「師匠」──。水沢さんは大谷翔平をそう呼ぶ。「会いたいとかサインが欲しいなんて思わない。ただ、活躍するところを見守りたい」という“真のファン”に、その魅力を熱く語ってもらった。
ついに開幕! 今年もヒリヒリする9月に向けて動き出しました。
私は大谷選手の大ファンです。といっても、それまでは野球に興味がなく、正直、今もルールはよく分かっていないんです。四塁っていうのはあるんですか?選手がかえってくるところ(本塁のこと)。それくらいのレベルなんですが、大谷選手には夢中なんです。
それはなぜか。きっかけはエンゼルス時代、テレビで見た大谷選手のインタビューでした。受け答え、頻繁に口にしていた「感謝」という言葉。それから、世界一の技術を持つ裏には計り知れない努力があることを知り、その人間力に惹かれていきました。人生設計シートを作っているところは、私も計画魔なのですごく共感したんです。
昨年2月、ドジャースタジアムへ一人で行くことを思い立ち、7月2日のダイヤモンドバックス戦のチケットを取りました。手数料込みで1席約134ドル。3泊5日の旅でした。
チケットやホテルは確保したものの、スタジアムに行く交通手段は皆無。諦めかけていた出発5日前、現地に住む真美子さんという方を知人に紹介してもらいました。大谷選手の奥さんとは偶然にも同じ名前。しかも漢字まで一緒!
真美子さんは大谷選手が入団する前からのエンゼルスファン。メジャーの全球場を制覇した猛者でもあります。真美子さんからは試合前日、「球場に持っていく荷物は最小限にね」と言われていました。当日、トートバッグに携帯電話と財布、パスポート、ペットボトルの水、お菓子、メーク道具を入れて球場に向かいました。これが私の「最小限」。しかし、駐車場に到着した真美子さんから「ダメじゃな〜い」と却下されました。
理由は球場のルール。ドジャースタジアムでは荷物を持ち込むカバンは中身が見える透明のものでなければいけないというもの。そのクリアバッグはサイズまで決まっていて、それを超えるものは規制対象となり、持ち込まない荷物は預かってくれず、その場で廃棄されるというのです。自家用車で来場する人が多いため、車内に置いていくファンがほとんどだそうですが、そうでない方は気を付けてください。私は真美子さんからエンゼルス時代の大谷選手のクリアバッグをプレゼントしてもらい、残りの荷物は真美子さんの車のトランクへしまって事なきを得ました。
そして、いざ球場に向かったのですが、なぜか携帯がウンともスンともいわない。オンラインチケットのため、携帯が動かないと受け付けできません。ドジャースタジアムまで来て中に入れないなんて、こんな悲劇はない。周りの皆さんに聞くと、「以前、年配の方で画面を出せなくて入れない人がいましたよ」と言われて余計不安に。しかしその後、真美子さんの携帯電話のWi-Fiを借りて無事入場。真美子さんはどこまでも救世主です。
私の座席は三塁側後方の内野席。そこから初めて生で見た大谷選手は、他の名だたる屈強なメジャーのスター選手に見劣りしない体格と存在感。日本人もここまで来たかと感動しました。
私は46年前にロスへ留学しましたが、米国に住むと、日本人はアジア人としての差別を感じさせられることが少なくありません。「背が小さい」「英語が下手」……米国にいて日本人として優越感に浸ることなんてなかった。でも、大谷選手のおかげで日本人であることが誇らしくなり、うれしくなりました。
現地では、日本のテレビのダイジェストニュースでは映らない三振も目の当たりにし、悔しさがこみ上げて試合にどんどんのめり込んでいきました。「レッツゴー、ドジャース!」の掛け声と共に、「パンパンパパパン」と手拍子をする声援で球場がひとつに。
通訳アイアトン氏との意外な関係しかも、目の前で大谷選手がホームランを打つところを見られて大満足。何しろ初めてだったので、売店で買ったチキンサンドを食べるのも忘れて大興奮。とにかく胸がいっぱいで、コーラも半分残しました。
チキンサンドはカバンに入れっぱなしにしていたので、ホテルに帰って出したらぐちゃぐちゃ。見るも無残な状態でしたが、感動と余韻に浸りながら食べました。
現地観戦の楽しさを知り、「今季最後のドジャース戦(ホーム)はいつ?」と真美子さんに尋ねました。それが地区優勝を決めた9月26日のパドレス戦でした。
真美子さんはエンゼルスファンですが、ナ・リーグではパドレス推しでタティスJrの大ファン。再び一緒に行くことになりました。座席の場所はバックネット裏近辺。集まった日本人ファンの人たちと大盛り上がりで観戦しました。
東京ドームの開幕戦チケットがネットで250万円近くで出品されていたと聞きます。確かに楽しみですが、チケット1枚に何百万円も費やすなら、ぜひロスの現地で見てほしい。その方が安く済みますし(笑)。
実は、私と大谷選手には意外な“縁”があります。キーマンは大谷選手の通訳を務めるウィル・アイアトンさん(36)。実は私の息子、ジュリアン(38)とウィルはセントメリーズインターナショナルスクールで同じ少年野球チームに所属していました。
試合のとき、ウィルのお父さまとお母さまはいつもピザやチキンの差し入れを持ってきてくれました。あるとき息子から「ウィルが中学で(インターを)やめるんだよ。野球をやると決めて、ハワイの高校に行くんだって」と。
さらに、私の娘、フランセス(36)とウィルのお姉さんは清泉インターナショナルスクールの同級生で親友なのです。当時、私は多額の不動産ローンを返済するため寝ずに働いていたので、地方の仕事があるときは息子と娘を別々に友達の家へ預けていました。
娘はアイアトン家に行く頻度が高く、私が地方の仕事から帰ってアイアトン家に迎えに行くと、当時まだ小さかったウィルがいて、いつもお姉ちゃんについて回っていたのを思い出します。
私はいわゆる「大谷語録」のファンでもあります。テレビやSNSや見聞きした言葉で心に響いたものをノートにメモしています。
たとえば、母の日に向けたJALの広告。
「僕がカーネーションを抱え、空を飛んで会いに行っても、母は喜ばない。試合に、練習に行かなくていいの? そんな顔をするでしょう。だから、代わりに僕はホームランを打ちたい」
読むだけで涙が出そうになります。ご両親がマスコミに出ない謙虚な姿勢も素晴らしいですね。親の生き方や生きざまが大谷選手に映っている。突然変異ではなく、なるべくしてなったヒーローです。もう歴史上の人物。年齢は40歳も下ですが、大谷選手は私の人生の「師匠」です。
(取材・構成=中西悠子/日刊ゲンダイ)
▽水沢アキ(みずさわ・あき) 1954年、東京都生まれ。17歳のときに芸能界デビューし、女優やタレントとして活躍。24歳のとき、ロスのUCLAに留学。86年、日本在住の米国人実業家と結婚し、1男1女をもうける。長男ジュリアンは米国で俳優、長女フランセスは壁画作家「フランキー」として活躍中。