パラグアイ国立感染症撲滅サービス局の研究室。職員のルイス・フェルナンド・フェレイラさんが、白い錠剤を溶かした水に蚊の幼虫のボウフラを入れていく。30分ほどで効果が表れるはずだったが、1時間がたってもカップの中では数十匹のボウフラが泳ぎ回っていた。
フェレイラさんから「残念ですが、何か問題があるようです。原因を確認してください」と言われ、下川智子さん(48)は「製造過程や輸送環境に問題があるのかもしれない。一つ一つ課題をクリアしていきたい」と語った。
下川さんは、バイオ製品の研究開発を手がける「九州メディカル」(北九州市)の研究開発課長。同社が開発した殺虫剤「MOSNON(モスノン)」をパラグアイの行政機関に採用してもらえるよう、現地を訪れていた。今回で7回目の出張だ。
同国は長年、蚊が媒介するデング熱に悩まされてきた。昨年の発症件数は、疑い例も含めると約25万件に上り、重症化すると死に至ることもある。フェレイラさんは「パラグアイには水はけの悪い排水溝が多く、蚊が大量に繁殖してしまう。改良が進めば、モスノンは有効な殺虫剤になる」と期待を寄せる。
従来は殺虫剤として化学薬剤が用いられてきたが、近年、耐性を持つボウフラが確認されたり、人体や環境への悪影響が懸念されたりしている。その点、同社のモスノンは「微生物由来で環境に優しく、耐性もできにくい。錠剤を水に溶かすだけで使用方法も簡単」(下川さん)という利点があるという。
インドネシアなど東南アジアでモスノンの実用化に成功した同社は2018年、国際協力機構(JICA)が中南米とのビジネス交流を後押しする「民間連携調査団」に下川さんらを派遣。日系人が多く住み、親日的な国であることなどが分かり、パラグアイを拠点に南米への進出を目指すことになった。
同局職員や現地企業の関係者と意見交換を続けてきた下川さん。知り合った人たちは「日本に留学してたよ」「空手を習っている」と親しみを込めて接してくれる。せっかく出張しても相手側の準備不足で予定の実験ができなかったりして「おおらかなラテン気質」に苦労はしているが、「パラグアイの役に立ちたい」との思いは増している。モスノンの改良を重ね、年内に実用化させるのが目標だ。