人生100年が夢ではなくなってきた現在、ただ平均寿命が延びるだけでなく、健康に生きられる年数が延びることは、誰しもの関心事項です。いま老年医学の世界で注目されているのは「フレイル」という状態。健常な状態と日常生活でサポートが必要な要介護状態との間にある、身体的・精神的・社会的に虚弱になった状況を指します。

 注目されているのは、これまで「歳だから弱っても仕方がない」とみなされてきた状態が治療によって改善でき、また予防もできる点です。生き生きとした老後を送るために、私たちは何に気をつければいいのでしょうか。国家公務員共済組合連合会虎の門病院院長の大内尉義氏の講話を参考にしてみました。

●フレイル予防は「運動」「栄養」「社会参加」の三位一体

 フレイルは、日本老年医学会が2014年に提唱した言葉です。多くの高齢者は健常な状態から、筋力が衰える「サルコペニア」という状態になり、握力や歩行速度が低下してきます。サルコペニアが進行すると転倒などをきっかけとして活動の低下が生じやすく、生活機能が全般に衰える「フレイル」となり、要介護状態に至るという理解に基づいています。

 フレイルを予防するポイントは「運動」「栄養」「社会参加」の三位一体だといわれています。筋肉を増やすためにはウォーキングなどの有酸素運動とともに筋トレも必要とされ、食事では十分なタンパク質の摂取が奨励されています。

 これだけでも従来の「高齢者」イメージをくつがえしますが、さらに注目されるのは社会参加。人は高齢になるにつれ社会と接するのがおっくうになりがちですが、家に閉じこもってばかりいるとうつ傾向に陥りがちです。仕事や趣味、ボランティアなど、さまざまな活動に積極的に参加していくことが、重要なフレイル対策になると研究されています。

●「オーラル・フレイル」に要注意

 「オーラル・フレイル」は、口腔機能の低下がサルコペニアやフレイルにもたらす関係に着目して、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授が提唱した概念です。

 ものがかみにくくなると、自分のかめるものだけを好んで食べるようになるため、かむ機能はますます衰え、食事の質が低下して栄養不足に陥っていきます。それにより、かむ機能や飲み込む機能はさらに悪くなるという悪循環が続きます。これは、どこかで断ち切る必要があるのです。

 歯科医を定期的に受診して、虫歯の治療や入れ歯のチェックは念入りにしてもらいましょう。ちゃんと「歯でものがかめる」「のみ込める」ためには、自分の歯の残り本数やあごのかみ合わせだけでなく、舌やのどなどの筋肉が協調することが大切です。

 かむ力、舌を上あごにつける力、舌の動きなどの機能はすべて加齢とともに低下するものですが、自覚的に鍛えていくと効果はあります。例えば多くの病院や施設で取り入れられているのが「パタカラ体操」。「パ、パ、パ」「タ、タ、タ」「カ、カ、カ」「ラ、ラ、ラ」と連続して発声することで、舌の動きを速く保ち、食べるときに働く筋肉を鍛えることができます。

 姥捨てを描いた深沢七郎の小説『楢山節考』には、主人公の“おりん”が、70歳を目前にしても丈夫な自分の歯を石で砕くシーンがありました。しっかり食べられる歯をそろえていることが全身の健康の証であり、健康長寿の秘訣であることは、昔からの庶民の知恵そのものです。