新型コロナウイルスの世界的なまん延も相まって、働き方改革の重要性がさらに叫ばれる。ただ、企業が旗を振っても、8割近くの人は9カ月で元の働き方に戻っているのが実態だという。2017年11月〜20年5月にかけて製造業や情報・通信サービス業など25社1・8万人の働き方を調査した企業の越川慎司代表によると、短時間で成果を挙げる上位5%の社員には、シンプルな「働き方改革」を実践する共通点が多く見つかったそうだ。『AIでわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)にまとめた、仕事が「できるやつ」の秘密と「できるやつ」になれぬ95%の愚行とは。

  ■消えた電気を付け直す社員たち

 働き方改革が叫ばれた当初は「19時消灯」といったことを掲げる企業や自治体が多くありました。しかし、働き方を変えずに消灯しても、近くのカフェで隠れ残業する社員が増えるだけ。実際、上からの指示に従う働き方改革では、腹落ちしない78%もの社員が9カ月ほどで消えた電気を付け直すようになりました。

 働き方改革で目指すべきは、限られた時間の中で大きな成果を残すことです。つまり、すごいのは、早く帰っているのに成果を出している人。1・8万人の仕事への取り組みや態度をAIも使って調査したところ、人事評価で上位5%に入る、いわゆる「できる」社員たちは、優れた働き方を実践していることが分かりました。

  ■「よかれと思って」評価されぬ社員たちの妄想

 夜遅くまで残業して溜まった仕事を片付けたとき、達成感を感じる―。これが、上位5%に入れない社員の多くが陥る状態です。中には「残業や休日出勤をアピールすれば認められる」とどこかで思い込んでいる人たちがいます。

 「資料をしっかり作らないと、上司に怒られるのではないか」と、過剰な気遣いや妄想で重要”そうな”資料を作っている場合も多いです。実際は、役員会議のために気合を入れて資料を作っても、2割はめくられることすらありません。

 さらに、休日でもこまめにメールチェックをして、いつでも仕事をしている自分に酔いしれてしまう傾向にあります。総じて物事の緊急性のみに目がいき、重要性が低くても手を出してしまいます。「仕事をたくさんする」ことがよいのだと勘違いしています。

 一方で、上位5%のうち73%が達成感を感じるポイントは、資料を作り終えたときではなく、資料によって契約が取れたり相手を動かしたりして成果が出てからでした。終電で帰宅しているという自虐ネタをSNSでつぶやくこともありません。上位5%は仕事の質を重視するのに対し、ほかの社員は仕事の量を追求しがちなのです。

  ■仕事の効率が高いのは「金曜日」

 また、上位5%は、休日にしっかり脳を休めて月曜からフル稼働できるようにしています。金曜日に1週間を振り返って「やめる作業」を決める人が、上位5%のうち30%以上いました。追加で調査したところ、この金曜日にやめた作業が「結果的に必要なかった」という人が83%もおり、彼らの判断は正しく、仕事の効率を高める結果を生んだわけです。

 問題が発生したときの対処方法も異なります。上位5%は「なぜその問題が発生したのか?」と発生原因(WHY)を追求した上で、問題の本質を捉えて根本から解決しようとします。

 一般社員はすぐに「どうやって問題を解決しようか」とすぐに解決策(HOW)を考えてしまうので、一時的に解決できてもまた同じ問題が再発してしまいます。根本解決を目指す上位5%と、表面的な解決をする95%で成果と評価に差が出るのは当然のように思えます。

  ■「5%」の社員が恐れること

 端からは「恐れるものは何もない」ように見える上位5%が、恐れていることもあります。思考停止することです。例えば、大企業の中で社内のルールに従ってばかりいると、社外の情勢がわからなくなってしまう、といったことです。周りが見えなくなるのが嫌なのです。

 だからこそ、上位5%はアンテナを高くしています。社外の情報も定期的に仕入れ、ITツールや人脈を使って自然に情報が入ってくる仕組みを持っています。世の中の動きを敏感に感じ取り、それに合わせて自分の考えや行動を変えることが正しいと思っています。

  ■上位5%が、ほかの社員の9・2倍の頻度でやること

 上位5%は、自分を客観的に見つめるために、自身の行動を振り返る習慣を持っています。少なくとも2週間に1回は自分の仕事内容とその結果を内省しており、一般の社員よりも9・2倍の頻度で振り返る時間を設けていました。その振り返り時間は15分程度で、そこから得た反省と学びを次からの行動に生かそうとしているのです。 

 「自分はなぜこういう判断をして、なぜこの結果を招いたのだろう。次はどうすればいいんだろう」と自分に問います。社内会議や資料作成、メール処理といった仕事では、振り返らないと意味があったかどうかは分からないものです。なぜ失敗したのか、その発生原因は何か、どうすれば最短距離で成果を残せるようになるか、ということを考えながら行動を修正していました。

 単に成功した、失敗した、で終わっていては何も教訓が得られないことを理解しています。たとえ成功しても内省をして、再現性のある成功パターンを会得しようとします。

  ■「内省タイム」導入で8%減ったもの

 この上位5%が実践している振り返り時間を「内省タイム」として、クライアント28社16万人に浸透させました。1週間に15分だけ「内省タイム」を作り、会議を入れず作業を止めるのです。この時間はコーヒーを飲んでもタバコを吸っても構いません。しかし、しっかり自分の仕事を内省する時間を強制的に確保してもらいました。最初は抵抗する人もいましたが、続けていくと「止まって考える時間は意外と良かった」という感想が出てきます。これは、行動変容のサインです。何かしら試してみたら思っていた以上に良かったのでしょう。意識を変える前に行動を変えると、結果的に意識が変わるのです。

 実際に、この「内省タイム」によって、会議と資料作成の時間は減りました。アジェンダがない会議をやめて、凝り過ぎた資料も減りました。28社で2か月間トライアルをしたところ、平均で8%以上の労働時間が減り、対話や研修の時間に割り振ることができました。

  ■「できるわけない」が間違いな理由

 「環境など条件が違うから、一般社員に適用させることなんてできるわけない」思う人もいるでしょう。しかし、上位5%の調査で導き出したシンプルな行動パターンは「内省タイム」以外でも78%の社員が「生産性が上がった」と答えたのです。生産性が落ちやすいテレワーク環境でも「成果が出るようになった」と答えた人は61%もいました。「重要そうな」資料を省いたシンプルな提案書で、成約率が22%上がった人もいます。再現できた成功例は多数ありました。

 突出した成果を出した人は、しばしば「できるやつ」と特別扱いされるかもしれません。しかし、彼らが会得したコツは他の人でもマネできるのです。

  ■「働きアリ」からの脱出、求められる力は

 会社勤めでも成果を残していけば、会社や上司から「自由と責任」を得て昇進したり、異動して新たな挑戦ができたりもします。選択肢が複数あれば「自分のしたいこと」と「自分のできること」を基にして自分で選べるのです。上から言われて嫌々仕事をすることは少なくなりますので、我慢労働をする働きアリから脱出できます。

 上位5%のシンプルな行動パターンは、すぐにパッと魔法のように成果が出るわけではありません。成功に向けた行動実験をするための材料です。変化が激しく不確実な時代では、行動実験と内省によって、しなやかに変化に対応していけばよいのです。(越川慎司=クロスリバー社長)