エムバペよりも“崇拝”される監督の下で変貌したパリSG。スターシステムに終止符、指揮官が新たな顔に【現地発コラム】


 2022年春、パリ・サンジェルマンがサンティアゴ・ベルナベウでチャンピオンズリーグ(CL)から敗退する前だった。当時チームを率いていたマウリシオ・ポチェッティーノは唇を噛みしめるような表情で胸に手を当てながら、ユニホームについているエンブレムを指して「これは」と切り出すと、「どんな個よりも優先されるべきものだ」と述べた。

 アルゼンチン人指揮官は選手たちの存在がクラブよりも大きくなっていたことを誰よりも痛感していた。いや、彼だけではない。トーマス・トゥヘル、ウナイ・エメリ、ローラン・ブラン、カルロ・アンチェロッティといった他の歴代監督も同様だった。パリは長くオーナーであるカタール王室の意向により、ビッグスターたちのために存在しているクラブで、監督の運命は、ズラタン・イブラヒモビッチ、ネイマール、キリアン・エムバペら選手たちに委ねられていた。

 そのパリが変わった。リオネル・メッシとネイマールに続いて、昨夏、エムバペがクラブを去った。スターシステムに終止符を打ち、ルイス・エンリケ監督が新たなにチームの顔となった。 昨夏、スター選手不在の陣容について尋ねられた指揮官は、「我々はより強くなる!」と自信を覗かせたが、CLでの戦いぶりは、彼のその言葉を裏付けている。

「カタール人がやって来て以来、最高のパリだ」、レジェンドOBで、監督も務めた経験もあるルイス・フェルナンデス氏は強調するとさらにこう続ける。

「人々がルイス・エンリケを愛しているのは、彼が素晴らしい仕事をして、結果でそれを証明しているからだ。選手たちは強いエネルギーを発している。チームスピリットが変化した」
 
 ルイス・エンリケはかねてからエムバペのような絶対的なエースがチームを去った場合、他の選手が不慣れな中でも重責を担うことが、ポジティブなダイナミズムが生まれ、チーム全体の底上げに繋がっていくと主張していた。その変貌ぶりは、精神的支柱となる選手が前線から中盤に移ったことからも伺える。ヴィティーニャ、ジョアン・ネべス、ファビアン・ルイスがそうで、彼らはチームプレーや規律を率先して実践している。

 サッカー専門誌『Les Dossiers de l'Afterfoot』の編集長で、フランスサッカーに関する著書も数冊刊行している哲学者ティボ・ルプラ氏はエムバペと比較しながら、ルイス・エンリケの人気について次のように分析する。

「エムバペは好かれようとして逆の事態を招き、嫌われることが大好きなルイス・エンリケは人気者になった。ファンは、チームの顔がエムバペからルイス・エンリケに変わったことで大喜びだ。公の場でフランス語を話さないことも彼を助けている。フランス語で話そうとしたエメリは嘲笑の的になった。言葉は壁にもなるが、フィルターにもなる。ルイス・エンリケの場合はいいフィルターになっている」
 
 サッカー専門誌『So Foot』の編集長ハビエル・プリエト・サントス氏も同じくルイス・エンリケの無頓着さに着目する。

「ルイス・エンリケはフランスで最も注目度の高いクラブに雇われたというのに、そのことをまるで気にしていないように振る舞っている。エムバペを失うことも気にしていなかった。彼がいない方がいいプレーができると発言していた。パリの歴史は無限の失望の連続であるにもかかわらず、CLでリーグフェーズ敗退の危機に瀕した時も気にしていなかった。ルイス・エンリケがパリで果たしている役割は心理役者のようでもある。空気を和らげ、リーグ・アン一の応援団長となった」

 ナセル・アル・ケライフィ会長はCLリーグフェーズ第7節でマンチェスター・シティに勝利(4−2)した後に「ルイス・エンリケは世界最高の監督だ」と語った。彼はいち監督をこれほどまでに褒めたことはなかった。
 
 そのアル・ケライフィに近しい関係者は、ルイス・エンリケの人物像について「アドレナリン中毒者で、お金に興味がない。物質的なことを考えるのは、家族や友人がいるからだ。彼一人だけなら橋の下で暮らすことも厭わないだろう」と明かす。

 ルイス・エンリケはパリで充実した毎日を送っている。若い選手たちに囲まれながら、大きな注目を集めていることに、興奮を隠しきれない様子だ。ただ相変わらず平穏とは無縁の人物であり続けている。

 リバプールとのラウンド16の第1レグに向けた前日練習が終わると、クラブの公式YouTubeチャンネルの女性レポーターが「おはようございます。お元気ですか?」と尋ねると、不思議なことにフランス語で彼は答えた。その言葉はまるで「ビリッ」と電流が流れるような感覚を起こさせた。

「準備万端だ!」

文●:ディエゴ・トーレス(エル・パイス紙)

翻訳●下村正幸

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