「大谷翔平バブル」で動いた超巨大マネーの全貌…MLBは日本開幕シリーズでこんなにボロ儲けしていた!

小林至氏(東大→ロッテ→現桜美林大学教授)

【直撃インタビュー】

 カブスとドジャースの開幕戦「東京シリーズ」が大盛況のうちに幕を閉じた。大谷翔平(30)をはじめとする5人の日本人メジャーリーガーの凱旋で、日本中が大フィーバー。開幕2試合はもちろん、巨人と阪神とのプレシーズンマッチ、公開練習のチケットまで即完売で、関連グッズもバカ売れした。球場や街中はドジャースの帽子をかぶり、大谷のユニホーム、Tシャツを着たファンであふれ返ったが、MLBは一体、日本からいくら吸い上げて帰ったのか。元プロ野球選手でスポーツ経営学の専門家・小林至氏に聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ──小林さんは今回の日本開幕シリーズを通して、MLBが100億円の収入を得たと試算されている。

「今回の開幕シリーズはカブスがホームです。レギュラーシーズンでのカブスの1試合当たりのスタジアム収入(チケット、物販、飲食、広告看板)は約6億円ですから、MLBは開幕戦ということも踏まえて、1試合7億円から8億円、2試合で15億円前後でカブスから興行権を買い取ったと推定します。これをMLBが読売新聞に、巨人と阪神とのプレシーズンマッチを含めて30億円くらいで売却したとみています。この開幕シリーズだけで22社ものスポンサーがつきましたし、それにプラスしてグッズのライセンス収入がある。グッズは定価の12%がライセンス料としてMLBに入る仕組みです」

 ──仮にTシャツ1枚7000円だとすれば840円、1枚2万円のユニホームなら2400円がMLBの取り分ということですね。大谷のTシャツ、ユニホームが飛ぶように売れました。

「全国に大谷人気が波及するというのは、米国にはない現象です。MLBはフランチャイズのテリトリー権が非常に強く、テリトリー外でビジネスをしてはいけない規定がある。例えばドジャースも米国でのマーケットはロサンゼルスエリアだけ。東海岸で野球に興味のない人に大谷翔平のことを聞いたら、大半の人が知らないと思います。これは大谷選手が米国で人気がないということではなく、MLBと各球団が結ぶ『エージェンシーアグリーメント』という規定があるためで、全米で大谷をフィーチャーするわけにはいかない。そう考えれば、MLBにとって国内市場は頭打ちです。一方、日本は米国の西部開拓と同じ、フロンティア。誰でも手がつけられるマーケットで、だからこそMLBにとってもドジャースにとっても、大谷を旗頭とした日本の市場は大きい。今回の開幕シリーズに22社のスポンサーがついたと言いましたが、ドジャースは昨年、ローカルマーケットで120億円もの日本スポンサーがつきましたから」

中国、欧州、インドは「海に塩」

 ──MLBと球団にとってはやはり日本市場は魅力がある。

「マンフレッド・コミッショナーは、記者会見で“ビリオンダラー(1500億円)の可能性がある”と表明していましたね。巡り巡って、やっぱり日本だなという感じだと思います。選手の供給市場としても、ビジネスの市場としても非常に大きいのに加え、日本はマーケットが成熟している。MLBは世界戦略を考えていて、ヨーロッパやオーストラリアで試合をし、中国やインドなどでオフィスを開設してプロモーション活動を続けていますが、海に塩をまいているような感じだと思います。(2019、23年に続き)昨季も6月にロンドンで公式戦をやり、メキシコやプエルトリコなどの中南米でも開催してきました。ただ、日本に比べるとマーケットが小さい。日本にはプロ野球もあるし、やっぱり国際戦略の中心は日本だなと思うでしょう。もちろん、その中で大谷翔平の存在は大きい。スーパースターは最強商品。大谷翔平という太陽の存在があるから、月(佐々木朗希や山本由伸ら他の選手)も光るわけです」

 ──-放映権料も大きい。

「実はMLBにとって日本のテレビの放映権は非常に安く、大きな利益にはなりません。過去に何度も値上げを繰り返してはいますが、それでも日本からの放映権料は推定で年間200億円。MLBのテレビの放送権収入は年間約6000億円ぐらいあるので、メジャー全体の3.3%程度なんです」

 ──中心はやはりライセンスビジネスですか。

「MLBの総収入は1兆7000億円ですが、権利販売の集積です。チケットも放送もスポンサーもライセンスも、すべて権利販売です。だから、権利関係にはものすごく厳しい。例えばMLBはナイキ社とスポーツグッズ最大手のファナティクス社とユニホームのサプライヤー契約を結んでいるので、30球団はナイキ社以外のスポーツアパレルブランドと契約できません。大谷選手個人はニューバランスと契約していますが、ニューバランスは大谷選手のユニホーム姿を広告に使うことは絶対にできません」

2027年に再び日本開幕の可能性

 ──東京シリーズの凱旋会見で佐々木と山本がドジャースのTシャツを着る中、大谷はその上からニューバランスのTシャツを着ていた。あれは「アリ」なのでしょうか。

「本来はナシ、絶対にないです。特別にMLBが許可したんでしょうね。大谷選手に記者会見に出てもらう代わりに、ニューバランスを着ていいという大谷サイドとの交渉があったと思う。MLBがナイキとファナティクスに了解を取らなきゃいけないので、結構大変だったと思います」

 ──いずれにしろ、日本での公式戦開催は大きな利益を生む。MLBは毎年、日本開催を考えるのではないですか。

「マンフレッド・コミッショナーは“3年に1度くらいやりたい”と表明していましたね。今回のチケット料は良い席で1席8万円(ダイヤモンドボックスは15万円)。それだけ高い値段設定でも瞬間蒸発(即完売)した。需要と供給で言えば、もっと高くしても買うでしょう。(日本の興行主である)読売新聞社は報道機関という側面があり、世論からあまりにかけ離れた値段をつけると反感を買うことになりかねないという部分はいつも気にしている。ただ、MLB側からは『瞬間蒸発したんだから、(次回は)もっと高く売れるはずだ』と言ってくると思う。MLBはヨーロッパでの興行も恒例にしていて、今年はフランスでやる予定だったんですが、読売新聞社や電通のようにフランス国内で興行権を買い取れるプロモーターがおらず、金額の折り合いがつかなくて中止になった。日本は米国に次ぐ2番手の市場規模で、3番手の韓国でも規模は日本の半分以下。来季はWBC(ワールド・ベースボール・クラシック=米国や日本で開催)があるので、開幕を日本でやる可能性はないと思いますが、2027年シーズンは再び日本で開催するかもしれません」

(聞き手=中西悠子/日刊ゲンダイ)

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▽小林至(こばやし・いたる)1968年、神奈川県出身。91年ドラフト8位でロッテに入団。当時、史上3人目となる東京大学出身のプロ野球選手として話題になる。現役引退後、MBAを取得。2005年にはソフトバンクホークスの取締役に就任して球団運営に携わり、編成や渉外を歴任した。20年から桜美林大学教授。

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