トビハゼ 撮影・加藤俊英
ムツゴロウと並び、有明海の泥干潟でよく見られるおなじみのハゼ科の魚である。
佐賀での研究によると、本種の繁殖期は6〜8月であり、この時季のオスはJ字型の巣穴を掘り、その中で卵を保護する。巣内に空気を運び入れ、卵に酸素を供給するほか、巣の周囲20〜40センチの範囲を縄張りとし、他個体を追い払うことにより卵の安全を確保する。
巣穴は、干潟の中でもやや岸寄りで、5時間程度は水没し、7〜8時間程度は干上がるような場所にもっとも多くつくられる。
水没する時間が長すぎると空気の持ち込みが不十分になり、酸素不足が生じる恐れがあるのに対し、短すぎると乾燥して卵が傷んだり、仔魚(しぎょ)がうまく分散できなかったりするため、絶妙なバランスが必要なのだろう。
一方、繁殖期のメスは、オスの巣穴を訪れて産卵した後はその場を離れ、潮の満ち引きに合わせて干潟を移動する。とくに餌が豊富な水際には多くの個体が集まり、採餌に励む様子が見られる。
このようなオスのみによる卵や子の保護行動は、魚類では一般的によく見られる現象である。
他の多くの魚類と同様に、トビハゼも体外受精をするため、自身の巣穴で受精した卵は確実にそのオスの子といえ、守る価値が高いと考えられる。また、メスにとっては、オスが卵を守ってくれる場合、次の繁殖に備えてしっかり栄養をとる方が、より多くの子孫を残すことにつながると考えられる。
育児放棄をしているかのようなメスの行動に違和感を覚えるかもしれないが、その生き物の生態と、いかに自身の子孫を多く、確実に残すか、という視点で見れば理にかなっており、その生き物が歩んできた進化の歴史の産物であるといえよう。
(佐賀大農学部教授) =毎週日曜掲載