●猛烈にリツイートされたブログ記事

 いま、多くの大学が危機の時代を迎えています。少子高齢化や公的研究費の減少などに応じるため、日本の大学は、経営の「改革」や「自立」が強く求められているのです。

 とはいえ、「教育」と「経営」のバランスを保つのは容易ではありません。経営の効率化をはかろうとすると、時には大きな矛盾を抱えることになり、「文系不要論」といった極端な考え方も現実に浮上してきています。

 そもそも、大学は役に立つのか。かつては素通りできた、こうした根本を問う難題に対して、大学はいま、説得力のある回答ができなければ、生き残っていけません。

 名古屋大学人文学研究科准教授・日比嘉高氏は、『いま、大学で何が起こっているのか』(日比嘉高著、ひつじ書房)において、経営の強化を強要する大学改革に異議を唱え、「大学は役に立つのか?」という難しい問いに対しても真摯に回答することを試みています。

 本書は日比氏がブログで書いた記事がウェブ上で大きな反響を呼び、雑誌や新聞でも取り上げられて、ついには出版される運びとなりました。

●「役に立つ・立たない」をどうやって決めるのか

 日比氏は、「大学は役に立つのか?」という問いに対して、「世の中の考え方には『基礎』があり、『応用・発展』があり、『変遷』がある」「判断を下すためのポイントは複数あるのが普通である」「まともな成果を出すには手間暇がかかる」「芽が出るのか出ないのかわからないさまざまな種がある」「何かしなければならないという強い責務がない状態は大事だ」という5つの論点を示し、「役に立つ・立たない」の結論は急がずに、大学で学ぶ人の「人生のあらゆる場面、あらゆる期間において考えてみよう」と提起しています。

 日比さんの指摘の通り、たしかに「大学は役に立つのか?」と問うならば、それを問う前に、「役に立つ・立たない」をどうやって判定するのかという問いにまず応じる必要があるでしょう。

●文系科目も役に立つ

 効率化や合理化による矛盾や軋轢は、大学だけに起こっていることではありません。さまざまな分野や組織が抱える悩みだと思います。

 そのとき大事なことは、ただ一方的に質問したり、押し付けたりするのではなく、「大学は役に立つのか?」に対して「役に立つ・立たない」をどうやって判定するのか、というような問いの交換を重ねて、相互理解を深めていくことではないでしょうか。ただし、日比氏のように的確な問いを生み出すためには、言葉の力がいります。日比氏は日本文学の研究者であり、文学を通して言葉を磨いてきました。文系科目の文学研究もこうして役に立つのです。

 現在の大学の危機について考えることは、私たちがついつい結果や効率に走ってしまう悪い癖を反省する良い機会にもなります。しかし、社会人にとって、結果や効率のがんじがらめから逃れるのは簡単なことではありません。

 それについて、「『遊び』の力を、私たちはもっと見直すべきだ」と、日比氏は日々の利害関係から離れた「遊び」の可能性を指摘しています。

 また、「<アソビ>の自由さの中からこそ、創造的な発想が生まれる」とも述べています。もちろん、効率も大事ですが、あえて遊びを含ませることで、より良い結果が得られるということもあるはずです。みなさんもぜひ、戦略的に、バランス良く、仕事や日常に遊びを取り入れてみてください。

<参考文献>
『いま、大学で何が起こっているのか』(日比嘉高著、ひつじ書房)

<関連サイト>
日比嘉高研究室