“ミスター・ラグビー”と呼ばれた松尾雄治さん 西麻布で会員制バーを切り盛り「格安なので大繁盛だよ」(あの人は今)

【あの人は今こうしている】

 松尾雄治さん(元ラグビー日本代表/71歳)

  ◇  ◇  ◇

 日本で開催された6年前のW杯を機に、日本ラグビーの注目度は一気に高まった。しかし、80年代のラグビー人気は今以上に熱かった。その中心にいたのが、新日鉄釜石の日本選手権7連覇の立役者・松尾雄治さんだ。引退後、スポーツキャスターとしても活躍した松尾さん、今どうしているのか。

 松尾さんに会ったのは、東京・西麻布にある会員制バー「リビング」。

「12年前に始めました。なぜって、やることないから。というのは冗談で、僕は友だちがたくさんいるから、『どこか、みんなで飲めるところがないかな』という話になったとき、『なら、オレが犠牲になってやるか』ということになってね」

 松尾さん、まずはこう言って笑った。

「店は年中無休で、20時から朝まで。飲み放題・食べ放題で1人7000円。もうけようと思ってないから、このへんの相場より圧倒的に安い。だから、いつもお客さんでいっぱい。僕も毎日いますよ。高校1年まで通い、2012年まで大学ラグビー部の監督も務めていたから、成城学園の関係の友だちとか、野球やサッカーなどスポーツ界の友人、芸能界の友人……いろいろ来てくれます」

 キャパ35人で、カラオケあり、従業員も数人雇う。松尾さんがカウンターで酒を作ることもある。

「僕が作ると濃すぎてマズイ、と言われますけど(笑)。僕ももう71歳。人生80年として、あと9年だから、フル回転でみんなで楽しくワイワイやって、パタンと逝きたいね」

 仕事は講演が中心だ。

「といっても、月1回くらい。多いときは年100本あり、講演料は1本100万円でやっていました。現役引退後、スポーツキャスターをしながら、オヤジの会社で社員として働き、40歳ごろには社長に就いたんだけど、講演が多くなりすぎて4、5年で弟に任せて退任したほどです」

 ラグビー関係の仕事はしていないのか。

「TOKYO MXで、たまに解説をするくらい。でも観戦するのは大切な試合のときだけ。今のラグビーは大柄な選手のパワー勝負。僕は自分が173センチと小柄だからか、俊敏さとか、かけひきのうまさとか、いろんなタイプの選手がその個性を発揮しながら、それぞれのチームカラーを生かして戦う、そんな試合が見たいんですよ」

 なるほど。

「去年、エディー・ジョーンズがまた日本代表のヘッドコーチに戻ってきた。彼もそんなチームづくりをしようとしているんだと思う。でも、それで成功するには、選手の人数や外国出身選手の数を制限するとか、今のラグビーの根本ルールから変えなきゃいけない」

 それは、なかなか難しそうだ。

 それはそうと、松尾さん、71歳で毎日朝まで飲むとは、タフだなぁ。

「酒は弱いんですよ。現役を引退してから飲めるようになり、今はハイボールをグラスで7、8杯だから。それでも、毎日10時間ぐらいしっかり寝てるし。現役時代に骨折した箇所なんかが、ゴルフをすると痛むけど、ラグビーをするわけじゃないからたいしたことはないですよ」

 25歳のときに結婚した中学の同級生の明子夫人との間に1男1女。孫は5〜12歳の3人いる。

「家族はもうみんな独立してる。僕と奥さんもね(笑)。年3、4回、家族の誰かの誕生日のときに、この店にみんなで集まっています。うちの家族は、それぞれ自分の好きに生きましょう、というクールな考え方なんですよ」

新日本製鉄釜石ラグビー部で79年から85年まで日本選手権7連覇

 さて、東京・恵比寿生まれ、成城育ちの松尾さんは、父親の影響で成城学園小学校5年生からラグビーを始め、目黒高校、明治大学を経て実業団チーム・新日本製鉄釜石ラグビー部(現・日本製鉄釜石シーウェイブス)で活躍。スタンドオフ(司令塔)としてチームを率い、1979年から85年まで日本選手権7連覇を果たすなど、日本のラグビー界を大いに盛り上げた。

「引退後、ラグビー界から遠のいてしまったのは、ラグビー協会との考え方の違いが一因。僕はプロ化をどんどん進めて、選手にお金を回したほうがいい、という考え方。一方、協会は今もアマチュア精神を大事にしている。どっちが良い、悪いじゃない。ラグビーを応援したい気持ちは強いから、一時は普及育成のために協会と協力して活動したけど、やはり考え方が違いすぎました」

■53歳で亡くなった平尾誠二さんも常連だった

 日本代表として共に戦った平尾誠二さんは、2016年、53歳で亡くなった。

「彼を日本代表に選んだのは、キャプテンだった僕。引退後もずっと仲良くし、彼はこの店にしょっちゅう来たし、彼の闘病中は見舞いに行った。でも、僕と仲良くしていると協会に良く思われないから、仲が悪いふりをしろ、と言っていたんですよ」

(取材・文=中野裕子)

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