[GⅠフェブラリーステークス=2025年2月23日(日曜)東京競馬場、ダート1600メートル(4歳上)]
2014年のGⅠフェブラリーSは、競馬の神様のほんのわずかなさじ加減で、結果が大きく変わった一戦だった。
この年、田辺裕信騎手はテスタマッタに騎乗する予定だった。同馬はこのダートGⅠの2年前のチャンピオン。当然、期待がかかっていた。ところが、決戦を目前に思わぬ事態に襲われる。テスタマッタが屈腱炎を発症し、突然の引退を余儀なくされたのだ。
当時、まだGⅠ勝ちのなかった田辺騎手。この機会もまた、ビッグタイトルには縁がないまま終わるかと思われた。しかし、禍福はあざなえる縄のごとし。田辺騎手に救いの手を差し伸べたのは、テスタマッタを管理する村山明調教師だった。彼は、もう一頭の管理馬コパノリッキーの鞍上に、田辺騎手をそのままスライドさせたのだ。
もっとも、コパノリッキーは必ずしも出走できるわけではなかった。賞金順による除外対象馬で、出走の可否は抽選に委ねられていた。村山調教師は当時、こう語っていた。
「もともと別のレースに出走させるつもりでしたが、フェブラリーSも抽選で使えるかもしれないというので、念のため登録しました」
結果、コパノリッキーは2分の1の運をつかみ、見事に大舞台への出走権を手にした。そして田辺騎手との新コンビで挑んだ本番では、その幸運を最大限に生かし、真っ先にゴールへと飛び込んだ。単勝オッズは実に272・1倍。16頭立て最低16番人気の伏兵が、大波乱を巻き起こし、田辺騎手に自身初のGⅠタイトルをもたらしたのだった。
そんな歴史的勝利をともにした村山調教師も、現在は53歳。定年までまだ時間はあるものの、このたび3月4日付での勇退が発表された。あの奇跡のような一戦を思い返すと、早過ぎる決断が惜しまれてならない。(平松さとし)
著者:東スポ競馬編集部