中国通信機器大手ファーウェイが5月18日夜、社内向け文書で幹部人事の異動を発表した。任正非総裁の承認を経て、ファーウェイクラウド事業部(BU)の最高経営責任者(CEO)が余承東(リチャード・ユー)氏から張平安氏に交代し、同事業部の董事長に同社輪番董事長の徐直軍(エリック・シュー)氏が就任したとの内容だ。

余氏は消費者事業グループ(BG)および新設されたスマートカーソリューション事業部のCEOも兼任する。同事業部の総裁には王軍氏が着任した。今回の人事異動は、余氏が今年1月にクラウド・コンピューティング事業グループの総裁に着任してからわずか3カ月弱の出来事だった。

ファーウェイはまた、サーバー事業やメモリー事業などを「インターネット製品・ソリューション」部門に編入し、「ICT製品・ソリューション」部門に改めるなどの組織改編を行っている。

ファーウェイ旧組織図(4月2日時点、図版は同社提供) ファーウェイ現組織図(4月9日の組織再編後、図版は「雲頭条(Yuntoutiao)」より)

ファーウェイクラウド事業部の組織構造はより単純化され、2017年当時のクラウド事業グループと同様の状態に戻り、今後はソフトウエアに関するサービスに特化することとなる。また、張氏が同事業部を正式に掌握し、余氏はファーウェイが次の主戦場と位置付ける自動車関連事業に軸足を移している。

泥沼のような現状から脱却しようともがくファーウェイにとって、クラウド事業と自動車関連事業が極めて重要であることが見て取れるだろう。

山積する課題

米調査会社「ガートナー(Gartner)」が今年4月に発表したリポート「Market Share:IT Services, Worldwide 2020」によると、IaaS市場におけるファーウェイの順位は中国2位、世界5位に上昇している。中国のパブリッククラウド市場では長年、アリババクラウド、テンセントクラウド、チャイナテレコムの3社がシェア上位を独占してきたが、その構図に風穴を空けた形だ。

ファーウェイクラウドは昨年12月時点で、クラウドサービス220項目以上とソリューション210項目以上を提供。1万9000社以上と提携し、開発者160万人を抱え、クラウド市場にアプリ4000種以上をリリースしている。

これまで紆余曲折はあったものの、ファーウェイは現在も相当な優位性を保持している。昨年はコロナ禍の影響で、クラウドメーカー各社が政府系企業に食い込んだ。ファーウェイクラウドは以前から、政府系企業向け事業におけるチャネルや顧客との関係を積み上げてきた。昨年の急成長も大半が政府系企業向け事業によるものだった。

クラウド事業と同様、エッジコンピューティング事業も将来的な可能性に満ちている。5GやIoTに関する技術の成熟と活用が進む中、エッジコンピューティングへの関心が高まっている。ファーウェイクラウドは、かなり早い時期からエッジコンピューティングにつながる「クラウドエッジ」戦略を打ち出していた。アリババクラウドなど電子商取引(EC)事業を基盤とするクラウドメーカーと比べれば、デバイスメーカー傘下のファーウェイクラウドにイニシアチブがあるだろう。

しかし、課題も山積している。ファーウェイクラウドも安閑としてはいられない。パブリッククラウド市場は今後、「勝者総取り」状態になるとみられている。ファーウェイクラウドは世界シェア5位になったとはいえ、すでにライバルとの差は開いてしまっている。アリババクラウドの2021会計年度(20年4月1日から21年3月31日まで)の売上高は前年度の1.5倍に伸び、601億2000万元(約1兆円)に達している。市場調査会社「Canalys」によると、2020年第4四半期の中国国内市場シェアは40.3%だった。

図版はCanalys提供

アリババクラウドやテンセントクラウドは、自前のアプリケーションエコシステムを背景に、膨大な数の法人顧客を抱えている。ファーウェイクラウドが追いつくのは困難だ。その上、世界的に見てもクラウド事業で成功したデバイスメーカーの例は見当たらない。

ファーウェイは消費者事業の低迷により、営業活動によるキャッシュフローを大幅に減らしている。だが、クラウド事業には莫大な投資が必要になる。今年に入り、アリババクラウドは今後3年間で2000億元(約3兆4000億円)をクラウドコンピューティングに投じると発表。テンセントも今後5年間で5000億元(約8兆5000億円)を投じる方針を明らかにしている。一方で、ファーウェイクラウドは資金難に直面している。昨年末時点の計算書上のキャッシュフローは352億元(約6000億円)で、過去5年で最低水準だった。

内部向けの発言だが、任総裁は「われわれがアリババやAmazonと同じ道を歩むのは簡単ではない。われわれの資金は限られているからだ」と述べている。ファーウェイクラウドは独自の道を切り開く必要があるのだ。ここで言う独自の道が、政府系企業向け市場に向かうのか、IoT市場に向かうのか、はたまた従来型産業に向かうのかはまだ分からない。

ファーウェイクラウドが競合他社との本格的な競争を始めるのは、戦略が明確になってからになるだろう。
(翻訳・田村広子)