合は、服薬をストップしたり別の薬へ変更したりします。
高度の認知症では、薬以外の対策として、介護保険の申請はマスト。他に自立支援、精神障害者手帳、障害者用年金もあり、これらを手続きすることで治療や介護にかかるお金の自己負担分が減りますし、年金の支給が早くなります。
デイサービスの利用も強くお勧めしたい。一日中家にいて、テレビだけを見ているより、脳にも体にもいい。デイサービスもいろいろで、患者さんの性格や趣味・嗜好によって向き不向きがあります。見学に行き、合ったところを探してください。
「デイサービスに行きたがらないんです」とは、家族からよく言われること。一つのアドバイスとして、デイサービスのスタッフの方に相談し、スタッフのお手伝い的な立場で参加する流れにするのはいかがでしょうか。
ご本人が社会参加や何かに貢献していると感じられれば、デイサービスに意欲を持って参加するようになるかもしれません。
(新井平伊/順天堂大学医学部名誉教授)