50年前、長野県に赴任した頃の著者
長野県はかつて脳卒中が多く、短命で不健康県でした。それが現在のように健康長寿県になったのは、「医療」以外にも、重要な要因があります。
■住民の意識を変え、習慣を変える
ぼくが長野県に赴任したのは、ちょうど50年前。当時の長野県は脳卒中の多発地域でした。医師は懸命に治療しますが、命を救って自宅に帰しても、寝たきりになった患者さんに笑顔はありません。病気になってから治療するよりも、病気にならないようにすることが大切だと気づきました。
病院の仕事が終わると、公民館に行き、住民の人たちに「脳卒中で死なないために」という講演をして歩きました。その数、年間80回。
「先生の話はわかりやすい。減塩の大切さがわかりました」と喜んでくれました。しかし、その直後、お茶うけの野沢菜の漬物にしょうゆをドバドバッとかけるのです。一度身に着いた習慣を変えるのは容易ではないことを実感しました。
そこで考えたのが、野菜をたっぷり入れた具だくさんみそ汁です。野菜に含まれるカリウムは、体内のナトリウムを尿として排出する働きがあるので、野菜を食べると減塩と同じ効果があります。
この具だくさんみそ汁は、女性陣にはすぐに受け入れられましたが、男性陣は「みそ汁はおふくろの味がいい」と抵抗。それでも根気強く、交流を深め、「地域を健康にしたい」と熱く夢を語ることで、賛同してくれる男性が増え、少しずつ意識が変わっていったのです。
短命だった長野県が、男性が平均寿命1位、女性が4位になったのは1990年。16年間かかりました。その20年後の2010年には男女ともに1位になりました。
国民健康保険中央会の健康寿命でも、22年は男女ともに全国1位。男性は2年連続、女性は7年連続1位です。
■高齢者が働き続けられる地域づくり
なぜ、長野県は健康長寿になったのか。専門家はその理由の一つとして、高齢者の就業率の高さを挙げています。高齢者就業率は全国平均26・5%なのに対して、長野県は31・6%とダントツに高いのです。
慶応義塾大学の研究によると、定年退職後も働く人のほうが健康で寿命が長く、認知症も脳卒中も少ないことがわかりました。
長野県では、高齢になっても自分のペースで農業をし、作物を産直市場に出して収入を得るしくみができています。働くことで体と心の健康が維持でき、お金を得ることで満足感も得られます。それを無理なく続けられる地域をつくっていくことも、これからの健康づくりには必要な視点だと思います。
地域を健康にするには、医療だけでは不十分です。住民の意識も、地域も一体となって取り組むことで、いくつになっても元気に暮らせる地域ができるのではないでしょうか。
3月21日午後1時から、佐賀市文化会館で「鎌田實のがんばらない健康実践塾第18回講演会」があります。毎週水曜午後5時から「幸せの処方箋」(えびすFM)で、健康についてお話しています。ぜひ、お聞きください。
■かまた・みのる
1948年、東京生まれ。30代で諏訪中央病院院長に就き、「地域包括ケア」を実践するなどして、脳卒中死亡率が高かった長野県の長寿日本一に貢献した。現在は同病院名誉院長。『がんばらない』『雪とパイナップル』など著書多数。
【お知らせ】鎌田實さんのコラムは、毎月第3月曜日に掲載します。