2000年6月にヒトゲノムの解読計画がほぼ終わったと発表され、話題となりました。このことにより遺伝子の研究は一層進化し、さまざまな病気の原因解明や新しい薬の開発が進んでいるのですから、今や「ゲノム」は私たち人類の明るい未来を象徴するキーワードの一つとなっているといえるでしょう。

 しかし、よく耳にするようにはなったものの、いざ「ゲノム」って何?と聞かれると答えに窮する人もいるのではないでしょうか。そもそもゲノムとは何か、また、解析研究の進んでいるヒトゲノムとはどういったものなのでしょう。

●そもそもゲノムとは?

 ゲノムは遺伝子とほぼ同じと思ってしまいがちですが、実はゲノムという言葉は、遺伝子(gene)、及び染色体(chromosome)を意味する2つのドイツ語を合成してできた言葉です。ヒトゲノムは文字どおりヒトが持っているゲノムということになります。

 私たちの体は細胞で成り立っていますが、その細胞には核があり、その核の中にあるのが染色体です。この染色体の中に、デオキシリボ核酸という物質(いわゆるDNA)が存在していて、そこにタンパク質の設計図が書かれている部分が遺伝子です。さらに、その遺伝子の情報とタンパク質以外の情報をすべてひっくるめた遺伝情報の全体を「ゲノム」と呼んでいるのです。

●ヒトゲノムの99.9パーセントが共通部分

 国立遺伝学研究所集団遺伝研究室教授で遺伝学者の斎藤成也氏によれば、ヒトゲノムは約32億個あるといわれ、その核の部分(核ゲノム)のちょっとした違い(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)が人間の個々人の差となっているのですが、この違いのある部分はゲノムのうちのわずか0.1パーセント。つまり、99.9パーセント以上、私たちは共通のゲノムを持っているということになるのです。それだけでなく、チンパンジーとも99パーセント共通のゲノムを持っていることが分かっています。

 そもそもゲノムには染色体に書き込まれた遺伝情報がすべて反映されているわけですから、ヒトゲノムの情報量は膨大です。その膨大な情報量を持った32億個のゲノムの0.1パーセントであるならば、割合は少なくても数にすれば数百万個になるわけです。そして、この数百万個が持つ情報の差異が、たとえば、個々人の「太りやすい、太りにくい」「ある病気にかかりやすい、かかりにくい」という違いに影響している可能性があるので、やはりゲノム研究は人類の大いなる関心の対象だと言えるでしょう。

●赤の他人もさかのぼれば皆、親戚!?

 ところで、このようにわれわれ人類は遺伝子の観点から見て「ほとんど同じ」なのですが、生物学的に見ても、さかのぼれば赤の他人ではなく皆、親戚同士になるのだそうです。

 たとえば、もし曽祖父と曾祖母がいとこ同士で結婚した場合、その父親か母親のどちらかが兄弟だったということになります。するとその一代前は同一の両親ということになり、こうしたことがあちこちで何代にも渡って繰り返されれば、祖先は自ずと重なってきます。逆にこうしたことがなければ、祖先は膨大に膨れ上がって、当時の人口をはるかに超える数のヒトがいたことになってしまいます。しかし、そうはなっていません。つまり、これは先述した重なり現象によるもので、実は人類に限らず有性生殖、すなわち父親と母親、雄と雌から生まれる生物全般に言えることなのです。

 このように生物学的にみると、私たち人類はさかのぼれば皆、親戚と言えるわけで、また、遺伝学上から見ても前述したようにヒトとチンパンジーはゲノムの99パーセントを共有しており、これもまた、「さかのぼれば親戚同士」の証です。さらに言えば、チンパンジーだけでなく多くの生物がヒトと共通のゲノムを有するため、どんどんさかのぼれば「生物の大きな共通性を生みだす源にたどりつく」と斉藤氏は言います。

 かつて、チャールズ・ダーウィンはさまざまな生物が共通祖先から枝分かれを繰り返しながら進化してきたとする「生命の樹」仮説を打ち立てましたが、どうやら遺伝学上から見ても「人類、生きとし生けるもの皆、兄弟」という言葉は、ある真実を告げているように思えます。