発売中のNumber1111号に掲載の[盗塁王の視点]福本豊「59盗塁を生んだ『目』と『馬力』」より内容を一部抜粋してお届けします。 「大谷は狙えば盗塁王が獲れる」
「スッとスタートしとる。バーンと蹴って、ガーッといって……」
大谷翔平の盗塁についてオノマトペのオンパレードでそう評するのは、日本が誇る「世界の盗塁王」である。
メジャー史上初の「50-50」を達成した2024年の大谷。特に周りを驚かせたのは、54本塁打よりも「59」という盗塁の数だった。'23年の20盗塁から大幅に増加。夏以降にペースアップし、エリー・デラクルーズ(レッズ)の67盗塁に次ぐナ・リーグ2位の走りっぷりをみせた。
大谷の盗塁はいったい、何がすごいのか。その謎について解説するのは福本豊、御年77歳。通算盗塁数1065個は当時の世界記録で、14年連続50盗塁、'72年には実にシーズン106盗塁をマークした。'70年代の阪急ブレーブス黄金期をリードオフマンとして牽引した伝説の韋駄天である。
「僕は、大谷は元から盗塁できると思うてましたよ。もっと走れと言ったらもっと走りよるでしょう。むしろ、ホームラン50本の方が難しいやろと思ってたぐらいです」
実は福本は数年前から「大谷は狙えば盗塁王が獲れる」と公言し、走塁センスを認めてきた。だから驚きでも何でもないのだ。
「投手の動きをようわかっている証拠」とは?そんな福本が発した冒頭の“擬音”にこそ、大谷の盗塁の真髄が隠されている。
盗塁には「3S」という3つの局面がある。スタート、スピード、スライディング。大谷がもっとも優れているのはどの局面か。この問いに福本は断言した。
「やっぱりスタートや」
まず、大谷の「目」に注目する。
「投手やってるのが大きいんやろね。リーグが変わって知らん投手が多いから普通はなかなか走れないはず。でも躊躇してへんし、タイミングよく走ってるでしょ。ほとんどアウトになってないし、ホンマに研究しとると思う。スッとスタートしとるのは、投手の動きをようわかっている証拠やね」
盗塁の極意は目で盗むこと──。それが福本の持論である。
'60〜'70年代の近鉄のエース左腕、鈴木啓示のクセに気づいたのはプロ3年目だった。鈴木がマウンドから一塁の自分を見る時はホームに投げ、目線が捕手に向く時は牽制球が来る。こうしたライバル投手たちの些細な動きを見抜いたことが、1065盗塁の礎となった。投手として投げる動きを追究してきた大谷が投手のクセをうまく盗んでいることは、容易に想像できるという。
「大谷も盗塁はおもろいと思ったやろね。タブレット端末で見るより、ピッチャーをナマで見た方が雰囲気もリズムもわかりやすい。元々、走るのが好きな選手やしね」
瞬発力は「ヘンダーソンと同じレベルちゃうかな」さらに福本はこう続ける。
「大谷は瞬発力が違うわ」
そこで引き合いに出すのは、自らの通算盗塁数の世界記録を破り、メジャー最多の1406盗塁を誇る名ランナーだ。
「リッキー・ヘンダーソンを見た時、ホンマにビックリした。1歩目をバーンと蹴りだす足の強さ、パワーは日本人じゃ真似できない。でも、大谷はそれを持ってる。ヘンダーソンと同じレベルちゃうかな」
大谷は右足で反動をつけるように地面を蹴り、左足で踏みだす。そのスタートの強さがアメリカのレジェンドに匹敵するという。なお、ヘンダーソンは福本の盟友で、現役時に来日した際は盗塁談義を交わし、'93年には世界新記録樹立の瞬間を現地で見届けた。その姿と重なる大谷の「馬力」も盗塁量産の秘訣だと指摘する。
また、福本は大谷の足元も見逃さない。
文=酒井俊作
photograph by Shunsaku Sakai / Getty Images